東京おにぎり娘   1961年(昭和36年)     邦画名作選
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新橋のテーラー・直江は、店主の鶴吉(中村鴈治郎)が頑固で昔気質なせいで客が寄りつかない。

見かねた娘のまり子(若尾文子)は、店を改装しておにぎり屋を始める。


資金は以前、鶴吉に破門された元弟子で、今は事業で成功している幸吉(川崎敬三)が出した。

一方、まり子とは幼馴染の五郎(川口浩)との間に、叔母さんが仕組んだ見合い話が持ち上がる。



おにぎり屋を始めたまり子(若尾)と、彼女をめぐる三人の男性との恋模様を描く下町人情喜劇。





何と言っても一番のハマリ役は、中村鴈治郎演じる鶴吉で、この人のキャラクターでセリフも生きてくる。

借金の取り立てから逃げ回る姿も、芸者に産ませた隠し子が発覚して弁解する姿も、何故か許せてしまう。


鶴吉によると、おにぎりは「お袋が握ってこそ、その値打ちも味もあるもんや」と言う。

おにぎり屋に改装するのが気に入らず、そう言ったのだが、娘目当ての男性客が殺到し、店は大繁盛する。


一方、娘のまり子の私生活の方は恋愛、失恋とすったもんだが続く。

それをみて鶴吉も「わいも手伝ったる」と加勢し、父娘は仲良くおにぎりを握ることになるのだった。



ヒロインの若尾は、この年28歳になる。女優としても、女性としても微妙な年頃だ。

本作では、亡き母に代わって家を切り盛りし、婚期を逃している仕立て屋の娘を演じている。


まだまだ女性が男性の添え物的な扱いだった時代、職業婦人も三十路までには家庭におさまるのが

「普通」の生き方だった。


そんな社会では、若い女性が自我に目覚めると、思いもよらないドラマを生むことになる。

これまで娘役が多かった若尾だが、この年の最後を飾った「妻は告白する」では人妻を演じている。


山岳事故で、夫のつながっていたザイルを切った妻が殺人か自己防衛かを争う裁判劇。

愛憎うごめく心理を鬼気迫るさまで演じ、主演女優賞など多くの映画賞を受賞した。


以降の若尾は、年齢相応な大人の女性をメインに演じるようになっていく。

その意味で本作は、アイドル時代最後の輝きが堪能できる作品と言えるかも知れない。

 
 
 製作   大映

  監督   田中重雄

  配役    直江まり子 若尾文子 かめ 沢村貞子
      直江鶴吉 中村鴈治郎 はま 藤間紫
      白井五郎 川口浩 みどり 叶順子
      村田幸吉 川崎敬三 田代社長 伊藤雄之助
      三平    ジェリー藤尾            白井梅子   村田知栄子

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