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【第五課 第十三節】   小説読解


  「悲惨世界」  维克多·雨果  


一八一五年十月初,约莫日落的前一个小时,有位行客走进小小的迪涅城。
在这种时分,只有寥寥无几的居民还站在窗口或门口,他们望见这个旅客,心中隐隐地感到不安。

很难遇见比他更衣衫褴褛的行人了。
此人中等个头儿,身体粗壮,正当壮年,看样子有四十六岁至四十八岁。
头戴一顶皮檐鸭舌帽,遮去流汗的、风吹日晒黑了的半张脸。

身穿黄色粗布衫,领口搭了一个小银锚扣,露出毛茸茸的胸膛,领带皱巴巴的像根绳子;
蓝色棉布裤已经很旧,一个膝头磨白,另一个膝头磨出窟窿;外罩灰色外套十分破旧,
一个袖肘上用粗线补了一块绿呢布;背上有一个崭新的军用袋,装得满满的,袋口紧紧扎住;
他的手里拿一根多节的粗棍,脚下没有袜子,直接穿一双打了铁掌的鞋;他的头发短短的,胡须长得很长。

浑身破烂不堪,再加上汗水、热气、风尘仆仆,给他增添一种说不出来的肮脏。
他推成平头,但是头发又开始长了,都竖起来,仿佛有一段时间没理了。

谁也不认识他,显然只是一个过路人,他是从哪里来的呢?
是从南边来的,可能是从海边来的。
因为,他进迪涅城所走的街道,正是七个月前拿破仑皇帝从戛纳前往巴黎的路线。

这个人肯定走了一整天,样子十分疲惫。
城南老镇的一些妇女,看见他停在加桑迪大街的树下,并在林荫道尽头的水泉喝水。
他一定渴极了,因为在后面跟随的那些孩子,看见他走了二百步远,到了集市广场又停下来,对着水泉喝水。

他走到普瓦什维街口,便朝左手拐去,径直走向市政厅,进去之后,过了一刻钟又出来。
一名宪警坐在门旁的石凳上,三月四日,德鲁奥将军正是站在那个石凳上,向惊惶失措的迪涅居民宣读瑞安海湾宣言。
那汉子摘下帽子,对着宪警恭恭敬敬的施了一礼。

然后,那汉子走向当地最好的柯耳巴十字架旅馆,进入临街的厨房,只见所有炉灶都生了火,壁炉里的火很旺。
老板同时也是掌勺的厨师,他正在炉灶和炒锅之间忙碌着,
给车老板准备丰盛的晚餐,隔壁就传来那些车老板谈笑的喧哗声。

凡是旅行过的人都知道,谁也没有车老板吃得好。
一根长铁钎上插着几只白竹鸡和雄山雉,中间插着一只肥肥的土拨鼠,正在火上转动烧烤着;
炉子上则炖着两条洛泽湖的大鲤鱼和一条阿洛兹湖的鳟鱼。

店主听到门打开,走进一位新客人,没有从炉灶抬起睛就问道:“先生,请问要什么呀?”
“我要吃饭,睡觉。”那人答道。
“那再容易不过了。”店主又说道。

这时,他回过头来,从头到脚打量一下旅客,便补充一句:
“不过,先生,我们这里要交现钱。”
那人从外套兜里掏出一个大皮钱包,答道:“我有钱。”

“那好,这就伺候您。”
那人把钱包放回兜里,卸下行囊,撂在靠门的地上,手里还拿着棍子,走到炉火旁,坐到一张矮凳上。
迪涅城位于山区,十月的夜晚很冷。
这功夫,店主来回走动,总是打量着旅客。

“请问,很快就能吃上吗?”那人问道。
“先生,请稍等一会儿。”店主答道。

这时,新来的客人转过背去烤火,可敬的店主雅甘·拉巴尔则从兜里掏出一支铅笔,
又从靠窗前的小桌上的旧报纸上撕下一角,
在白边上写下了一两行字,再折起来,但是没有封上,交给一个看样子给他又当厨役、
又当小厮的孩子,还对着耳朵吩咐了一句,于是,那孩子便朝市政厅的方向跑过去。

