猫と庄造と二人のをんな 1956年 (昭和31年) 邦画名作選
芦屋で荒物屋をいとなむ庄造は大の猫好きである。
ある日、庄造の前妻・品子が、猫を譲って欲しいと申し出る。
福子は夫の庄造に「譲ってあげなさい」と言うが、彼はなかなか承知しない。
夫婦喧嘩の末に、庄造は猫を品子に譲る事に、しぶしぶ同意するのだが…。
谷崎潤一郎の同名小説を、八住利雄が脚色、豊田四郎が監督した人情喜劇。
猫が可愛くてたまらない男と、猫に嫉妬する妻と元妻がくりひろげる軽妙なコメディの傑作。
森繁久彌は、グータラな男を演じさせると絶品の俳優である。だが単なるダメ男ではない。
グータラの中にある人間味というようなものが、彼の持ち味なのである。
そんな愛すべきグータラぶりが、女のほうから見て、母性愛を刺激するというか、どこか憎めない
ダメ男の魅力といったものがあるのだろう。森繁の演じる庄造は、実際によくモテる。
後妻を演じた香川京子が、我がままなあばずれ女を演じていて、これまでの清純なイメージとは
大違いでびっくりする。終盤では、前妻の山田五十鈴と掴み合いの乱闘シーンまで披露している。
彼女は、黒澤明「赤ひげ」では、狂女を体を張って演じており、実は器用で芸達者な女優である。
後年、上品でしとやかな奥様役に固定されてしまったのは、宝の持ち腐れに思えてならない。
製作 東宝
監督 豊田四郎 原作 谷崎潤一郎