狐と笛吹き 1955年(昭和30年) ドラマ傑作選


桜の舞う宴席で、亡き妻の思い出に一人沈み込んでいた笛の楽人・春方(松本幸四郎)の前に
友人が連れて来たのは、亡き妻に瓜二つのともね(若尾文子)という娘だった。
春方の身の回りの世話をするようになったともねは、春方が妻に思いを残している事に嫉妬し、
形見の琴を燃やしてしまう。
そんな一途なともねを春方も愛するようになり、夫婦になろうと決心する。
しかし、ともねは実は、春方に命を助けてもらった狐の化身だった。
人間と情を交えると命を失うと知り、春方もそれを承知する。
だがある夜、御前演奏の選に漏れた失意から、ともねを求め、二人は契りを結んでしまう。
夜が明けた朝、森の中で狐の亡骸を見つけた春方は、ひたすら慟哭するのだった。
本作は、妻を失った楽人・春方(松本)と、狐の化身・ともね(若尾)との哀しい恋物語を
描いた作品で、1955年度の文化庁芸術祭、放送部門の奨励賞を受賞した。
当時、歌舞伎界の大物と大映スター女優の顔合わせということで大きな話題となった。
共演として、春日俊二、荒木玉枝、牟田悌三といった新劇出身の実力派俳優たちが脇を固めた。
(1955年11月30日放送)
本作の象徴的なシーンとして、ともねが、春方の亡き妻の形見の琴を燃やしてしまう場面がある。
当時のスタジオ生放送という限られた空間の中で、実際に火を点ける劇的な効果と、強い光と影の
コントラストが効果的に用いられた。
炎に照らされるともねの、妖艶でありながらも人間以上に人間らしく狂おしい「嫉妬の心理」を、
カメラがクローズアップで捉え、緊迫感を極限まで高めていた。
また、宮城道雄が手がけた、ドラマの緊張感を高める劇中曲(笛と琴の演奏)も評判となった。
(制作)NTV(脚本)北条秀司
(配役)春方(松本幸四郎・八代目)ともね(若尾文子)(春日俊二)(荒木玉枝)(牟田悌三)