那旅客一点也没有看见这场面。
他又问了一声:“请问,很快就能吃上吗?”
“我说过了,先生,稍等一会儿。”店主答道。

过了一会儿,那孩子回来,又带回那张字条,店主急忙打开,就好像等候回音似的。
他仿佛仔细看了一遍,接着摇了摇头,沉吟了片刻。
那旅客心神不宁,似乎在想个什么事儿。
店主终于跨上前一步,说:“对不起,先生,我不能接待您。”

那人在座位上猛然一挺身子。
“怎么!您怕我不付钱吗?您要我先付钱吗?跟您说,我有钱。”
“不是这个缘故。”
“那是为什么?”
“您有钱……”
“不错。我有钱。”那人答道。

“可是我”店主却说,“我没有客房了。”
那人又平静地说道:“那就把我安顿在马棚里吧。”
“不行。”
“为什么?”
“地方全让马匹给占了。”

“那好吧,”那人又说,“阁楼有个角落也行,放上一捆草。这事儿吃了饭再说吧。”
“我也不能供给您饭吃。” 这种表示,虽然说得慢条斯理,
但是语气很坚定,那旅客感到事情严重了,立刻站起身。

“哼,算啦!我可饿得要死。太阳一出来我就赶路,走了十二法里。我付钱嘛。我要吃饭。”
“什么吃的也没有。”店主说道。

那人放声大笑,身子转向壁炉和炉灶。
“什么吃的也没有!那壁炉上挂着的这些食物呢?”

“对不起,先生,这些全是订做的。”
“谁订的?”
“那些车老板先生。”
“他们有多少人?”

“十二个人。”
“可是这里的食物够二十个人吃的。”
“他们全订下了,预先付了钱的。”

那人重新坐下,以原来的声调说:“我来到了旅店,肚子饿了,我不走。”
这时,店主俯下身,对着他耳朵,用一种令他惊抖的口吻说:“对不起,先生,你快走开!”

那旅客正弯下腰,用他棍子的包铁头往火里拨弄几块炭,
他听见这话,猛地转过身,正要开口反驳,而店主却盯着看他,始终低声地又说道:
“喂,别废话了。要我说出您的姓名吗?您叫冉阿让。现在,要我说您是什么人吗?

我看见您进来,就觉得有点不对头,于是派人去市政厅问一问,这就是给我的回答。
您识字吗?”

店主说着,就把打开的字条递给旅客,那张字条刚从旅馆传到市政厅,又从市政厅传回旅馆了。
那人朝字条上瞥了一眼。

店主沉默片刻,接着又说道:“我一向对所有人都客客气气。请你走开!”
那人低下头,拾起撂在地上的行囊,便离去了。

他上了大街,漫无目的地走着,而且溜着墙根,如同一个丢了面子而伤心的人。

他一次也没有回头,他若是回头,就会看见“柯耳巴十字架”旅馆老板站在门口,和他店里所有旅客与街上行人围着,
正用手指着他高声谈话,而且,从那众人惊疑的眼神里,他就能猜出他才刚到达就闹得满城风雨了。

整个场面,他一点也没有瞧见。
失魂落魄的人不朝身后看,他们十分清楚,追随他们的是厄运。



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【注 釈】


维克多·雨果】 wéi kè duō · yǔ guǒ    ヴィクトル・ユーゴー(Victor-Hugo)(1802~1885年)
フランス・ロマン主義の詩人、小説家。大河小説「レ・ミゼラブル」の著者として著名。
他の代表作に小説「ノートルダム・ド・パリ」、戯曲「エルナニ」など。


维克多·雨果(Victor Hugo 1802~1885年)
法国19世纪前期积极浪漫主义文学的代表作家,法国文学史上卓越的资产阶级民主作家,
被人们称为“法兰西的莎士比亚”。
一生写过多部诗歌、小说、剧本、各种散文和文艺评论,在法国及世界有着广泛的影响力。
其代表作有长篇小说「悲惨世界」「巴黎圣母院」和「九三年」。



