切腹    1962年 (昭和37年)      邦画名作選
直線上に配置                    

井伊家の屋敷に津雲半四郎と名乗る浪人が訪れ、庭先を借りての切腹を申し出た。

困窮の生活を送るよりも、晴れの死に場所を得て、武士らしく切腹したいと言う。


井伊家の家老は、この浪人が切腹ではなく、狂言切腹しようとしていると思い込む。

狂言切腹は当時、生活に困った浪人たちの間で横行していたゆすりの手口であった。


そこで井伊家の家老は、しばらく前にも同じような申し出をした若い浪人の話をする。

その若者は、死ぬ気もないのに申し出たため、見せしめのため無理やり切腹させたという。

すると半四郎は、その若い浪人は自分の娘婿だった事を告げる…。




1958年「サンデー毎日」に掲載された滝口康彦の時代小説「異聞浪人記」の映画化。


ある日、病気の妻子を抱えた若い浪人が、彦根藩井伊家を訪れる。

すでに刀も売り払い、竹光しか持っていなかった。
そんな浪人の狂言切腹を武勇の誉れが高い井伊家は許さない。

庭先で若者は妻子に別れを告げたい思いから一両日の猶予を願い出る。
だが囲んだ藩士たちは冷笑し、竹光で無理やり腹を切らせた。


そのあと井伊家にやって来たのが、その若者の義父・津雲半四郎であった。

半四郎は介錯人を指名するが、その侍は何かと口実をもうけて出てこない。
では、と別の藩士を次々に指名するが、いずれも病気と称して出てこない。

すると半四郎は、カラカラ笑って懐から侍の髷を三つ取り出して投げ出す。
実はその三人は、半四郎の娘婿に無理やり切腹を強いた張本人たちであった。

半四郎は、彼らを誘い出しては決闘し、髷だけ斬って奪ったのである。


髷を斬られ、恥ずかしくて呼び出しがあっても、病気だと言って出てこない。
そんな腰抜け武士どもが、よくもまあ、武士らしく腹を切ってみよと言えたものだ。

半四郎は、彦根藩の武士たちを思い切り嘲笑するのであった。


本作は、俸禄を失い、行き場を失った武士の悲劇を描くとともに、虚飾にまみれた武家社会
の非人間性を暴き、武士道のあり方を改めて問い掛ける異色時代劇となっている。

なお本作は1963年、カンヌ映画祭に「ハラキリ」の題名で出品され、審査員特別賞を受賞。
監督・小林正樹の国際的評価を決定づけた作品となった。



 
  製作  松竹

  監督  小林正樹

  配役 津雲半四郎 仲代達矢 千々岩求女  石浜朗         矢崎隼人    中谷一郎 
  津雲美保 岩下志麻 井伊家家老 三国連太郎         川辺右馬介    青木義朗 
  千々岩陣内 稲葉義男 沢潟彦九郎 丹波哲郎              

直線上に配置