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「彼と私と両家の事情」 です。原題は 「媳妇的美好时代」 (2009年作品)
北京電視台で放映され、中国全土で高視聴率をマークした人気ナンバーワンのコメディ・ホームドラマ。
病院に勤務する看護師の 毛豆豆(マオ・トウトウ) は、カメラマンの 余味(ユイ・ウェイ) と見合いをします。
豆豆は、元恋人に振られたばかり。一方、余味は見合いを繰り返し、理想の花嫁を探していました。
二人はやがて結婚するが、母親が三人、父親も三人、浮気癖のある弟など両家には複雑な家族事情がありました。
全編を通じて、笑いと涙の中に、結婚とは、家族とは、人間は何のために生きているのかなど、
人生における身近な問題が、軽妙なタッチでさわやかに描かれています。
(1) (2) (3)
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【第十二課 第一節】
第一章 相亲记
中午时分,天气有些闷热。
一家人声嘈杂的面馆走进一位身着黑色休闲西装外套的长发墨镜男。
别看他这一身打扮好像挺随意,其实可是费了不少工夫,花了很多心思呢!
因为今天是他的大日子——相亲日。
只见墨镜男一边打着手机,对电话那头的“红娘”信誓旦旦地保证绝不迟到,
一边眼明手快地找到一个空位坐下;
刚挂了电话,他又忙不迭地招手叫来服务生要了碗面,这才算松了口气。
待他摘下墨镜,才瞧见餐桌对面还坐着一位留着齐肩长发、眉清目秀的姑娘,
而且姑娘正目瞪口呆地盯着自己看,小伙只好尴尬地笑了笑。
姑娘名叫毛豆豆,她原本一个人安静地坐在那里,悠悠地想着自己的那些小心思,
突然间被这个心急火燎的“艺术青年”打断了情绪。
她见这长发男竟对着她笑,便不好意思地低下头,这一低头却发现餐桌上少了把汤匙,
便起身去服务台拿。
当她再回到餐桌时,她看见自己先前点的一碗面已经被端了上来,
而长发男居然毫不客气地拿着筷子准备开吃了。
豆豆心想这人怎么跟土匪似的,可她不想吵架。她二话不说将碗拉到自己跟前。
不料对方一声不吭把碗又拉了回去。
豆豆压住火气,还是一语不发,伸手又把碗拿了过来。
这下长发男火了,他不客气地对毛豆豆说:“小姐,这是我点的经典牛肉面。”
豆豆按住碗,语气强硬地顶了回去。
“我点的也是经典牛肉面。你知道什么叫先来后到吗?是我先在这儿点了面,而你,是后来的!”
长发男愣了一下,似乎想到了什么,接着点点头表示同意,“小姐,那请你帮个忙,我今天相亲,不能迟到。
我点的面马上就来,到时候你吃我那碗,不差这几秒钟,谢谢!谢谢啊……”
他嘴上客气,手下可没留情,一眨眼那碗面又转回到他的手里。
“我也要去相亲啊!”
豆豆再次伸手欲抢回本来是自己的面,可是已经来不及了,只见长发男捞起一筷子面“哧溜”一声就送进了嘴里。
“你这人怎么这样!我想请问,你是男的还是女的呀?”豆豆真发怒了。
长发男似笑非笑地问:“你说呢?”
豆豆朝他翻了个大白眼,“哎哟,还真看不出来。我觉得至少你不怎么爷们儿,要不然不会跟一个女孩子抢面。
真不知道什么女人会看上你这样的人!”
长发男也懒得理豆豆,只管埋头吃面。
等他喝干最后一口面汤,心满意足地抹了嘴,才不紧不慢地对豆豆来了一句:
“小姐,你也去相亲?我提醒你一句,就你这嘴,甭管什么男的都会被你吓跑!”
豆豆被气得刚要开骂,却发现长发男早就一溜烟没了踪影,还“恬不知耻”地留下了一碗面的未付账单……。
直到走进了环境幽雅的咖啡厅,豆豆的心情才稍稍平复了一些。
婚介公司找的约会地点还是相当不错的。
她心想,老人家凡事都讲究风水,看来还真有道理。
气场不对,诸事不利。刚才就是随便进了家小面馆,结果面没吃上,倒白白生了一肚子的气。
豆豆边走边打量着四周,这时候她的手机响了。是一个男人打来的,
“请问,你是毛豆豆毛小姐吗?