悲惨世界】 bēi cǎn shì jiè    レ・ミゼラブル(Les Miserables)
ヴィクトル・ユーゴーが1862年に執筆したロマン主義フランス文学の大河小説。1862年刊。
フランス革命から王政復古へと激動するフランス社会を背景に、一切れのパンを盗んだために
投獄されたジャン・バルジャンの波乱に満ちた生涯を描く。


悲惨世界是由法国作家维克多·雨果在1862年发表的一部长篇小说。
其内容涵盖了拿破仑战争和之后的十几年的时间。
故事的主线围绕主人公冉阿让(Jean Valjean)的个人经历,
融进了法国的历史、革命、战争、道德哲学、法律、正义、宗教信仰。
该作多次被改编演绎成影视作品。



迪涅城】 dí niè chéng    ディーニュ(Digne)フランス南部の町。
寥寥无几】 liáo liáo wú jǐ    きわめて少数の。
鸭舌帽】 yā shé mào    鳥打ち帽。
拿破仑】 ná pò lún    ナポレオン(Napoleon)フランス皇帝。

戛纳】 jiá nà    カンヌ(Cannes)フランス南部の都市。
加桑迪】 jiā sāng dí    ガッサンディ(Gassendi)地名。
普瓦什维】 pǔ wǎ shí wéi    ポアンシュヴェル(Poichevert)地名。
德鲁奥】 dé lǔ ào    ドルーオー(Drouot)人名。

瑞安海湾】 ruì ān hǎi wān    ジュアン湾(Gulf Juan)
ナポレオンが1815年3月1日、エルバ島より再びフランスに上陸した湾。

柯耳巴十字架】 kē ěr bā shí zì jià    クロア・ド・コルバ(Cross de Colbas)旅館名。
掌勺】 zhǎng sháo    料理人。コック。
白竹鸡】 bái zhú jī    白鷓鴣(しろしゃこ)(White Partridge)
雄山雉】 xióng shān zhì    雷鳥(らいちょう)(Heather-Cock)

土拨鼠】 tǔ bō shǔ    マルモット(Marmot)
洛泽湖】 luò zé hú    ローゼ湖(Lake Lauzet)
洛兹湖】 luò zī hú    アロズ湖(Lake Alloz)

雅甘・拉巴尔】 yǎ gān ・ lā ba ěr    ジャカン・ラバール(Jacquin Labarre)人名。
小厮】 xiǎo sī    小間使い。使い走り。
冉阿让】 rǎn ā ràng    ジャン・ヴァルジャン(Jean Valjean)人名。



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【口語訳】


「レ・ミゼラブル」   ヴィクトル・ユーゴー


それは、1815年十月初めのある日、日の暮れる一時間ほど前のことだった。
徒歩で旅を続けてきたらしい一人の男が、ディーニュの小さな町に入ってきた。

ちょうど人家の窓や戸口にあまり人のいない時間ではあったが、
なお何人かの人々はそこにいて、一抹の不安の念を抱きながら旅人を見つめた。

おそらくこれ以上みすぼらしい風をした旅人はめったに見られなかった。
それは中肉中背で、肩幅の広い頑丈そうな男であった。四十六か七、八くらいであろう。

皮のつば付きの鳥打帽が、日に焼け、風にさらされ、汗にまみれた顔の一部を隠していた。
黄色がかった粗末なシャツは、首の所で銀の止め金で止めてあるだけで、そのすきまから毛深い胸がのぞいていた。

ネクタイは縒(よ)れてひものようになっている。
青い木綿のズボンは傷んですり切れ、片膝(ひざ)は白くなり、もう一方の膝には穴があいている。

灰色の上着の片方のひじには、緑色のつぎあてが当ててあった。
真新しい背嚢(はいのう)を背負っており、中には物が詰め込んであるらしく、締め金で堅くとめてある。

手には節(ふし)のある大きな杖を持ち、鉄鋲(てつびょう)を打った短靴を、素足のままではいていた。
頭は短く刈り込み、ひげを長くはやしている。

汗、暑気、そしてほこりにまみれた旅人のようすは、いかにも、うすぎたなかった。
頭髪は短かったが、逆立っていた。しばらく刈らずにいたらしく、少し伸びはじめていたからである。

