雄呂血 1925年(大正14年) 邦画名作選 |
享保の頃、ある大名の城下に、松澄永山(関操)という漢学者がいた。
永山は、塾を開き、若い侍たちに漢学を教えている。
彼には、奈美江(環歌子)という美しい一人娘があった。
門弟の平三郎(阪東妻三郎)は、奈美江に密かな恋心を抱いていた。
ある日、永山誕生の祝宴が行われ、多くの門弟たちが集まった。
その席で、ある家老の倅の無礼な振る舞いを、平三郎がたしなめる。
口論の末に腕力沙汰になってしまい、その事が家老に知られる。
相手には何の咎めも無いのに、平三郎は破門を言い渡されてしまう。
1925年マキノプロを退職した阪東妻三郎が、自身で「阪妻プロ」を設立。
その第二回作品として制作された剣戟作品である。
阪妻が扮する若侍・平三郎は、権勢におもねる師匠をはじめ、門弟たち、
さらには彼を誤解した恋人・奈美江にまで裏切られる。
その結果、平三郎は、藩からも追放され、他国へと流れてゆかねば
ならなかった。
その地で平三郎は、かつての恋人・奈美江をたまたま見かける。
そして悪人たちの手に落ちようとする彼女を助けるのだった。
だが、悪人どもは土地の有力者。それゆえ有力者の肩を持つ役人らは
平三郎を無頼漢、無法者として、大勢の捕手で彼を取り囲む。
若侍・平三郎は、悪意は全くなく、善意でことに当たったのに、
ことごとく人に裏切られ、遂に捕り手と大チャンバラを繰り広げる。
だが彼を、破滅に導いた偽善者たちは栄えているという世の矛盾。
えんえん40分に渡る、反逆の血をたぎらせて繰り広げられる凄惨な
大立ち回りは、まさに悲壮美の極致に達していた。
当時の観客は、阪妻扮する若侍にニヒリズムを感じ、その大殺陣を
通じて、権勢への抵抗を密かに受けとめたのである。
製作 阪妻プロ 配給 マキノプロ
監督 二川文太郎 原作 寿々喜多呂九平
配役 | 久利富平三郎 | 阪東妻三郎 | 赤城治郎三 | 中村吉松 | |||||||||
松澄永山 | 関操 | 浪岡真八郎 | 山村桃太郎 | ||||||||||
奈美江 | 環歌子 | 二十日鼠の幸吉 | 中村琴之助 | ||||||||||
江崎真之丞 | 春路謙作 | お千代 | 森静子 |