街の手品師   1925年(大正14年)     邦画名作選
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街の大道手品師・譲次(近藤伊与吉)は、心深く思う一人の女がいた。

それは、支那料理店の女給・お絹(岡田嘉子)だった。

しかし、彼女には山中(東坊城恭長)という意中の男がいた。

それゆえ譲次は、そっと彼女の幸福を祈って諦めていたのだった。


あるとき譲次は、富豪の令嬢・節子(砂田駒子)の結婚披露宴の余興に雇われる。

お絹を手品の助手として連れていったが、なんと節子の結婚相手は、山中だった。

自分が弄ばれた事を知ったお絹は、恥ずかしさと悲憤の余り、自殺を図る。

さらに彼女が山中の子を宿している事を知った譲次は、山中を探し出し責めた。

激昂した山中は短銃で譲次を撃ったが、その時すでに彼の短剣は山中を倒していた。


雪の中をよろめきながら家に帰った譲次の姿に、お絹は顔色を失う。

そんな彼女を安心させようと、苦しい息の中、譲次は得意の手品を披露する。

だがそんな心やりも虚しく、お絹の抱擁の中で、譲次は遂に息を引きとる。

それから間もなく、赤子を抱いて街をさすらう女手品師がいた。

いうまでもなくそれは、一人淋しく生きるお絹の新たな姿なのであった。




1920年(大正9年)松竹蒲田撮影所が開設された当初、総監督を任ぜられたのは、新派運動の
リーダーであり、後に築地小劇場を開設(1924年)する小山内薫であった。


この小山内の門下で、その最初の作品「路上の霊魂 1921年」の監督を務めたのが村田実である。

昔名を馳せたバイオリン弾きの男が、夢破れて故郷に戻るが、父の許しが得られず、絶望の
中で死を遂げる悲劇を描いたこの作品は、日本映画最初の芸術的大作というべきものだった。


1923年(大正12年)日活に移籍した村田が手掛けた作品の一つが、本作「街の手品師」である。

村田は、洋画の手法を積極的に取り入れ、恋人に対する愛着や献身といった西洋的な恋愛ドラマ
の制作を目指した。

これまで恋愛物といえば、歌舞伎から題材を得た心中物など伝統的な作品が主流となっていた。

だが本作は、迫害されている哀れな女を、純情な青年が救おうとする西欧中世の騎士道物語
の流れを汲むものだった。


その意味で、従来の枠に留まらない前衛的な映画であった。

主演は、新劇出身の近藤伊与吉と岡田嘉子であったが、二人ともその容貌が多分に西洋人的であり、
新時代の恋愛ドラマには、最も相応しい俳優として白羽の矢を立てられたのである。

本作は、興行的には大ヒットに至らなかったものの、当時の批評家からは、画期的な傑作として
高い評価を得た作品となった。



 
 

  製作   日活

  監督   村田実  原作 森岩雄

  配役    手品師小泉譲次 近藤伊与吉 紳士山中 東坊城恭長
      女給お絹 岡田嘉子 令嬢上月節子 砂田駒子

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