我已经到了,在大堂这儿恭候你呢!”
豆豆知道这就是她今天要相亲的对象。
听声音彬彬有礼的,感觉还不赖。
“我是毛豆豆。你是余先生吧?
我已经进来了,是在靠出口方向的一个拐角的地方……”
豆豆拿出生平最温柔的语气回对方道。
“好的,你站着别动,我去接你。
我戴着墨镜,穿黑西装白衬衫,特别好认。”
“我穿裙子,上衣是绿色的……”
“你裙子是米色的,包是咖啡色的,对吧?”
电话那头的声音突然变了调,从彬彬有礼变成“冰冰有礼”。
豆豆顿时觉得这声音有点耳熟。
她猛一回头,迎面站着的竟然是抢了她午餐的长发男!
原来这个长发男就是豆豆今天的相亲对象——余味同志。
然而,倘若要问余味此时此刻这个世界上最不想见的人是谁?
肯定别无他选,就是眼前站着的这位毛小姐!
刚才在面馆他自感的确有些失礼,可这姑娘也太牙尖嘴利,话说得让人下不了台。
都说不打不相识,幸亏先前交过手,否则还真被她那端庄贤淑的模样给骗了。
想罢,余味一个扭头正要撤退,却被毛豆豆一把拉住。
“喂,你等下!我有话要说。”
“毛小姐,虽然婚介公司要撮合咱俩,但是有了刚才不幸的相遇,我认为咱们没有必要再浪费时间了,你说呢?”
毛豆豆点点头说:“非常同意。不过,你刚刚吃了一碗牛肉面还没付钱呢。”
余味这才想起刚才走得急,吃了面竟忘了埋单。
“是,我是忘了。可这跟你有啥关系?”他心里发着虚,却还很嘴硬。
“把钱还给我。店里人非让我替你付账,不付不让走,你说我倒不倒霉!”
毛豆豆把手伸到余味面前,作势要讨回替余味花的冤枉钱。
余味马上从兜里掏出一张百元大钞,啪一声放到豆豆的掌心,“甭找了!算我请你的!
我这人向来不爱贪便宜,该多少是多少,牛肉面二十元一碗,我找八十元给你。”
两人正一张一张数着钞票,突然毛豆豆感觉肩膀被拍了一下,她回头一望,竟然是李若秋!豆豆惊得整个下巴都快掉下来了,
怎么会在这个时候碰到他?
今天还真是诸事不利,碰到的都是冤家!一个还没搞定,又来了一个!
“豆豆,怎么这么巧?”
许久不见,李若秋还是那个老样子,一副山清水秀的派头。
可他边上的姑娘倒是新面孔,已经不是当年导致他们分手的那位富家女。
毛豆豆一时慌了神,愣在那儿,可旁边的余味仍然在嚷嚷:
“毛票我不要啊,要给就给整的。”
李若秋瞄了一眼余味,眼神里透着轻蔑,问豆豆道:“他是谁?”
李若秋不屑的眼神把毛豆豆激怒了。
不过她并没有表现在脸上,而是一把挽住余味的胳膊,故意很亲昵地说:
“亲爱的,别闹了,你在干吗呀!”
“这位是……”李若秋见状就更不死心了。
“我男朋友。”豆豆笑眯眯地看着李若秋,没放过他脸上轻轻掠过的一丝嫉妒的表情。
可余味偏偏不合作,他莫名其妙地看着毛豆豆,“谁是你男朋友啊?”
说完甩开豆豆的胳膊,钱也不要了,就径直往外走。
豆豆赶紧上前死死拽住余味的手,可怜巴巴地望着他,似笑非笑地从牙缝里轻轻挤出几个字来:“帮个忙吧!”
“帮什么忙呀?
毛小姐,明眼人一看就知道你跟这男的关系肯定不一般,可你还跑这儿跟我约会。”
“不是不是,我早跟那个人分手了。你就帮帮我吧,我喊你声大哥。”
眼看前一秒还像个钢铁女侠般对他不依不饶的姑娘,现在却突然变成一只温柔可怜的小猫,余味不禁心软了。
“那我再问你一次,我是男的女的呀?”
