妻よ薔薇のやうに 1935年(昭和10年) 邦画名作選 |
君子(千葉早智子)は、丸の内に勤めるOL。
家では、女流歌人の母・悦子(伊藤智子)と二人暮らし。
父の俊作(丸山定夫)は、砂金で一山あてる夢に憑りつかれ、信州へ行ったきり十年も
帰っていない。しかも芸者上がりのお雪(英百合子)と同棲して子供まである。
悦子は、信州へ父を連れ戻しに行き、再び母との結婚生活を復活させようとするのだが…。
劇作家・中野実の新派劇「二人妻」を成瀬巳喜男が脚色、監督し映画化したもの。
歌人の母親、家を出て妾宅で暮らす父親と愛人、その三人の関係を娘の視点から描く。
君子は当初、父親を東京に連れ戻すつもりでいたが、信州の父を訪ねて、余りの意外さに驚く。
質素な住居、ふしだらな女と想像していた妾のお雪は、髪結いをして良人の生活を助けている
貞淑な女性であった。しかも東京の家にこっそり送金までしてくれていたのである。
君子は、自分が学校を卒業できたのはこの妾のおかげであったことを知る。
本作は、これまでの新派ドラマの筋書きを見事にひっくり返した異色の作品であった。
通常であれば、夫に逃げられた妻を悲劇的に描くか、あるいは厳しい境遇におかれた妾の悲哀を
描くところだが、この作品では、娘の客観的な視点から、父と母ではなく、父と妾が正しい夫婦だと
いう結論を下すのである。
それはまさしく「観察」というべき視線であり、この視線によって観客は「正妻/妾」の二元的図式
におさまらない、現実のやっかいさを了解することになる。
しかも娘の君子(千葉早智子)は、非常に現代的な明るい女性に設定されており、明るいから、
現実を曇りなく眺めるだけの余裕があるのだと、観客はそれとなく納得するのである。
製作 P.C.L.映画製作所
監督 成瀬巳喜男 原作 中野実
配役 | 山本君子 | 千葉早智子 | お雪の娘・静枝 | 堀越節子 | |||||||||
山本俊作 | 丸山定夫 | 悦子の兄・新吾 | 藤原釜足 | ||||||||||
お雪 | 英百合子 | 新吾の妻 | 細川ちか子 | ||||||||||
山本悦子 | 伊藤智子 | 君子の恋人・精二 | 大川平八郎 |