おやじ太鼓 1968年(昭和43年) ドラマ傑作選
鶴亀次郎(進藤英太郎)は、裸一貫から叩き上げ、一代で財をなした建設会社の社長である。
ワンマンで頑固一徹で、ガミガミで八方破れの、とにかくやかましいおやじなのだ。
そんなカミナリおやじが会社から帰ってきた。
おやじは家に上がると、歩きながら上着、ネクタイ、ワイシャツ、ズボンと脱いでいく。
妻の愛子(風見章子)がこの服を拾い集めながら、おやじの後をついていく。
子供たちは首をすくめて、逃げるように自室へと引きさがる。
家政婦のお敏(菅井きん)の入れたお茶がぬるかろうものなら、いきなり「コラ! おトシ〜!
何ですかこのお茶は! 冗談じゃありませんよ!」と怒鳴る。
「冗談じゃありませんよ」は、亀次郎の口癖である。
叱られたお敏は、台所に戻ると、小声で「冗談じゃありませんよ」と呟く。
強烈な個性を持つ明治生まれのおやじと、昭和生まれの子どもたちという世代のズレが
醸し出す笑いと哀愁の日常騒動記を描いたホームコメディ。
昭和40年代のテレビ界はホームドラマが全盛だった。
映画時代の二枚目スターに代わり、茶の間の真ん中に座る頑固おやじや肝っ玉母さんのような
視聴者と等身大の親しみやすい人たちが主役をつとめるようになってくる。
主役の進藤英太郎は、かつて東映時代劇を中心に悪役スターとして活躍した人物。
すごめばすごむほど愛嬌のある彼独特の持ち味は、チャンバラ・ファンに幅広い人気を得ていた。
進藤演じる鶴亀次郎は、空威張りはするものの、実は気が優しい愛妻家でもある。
結婚以来、一度も浮気をしたことがないことが自慢だ。
そんな愛すべき頑固おやじ役が受けて、かつての悪役進藤は一気に茶の間の人気者となった。
間もなく70歳を迎えようとする頃だから、当時としては最高齢の主演スターだったと言える。
(制作)TBS(脚本)木下恵介、山田太一
(主題歌)あおい輝彦「おやじ太鼓」(作詩・作曲:木下忠司)
(配役)鶴亀次郎(進藤英太郎)妻・愛子(風見章子)長男・武男(園井啓介)次男・洋二(西川宏)長女・秋子(香山美子)
三男・三郎(津坂匡章)次女・幸子(高梨木聖)四男・敬四郎(あおい輝彦)三女・かおる(沢田雅美)お敏(菅井きん)初子(新田勝江)