“百分百的纯爷们!”豆豆朝余味竖起大拇指。
一听到“纯爷们”这三个字,余味身上的英雄气概立刻膨胀了起来。
他像个赢了游戏的孩子,脸上露出了灿烂的微笑,马上转身走到李若秋面前,伸出手落落大方地说:“我是余味,豆豆的男朋友。”
李若秋的面部肌肉瞬间僵硬了,可嘴角还在拼命挤出一点笑容。
他一边在心里掂量着这个长发男是打哪儿冒出来的,一边绅士般地伸出了手,“你好!我是李若秋。”
这时,豆豆突然一把钩住余味的脖子,亲热地说:“亲爱的,咱们走吧,妈还在家等咱们吃饭呢!”
余味喘不过气来,要挣脱开,却发现脖子已被豆豆的臂膀压得死死的,完全没法动弹。
他心想这女的怎么力气那么大,真是钢铁本质啊!
李若秋自觉没趣,故作感慨地说了句:“豆豆是个好女孩。”
余味看了豆豆一眼,豪迈地回应:“那还用说!”
李若秋一时很无奈,只能故作大方地说:“多谢你照顾豆豆。”
余味冷冷地答道:“不客气。”
寒暄了半天,李若秋终于带着女伴悻悻离开了。
豆豆这才长舒了一口气,她对余味自是感激不尽。
余味也顺势为面馆的事向豆豆道了歉,做了解释。
原来早上出门时,他的摩托车坏了,一路上又没打着车,为了约会不迟到,他才在慌急慌忙中,做出抢面不付钱这等看上去十分不入流的窘事。
而经过“假扮情侣”这一战,两人互相看着似乎也没那么讨厌了。
不过相亲这事是个细致活,一面要好好努力表现自己,一面又得察言观色试探对方的真意,讲究的是小心翼翼、步步为营。
所以像豆豆和余味这样一上来就敲锣打鼓、吵吵闹闹的,一般接下来都没戏!
但是生命不息,约会不止,直到遇见有情人成为家属,否则这些单身男女们会越败越勇,继续着他们的漫漫相亲路。
这天,又是一个阳光明媚的相亲日,毛豆豆早早来到了约会地点,可新对象还没遇上,居然又撞见了余味。
前几天刚互道“永别”的两人,同时惊声尖叫了起来:“这,不可能吧?”
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【注 釈】
【毛豆豆】 máo dòu dòu 毛豆豆(マオ・トウトウ)。病院に勤務する看護師。
【余味】 yú wèi 余味(ユイ・ウェイ)。カメラマン。見合いを繰り返し、理想の花嫁を探している。
【李若秋】 lǐ ruò qiū 李若秋(リー・ルオチュウ)。毛豆豆の元恋人。金持ちの御曹司。
【似笑非笑】sì xiào fēi xiào あいまいな笑みを浮かべる。
【你说呢】nǐ shuō ne あなたはどう思うか。
(用例)我觉得这个颜色又好,价钱又便宜,你说呢? 色もいいし値段も高くないと思うが、君はどう思う。
【只管埋头吃面】ひたすら食べることに没頭する
【别无他选】ほかでもない
【下不了台】xià bù liao tái メンツを失う
(用例)事情被当面揭穿,闹得他下不了台。事情を面と向かって暴かれ、彼は引っ込みがつかなくなった。
【你说我倒不倒霉】幸か不幸か、わかるでしょ。
【冤枉钱】yuān wǎng qián 支払う必要のない出費。
【山清水秀的派头】眉目秀麗な風貌。
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【口語訳】
第一章 お見合いの顛末
蒸し暑い昼下がり。人混みのそば屋に、黒のジャケットを着た長髪のサングラスの男が入ってきた。
ラフな格好をしているようだが、彼としては、それなりに苦労して工夫しているのだ。
それというのも、今日は彼の大事な日、つまり見合いの日なのである。
サングラスの男は、携帯電話をかけ、電話の向こうの「世話人」に、絶対遅刻しないと約束しながら、すかさず空席を見つけて腰を下ろした。
電話を切ったあと、すぐに手招きして店員を呼び、麺類を注文したところで、ほっと一息ついた。