だれも彼を知っている者はなかった。明らかに一人の通りすがりの男にすぎなかった。
どこからきたのであろうか。南方から、たぶん海辺からきたのであろう。

というのは、彼がディーニュにはいってきたのは、七カ月以前にナポレオンがカンヌからパリへ行く時に通ったのと同じ道からであった。
この男は終日歩きづめだったに違いない。とても疲れた様子だった。

町の南にある旧市街に住む女どもが見たところによると、彼はガッサンディ大通りの並木の下に立ち止まって、
そのはずれにある泉の水を飲んだ。

大変喉(のど)がかわいていたにちがいない。
彼の後をつけて行った子供らは、彼がそれからまた二百歩ばかり行って、市場の泉の所に立ち止まってまた水を飲むのを見た。

彼はポアンシュヴェル街の角まで行って左に曲がり、市役所の方へ足を運んだ。
彼は市役所にはいり、それから十五分ばかりしてまた出てきた。

門のそばの石のベンチに憲兵が一人腰をかけていた。
それは、ドルーオー将軍が三月四日に、動揺するディーニュ市民の群衆に向かって、ジュアン湾の宣言を読みきかすために上った石である。

旅の男は帽子をぬいで、丁寧にその憲兵に礼をした。
そのあと男はこの地方で最上等のクロア・ド・コルバという宿屋の方へ歩みを向けた。

そしてすぐ表通りに向いた料理場にはいった。
かまどはみな火が燃えており、炉には威勢よく炎が立っていた。

宿屋の主人はまた同時に料理人頭であって、かまどや鍋を見て回り、
馭者(ぎょしゃ)たちのためにこしらえる旨い食事の監督をし、ひじょうに忙しかった。

馭者たちが隣の室で声高に笑い興じてるのも聞こえていた。
旅をしたことのある人はだれでも知ってる通り、およそ馭者たちほどぜいたくな食事をする者はいない。

肥った山鼠(マルモット)は、白鷓鴣(しろしゃこ)や雷鳥(らいちょう)と並んで、長い鉄ぐしにささって火の前に回っており、
かまどの上には、ローゼ湖の二尾の大きな鯉とアロズ湖の一尾の鱒(ます)とが焼かれていた。

主人は、戸があいて誰かが入ってきた音をきいて、かまどから目を離さずに言った。
「何の御用ですか?」

「食事と泊まりです。」と男は言った。
「いいですとも。さあどうぞ。」と主人は言った。

主人はふり向いたが、旅の男のみすぼらしい様子を見て、つけ加えて言った。
「金を払って下されば……。」

男はポケットから皮の大きい財布を取り出して答えた。
「金は持っていますよ。」

「では承知しました。」と主人は言った。

男は財布をポケットにしまい、背嚢をおろし、それを戸のそばに置き、
手に杖を持ったままで、火のそばの低い椅子の所へ行って腰をおろした。

ディーニュは山間の地であって、十月になれば夜はもう寒かった。
その間主人は、あちらこちらへ行ききしながら、旅人に目をつけていた。

「すぐに食事ができますか?」と男は言った。
「ちょっとお待ちください。」と主人は言った。

その新来の客がこちらに背を向けて火に当たっているうちに、しっかり者の主人ジャカン・ラバールは
ポケットから鉛筆をとり出し、それから窓の近くの小卓の上に散らばっていた古い新聞の片すみを引き裂いた。

彼はその欄外の空所に一二行の文句を書きつけ、それを折って封もせずに、料理手伝いや小使いをやっているらしい子供に渡した。
主人が耳もとに一言ささやくと子供は市役所に駆けて行った。

