斬り抜ける 1974年(昭和49年) ドラマ傑作選
作州松平藩士・楢井俊平(近藤正臣)は、藩主・丹波守の命により、親友・森千之助を斬った。
だが、千之助を斬った後、俊平は、上意討ちの真の理由を知り、愕然とする。
それは、千之助の妻・菊(和泉雅子)を我物にしようとする丹波守の下心からのものだった。
俊平は、丹波守の非道を幕府に訴えようと、菊とその一子・太一郎を連れて、江戸へ向かう。
それに対し、丹波守は、俊平と菊が不義密通を働いて友を殺したという汚名をでっちあげる。
そして、殺害された千之助の父・嘉兵衛と弟・伝八郎(岸田森)を追っ手として差し向ける。
さらに、俊平らの手配書を発布し、幕府に訴えようとする二人を追い詰めようとするのだった。
藩主の命で心ならずも親友を上意討ちにした俊平(近藤正臣)だが、藩主の横暴を幕府に
訴えるべく、親友の妻・菊(和泉雅子)とその子供を連れて脱藩する。
幼馴染であった俊平と菊の間には、元から恋情があった。そんな二人が長い道中を、命に危険を
抱きながら、旅を続けるのだから、想いは強くなる一方である。
だが、菊の夫は故人、しかも、その夫を殺したのは俊平であった。逃亡の中、お互いどれだけ
惹かれあっても、一線を越えてしまえば、本当の不義者になってしまうのだった。
そんな二人の葛藤が全編を貫いており、時代劇では珍しく、切ないメロドラマ仕立になっている。
俊平らは道中で、無宿人・よろず屋の弥吉(火野正平)と、浪人・鋭三郎(志垣太郎)に出会う
のだが、この二人のキャラクターが、暗く沈みがちなストーリーに明るさを与えている。
一方、追手側は、殺害された千之助の父で、俊平の剣の師匠でもある森嘉兵衛(佐藤慶)と、
彼の妾腹の子、森伝八郎(岸田森)の二人だった。
嘉兵衛は、息子・太一郎に、何とか家督を継がせようと思うが、妾腹の伝八郎は、自分が家督を
継ぎたいために、三人の皆殺しを謀ろうとする。
こうした歪んだ冷酷なキャラクターを演じさせたら、岸田森の独壇場といってよい。
この追手の二人に加えて、街道という街道では、俊平を待ち伏せていた松平藩の刺客たちが、
次々と襲いかかってくるのだった。
本作は、俊平と菊の純愛の行方と、追手や刺客に追われる逃亡劇というスリリングな展開が
多くの視聴者の反響を呼び、最後まで息をもつかせない傑作娯楽時代劇となった。
(制作)ABC(朝日放送)松竹(原作)(脚本)大工原正泰、横光晃
(主題歌)ザ・ブレッスン・フォー「この愛に生きて」(作詞:悠木圭子、作曲:鈴木淳)
(配役)楢井俊平(近藤正臣)森千之助(岩崎信忠)森菊(和泉雅子)太一郎(岡本崇)森嘉兵衛(佐藤慶)
森伝八郎(岸田森)松平丹波守(菅貫太郎)よろずやの弥吉(火野正平)道家鋭三郎(志垣太郎)おしん(田坂都)