サングラスを外すと、ダイニングテーブルの向こうに、肩まで伸びた長い髪をした、目鼻立ちのいい娘が座っていた。
その娘があっけにとられてこちらを見つめているので、男はぎこちない笑みを浮かべるしかなかった。
娘の名前は、毛豆豆(マオ・トウトウ)といい、彼女はそのとき、一人静かに座って、ぼんやりと考え事をしていたのである。
だが突然、目の前に、この忙しない「芸術家肌の男」が現れたので、気持ちが途切れてしまったのだ。
長髪の男が笑いかけてくるのを見て、きまり悪そうに頭を下げたが、テーブルの上にスプーンが欠けているのに気づき、フロントに向かった。
テーブルに戻ると、先ほど注文した麺がすでに運ばれていたが、見ると、長髪の男が無遠慮に箸を持って食べようとしていた。
豆豆は「なんて厚かましい男なの」と思ったが、あえて喧嘩はしたくなかった。
彼女は何も言わずに、麺碗を自分の前に引き寄せた。
すると、あろうことか、相手の男も、黙ったまま麺碗を、彼のほうに再び引き戻すではないか。
豆豆は怒りを覚えたが、やはり何も言わず、手を伸ばして、また麺碗を自分に引き寄せた。
すると長髪の男は、露骨に不機嫌な顔をして言った。「お嬢さん、これは僕が注文した店定番の牛肉麺ですが」
豆豆は麺碗を押さえつけ、強い口調で言い返す。
「私が頼んだのも牛肉麺です。注文は先着順でしょう? 私が先に注文して、あなたはその後です!」
長髪の男は一瞬あぜんとしたが、何かを思いついたように、頭を下げながら言った。
「お嬢さん、それではお願いがあります。今日は僕の見合いの日なので、遅刻はできません。
僕の注文した麺はすぐに来るから、その時に私の麺を食べてください。
時間にしてそれほど違わないでしょう? ではそういうことで、感謝します」
言葉は遠慮がちだが、手のほうは遠慮がなく、あっという間に麺碗は彼の手元に引き戻された。
「私もお見合いをしますの!」
豆豆は、麺碗を奪い取ろうと手を伸ばしたが、すでに長髪の男は、つるつると箸で麺を口に運んでいた。
「あなたって男、それとも女ですか?」豆豆は、怒りをぶちまけるように言った。
長髪の男はにやにやしながら、「君はどう思う?」と問い返した。
豆豆は、思いきり男をにらみつけながら言う。
「あら、よくわからないけど、女の子と争ったりするなんて、少なくとも男らしいとは思えないわ。
あなたのような男を好きになる女性の気が知れないわ!」
長髪の男は、豆豆を一向に気にすることもなく、ひたすら麺を食べ続けている。
最後のスープを飲み干すと、満足そうに口を拭いてから、ゆっくりと豆豆に向かって言った。
「君も、お見合いですか? こう言ってはなんですが、そんなきついこと言ったら、
男の人は何にしても逃げ出してしまいますよ!」
豆豆は、こっぴどく怒鳴りつけてやろうと思ったが、長髪の男はとっくに姿をくらましていた。
さらに厚かましいことには、男が去ったあとのテーブルには、彼が食べた麺の未払いの勘定書が残されていた。
静かで落ち着いた雰囲気の喫茶店に入ると、豆豆の気持ちは少し落ち着いてきた。
結婚相談所が見つけてきたデートスポットは、やはりなかなかのものだった。
昔の人は、何事も風水にこだわると聞いていたが、彼女は、なるほどな、と思った。
先ほどは、小さなそば屋に、気ままに入ったおかげで、食べずじまいで無性に腹が立ってしまったが、
やはり雰囲気が悪くては、すべてのことがうまくいかないものだと納得した。
歩きながら周りを見回していると、彼女の携帯電話が鳴った。男性からの電話だった。
「あの、毛豆豆さんですか? 僕はもう着いて、このロビーでお待ちしています!」
豆豆は、それが今日のお見合い相手だとわかった。丁寧な言葉遣いで、悪い印象はなかった。
「豆豆です。あなたは余(ユイ)さんでしょう?