旅の男はそれらのことには少しも気がつかなかった。
彼はもう一度尋ねた。「食事はすぐにできますか?」

「旦那様、先ほども言いましたが、少々お待ちください。」と主人は言った。

しばらくして、子供は帰ってきた。紙片を持ち戻っていた。
主人は返事を待っているかのように急いでそれを開けた。

彼は注意深くそれを読んでから、首を横に振り、しばらく考え込んだ。
旅人は落ちつかず、何か考え事をしているようだった。

店主はようやく一歩前に出て言った。
「すみません、旦那様、お泊めするわけにいきません。」

男は椅子の上でぴくりと体を起こした。
「なぜだね。私が金を払うまいと心配するのか。それとも前金で払ってほしいのか。金は持っていると言ったではないか。」

「そのことではありません。」
「では、いったい何だ。」
「あなたは金を持っているが。」
「そうだ。金はある。」と男は言った。

「だが私の所に」と主人は言った、「客室がないのです。」
 男は落ち着いて口を開いた。「じゃあ、馬小屋でもいい。」

「それもだめです。」
「なぜ?」
「あそこは馬でいっぱいなんです。」

「それでは」と男はまた言った、「物置きのすみでもいい。藁(わら)が一束あればいい。が、そんな話は食事の後にしよう。」

「食事を差し上げることはできません。」

その言葉は、穏やかだったが、強い調子で発せられたので、男には重々しく響いたらしかった。彼は立ち上がった。
「なんと! 私は腹が空(す)ききってるんだ。私は日の出から歩き通しで、十二里も歩いたんだ。金は払う。何か食わしてくれ。」

「あいにく何もありません。」と主人は言った。

男は笑いだした、そして炉やかまどの方へふり向いた。
「何もないだって! ではあそこにある料理はなんだ?」

「あれは注文済みのものです。」
「だれに?」
「馭者の方たちに。」

「幾人いるんだい。」
「十二人。」
「たっぷり二十人分くらいはあるじゃないか。」
「すっかり予約済みなんです、そして前金でいただいています。」

 男は再び腰をおろした、そして別に声を高めるでもなく言った。
「ここは宿屋じゃないか。私は腹ぺこなんだ。ここを一歩だって動かないぞ。」

そこで主人は彼の耳元に身をかがめて、断固とした口ぶりで言った。
「さあ、ここから出ていってもらおう。」

男は前かがみになって、杖の先の金具の所でかまどの残り火をつついていたが、急にふり返った。
そして彼が何かいいかけたとき、主人はじっと彼を見つめて、低い声でつけ加えた。

「さあもうぐずぐず言うには及ばない。おまえの名を言ってあげようか。ジャン・ヴァルジャンだ。
それからおまえがどんな人間だか言ってやろうかね。

おまえがはいって来るのを見て、あることに感づいたんだ。私は市役所に人をやった。
そしてここに役所からの返事がある。おまえは字が読めるだろう。」

そう言いながら主人は、宿屋と市役所との間を往復した紙片をすっかりひろげて差し出した。
男はちらりと紙片を見た。

主人はちょっと沈黙の後にまた言った。
「私はあまり手荒なことはしたくないんだ。さあ、おとなしく出ていってもらおう。」

男は頭をたれ、下に置いてる背嚢を取り上げ、そして出て行った。彼は大通りの方へ進んで行った。
はずかしめられ悲しみに沈んでいる者のように、彼は人家の塀に沿って、ただ当てもなくまっすぐに歩いて行った。

その間、一度も後ろを振りむこうとしなかった。もし振り返ったなら、宿屋の主人が入り口に立って、
客や通りすがりの人々に、旅の男のほうを指さして、声高に話しているのを見たことだろう。

そして人々の怪訝そうな顔を見て、物騒な男が来たと感づいたなどと得意げに話していることだろう。

男は、それらのことを決して見ようとはしなかった。絶望しきった者は自分の後ろを振り返らないものなのだ。
悪い運命が自分の後について来るのをあまりによく知っているからであった。