楡家の人びと 1972年(昭和47年) ドラマ傑作選
院長の楡基一郎(宇野重吉)はドイツ帰りの精神科医である。
彼は一代で楡病院を築いたのだが、その病院建築を豪華な外国様式にするとか、
ドイツ留学で取ったドクトルの称号を自慢するとか、娘たちを学習院に入れるとか、
成り上がりの俗物的一面もあった。
彼は、患者の耳の穴をのぞきこんで「ウン、これは大変だ。君の頭は相当くさっとる」
などと迷診断を下すのだが、これは一種の「ショック療法」とでも言うのだろうか。
それで患者の病状は良くなったというのだから、やはり「名医」なのだろう。
1962年(昭和37年)文芸誌「新潮」に連載された芥川賞作家・北杜夫の同名長編小説のドラマ化。
時は大正時代、東京・青山にある楡病院を舞台に、楡家の一族の悲喜劇をユーモアと詩情をこめて描く。
登場する楡家の人びとは、院長の基一郎(宇野重吉)と老妻のひさ(長岡輝子)、
楡家を切り盛りする長女の龍子(岡田茉莉子)と、その婿の徹吉(内藤武敏)、
次女の聖子(佐藤友美)、三女の桃子(結城美栄子)、長男の欧州(伊丹十三)、
次男の米国(柳生博)、そして院長代理の勝俣(加藤嘉)らだ。
長女の婿・徹吉は、原作者・北杜夫の父で歌人の斎藤茂吉がモデルとされる。
物語は、院長・基一郎の議員落選、次女聖子の家出と続き、震災直後の病院の焼失と基一郎の急死を経て、
昭和の動乱期に入ると、楡家は、いったんは全盛期を超える規模の大病院にまで復活するものの、
大戦勃発を受けて、ゆるやかだが確実に没落の一途をたどっていく。
主演の宇野重吉は、成り上がりのいんちき臭い院長をどこか憎めない人間臭い人物に演じ、
岡田茉莉子は、病院を守る長女を毅然と見せ、二人が物語の中核となった。
次女の佐藤友美、三女の結城美栄子、そして、院長代理を演じる加藤嘉らが好演した。
なお、楡病院は、1945年(昭和20年)都が斎藤家から買い取り、都立梅ヶ丘病院となった。
病院の敷地内には、精神科医でもあった歌人・斎藤茂吉の歌碑が建立されている。
(制作)NHK(原作)北杜夫(脚本)石堂淑朗
(配役)楡基一郎(宇野重吉)楡ひさ(長岡輝子)楡龍子(岡田茉莉子)楡聖子(佐藤友美)楡桃子(結城美栄子)
楡欧州(伊丹十三)楡米国(柳生博)楡徹吉(内藤武敏)婆や(織賀邦江)院代・勝俣秀吉(加藤嘉)