私が入って来たのは、出口に向かった角のところです…」
豆豆は、できるだけ優し気な口調で相手に伝えた。
「わかりました。そこに立っていて下さい。これから迎えに行きますから。
僕は、サングラスをかけ、黒いジャケットに白のシャツを着ているので、わかりやすいと思います」
「私は、スカートに、緑のトップスを着ています…」
「スカートはベージュで、バッグは茶色ですよね?」
電話の向こうの声は、丁寧な口調から急に「そっけない口ぶり」に変わった。
豆豆はふと、その声に聞き覚えがあるような気がした。
思い切り振り返ると、果せるかな、そこには彼女の昼食を奪った長髪の男が立っていた。
この長髪の男性こそ、豆豆の今日の見合い相手、余味(ユイ・ウェイ)だった。
だが、余味に言わせれば、今この世界で一番会いたくない人は誰か?と聞かれたら、
きっと彼は、目の前に立っている毛さんだと答えるだろう。
たしかに、そば屋では、彼女に少し失礼なことを言ったかも知れないが、それにしても、
この娘は舌鋒が鋭く、男のメンツを丸つぶれにするようなことを、平気で言う女なのである。
喧嘩しないと分かり合えない、などとよく言われるが、先ほど彼女とやり合ったのは、もっけの幸いだった。
そうでなければ、彼女のあの一見賢げな外見にだまされていただろう。
そう納得した余味は、きびすを返して退散しようとしたが、豆豆に腕を引っ張られた。
「ちょっと待って! 言いたいことがあるの」
「毛さん、結婚相談所のせっかくの仲介だけど、先ほどの不幸な出会いの後では、これ以上は時間の無駄だと思いますが」
豆豆はうなずき、「それは同感です、でも、あなたは先ほどの牛肉麺の代金を支払っていませんわ」
余味は、先ほど慌てて帰ったために、勘定を払うのを忘れていたことを思い出した。
「確かに忘れてました。でも、それが君とどういう関係があるんだい?」
彼はやましさを感じている割に、口のほうは臆面なく物を言う。
「お金を返してくださいな。店の人は、あなたの分まで払わないと、帰してくれなかったの。
これって、あなたのせいで私がひどい目に遭ったのよ、分かってくださる?」
豆豆は、余味の前に手を伸ばし、彼のために使ったお金を取り戻すような仕草をした。
余味は、すぐにポケットから百元札を出して、豆豆の手のひらにポンと置いて言った。
「おつりはいらない! これは僕の奢りだ! 僕は、値段に拘らないたちだからね、
それだけの価値があればそれだけ支払う。牛肉麺一杯二十元だから、八十元は君にあげるよ」
二人がお札を一枚ずつ数えているとき、豆豆は、いきなり肩をぽんと叩かれたような気がして振り返った。
するとそこにいたのは、(豆豆の元恋人)李若秋(リー・ルオチュウ)だった。
豆豆は、口をあんぐり開けたまま、二の句が継げないほどの衝撃を受けた。
こんな時に、どうして彼に出会ってしまったのだろう。今日は何から何まで本当についてない。
出会うのはすべて仇敵のような人間で、一人目の決着がついていないのに、またもう一人が現れるなんて全く最悪の日だった。
「豆豆、こんなところで会うなんて奇遇だね?」
久しぶりに会った李若秋は、相変わらず端正な顔つきで、昔の面影を残していた。
だが彼の隣にいる娘は、はじめて見る顔で、あの時別れた原因となった金持ちの女ではなかった。
毛豆豆は一瞬戸惑い、その場で固まってしまったが、その隣では、余味が依然としてなにやらわめいている。
「領収書はいらないよ。必要なら全部あげるから」
ちらりと向けられた李若秋の目が、余味を無造作に一瞥する。「彼は誰?」
李若秋の吐き捨てるような眼差しに、豆豆は怒りを覚えた。
が、彼女はそれを顔には出さず、余味の腕を取り、わざと馴れ馴れしく言った。
「ねえ、あまり大声を出さないで、何してるの!」
「こちらの方は…」李若秋はそれを見て、繰り返し尋ねる。
「彼氏です」豆豆は、にっこりと李若秋を見ながら、彼の顔をかすめる嫉妬の表情を見逃さなかった。
だが余味は、あいにく片棒を担ごうとはしなかった。「彼氏って誰?」と、不可解な目で豆豆を見つめる。
余味はそう言うと、豆豆の腕を振り払い、釣銭も受け取らず、そのまま、まっすぐ外へ出ていこうとする。
豆豆は慌てて追いかけ、余味の手を掴むや、哀願を込めた目で彼を見つめる。
そして彼女は、苦笑いを浮かべた口元からそっと言葉を絞り出した。「お願いがあるの」
「お願いって? 毛さん、君があの男と普通じゃないのは一目でわかるが、
それでも君は、僕と見合いするためにここへ来たのかい?」
「いいえ、あの人とはずいぶん前に別れたの。どうか協力して、御兄様と呼ぶから」
先ほどまで、自分に全く容赦なかった娘が、急に哀れな子猫のようになったのを見て、余味は思わず心が萎えてしまった。
「じゃあ、もう一度訊くが、僕は男なのか、それとも女なのか?」
「完璧な男!」豆豆は、余味に向かって親指を立てた。
その言葉を聞いた途端、余味の中で、雄々しい勇者の気概が一気に膨らんだ。
余味は、まるでゲームに勝った子供のように明るい笑みを浮かべ、すぐに振り返って李若秋に歩み寄り、
手を差し伸べて、礼儀正しく言った。「私は余味、豆豆のボーイフレンドです」。
李若秋の表情は、一瞬硬直したかに見えたが、すぐに口元に笑みを浮かべた。
この長髪の男がどこから来たのかと考えながらも、彼は紳士的に、手を差し伸べて言った。「はじめまして、私は李若秋です」
豆豆は、いきなり余味を抱き寄せ、親しみを込めて言った。「ねえ、行きましょう、母が家で夕食の用意をしているわ!」
余味は、息切れがして離れようかと思ったが、首までも豆豆の腕に押さえつけられて身動きが取れなくなっていた。
なんて力の強い娘だ、これはまるで鋼鉄の女だな、と彼は思った。
李若秋は、心では面白くなかったが、つとめて快活に言った。「豆豆はいい子ですよ」
余味は、豆豆をちらりと見て、「それはもちろんです」と気前よく答えた。
李若秋は、やむなく社交的に言った。「豆豆が世話をかけますが、宜しくお願いします」
余味は、そっけなく、「どういたしまして」とだけ答えた。
しばし歓談した後、李若秋は同伴の女性を連れ、心ならずもその場を立ち去った。
豆豆は、ようやく安堵のため息をつき、余味に感謝の言葉を述べた。
余味も豆豆に、そば屋での一件を謝罪し、自ら釈明もした。
実は朝出かける時にバイクが故障してしまい、途中で車もつかまらずじまいだった。
見合いに遅れてしまうと、気ばかり焦り、それで金を払わずに店を飛び出してしまうという醜態を演じてしまったのだ。
「偽装カップル」という大芝居を経て、二人は、お互いを見る目も変わって来たようである。
何れにせよ、見合いというのは、かなり気を遣うイベントである。
一方では自分を見せる努力をし、他方では相手の真意を探りながら、慎重に一歩一歩進めていかなくてはならない。
今回の豆豆と余味のように、いきなり剣突を喰わしたり、騒いだりしては、普通はあとが続かない。
しかし、人生は長く、人と人との出会いは限りなく続く。
世の独身男女は、真の恋人と出会って家族になるまでは、途中で諦めず、長く果てない見合いの道を歩き続けることになるのである。
さて、またも新たな見合いの日がやって来た。
その日、豆豆は、早めにデートスポットに来ていたが、新しい見合い相手は、まだ到着していなかった。
だが、まさかの巡り合わせとは、このことであろう。またもや余味と出会ってしまったのだ。
数日前、「さよなら」を言ったばかりの二人は、同時に「これ、ありえないでしょ!」と悲鳴を上げた。