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【第五課 第十五節】 小説読解
「长腿叔叔」 (一) 简·韦伯斯特
忧郁的星期三
每个月的第一个星期三真的是糟糕透顶——— 一个在忧虑中等待,勇敢地忍耐后,却忙一忙又忘记的日子。
这一天,每层地板都必须光洁照人,每张椅子都要一尘不染,每条床单都不可以有半条皱褶。
还要把九十七个活蹦乱跳的小孤儿梳理一遍,给他们穿上了上好浆的格子衬衫,并且一一嘱咐他们要注意礼貌。
只要理事们一问话,就要说:“是的,先生”,“不是的,先生”。
这真是个令人沮丧的日子,可怜的乔若莎•艾伯特,作为孤儿院里最年长的孤儿,当然更加倒霉。
不过,这个特别的星期三,跟往常一样,终于也挨到头了。
乔若莎逃出了厨房,她刚在那里为访客们做了三明治,转到楼上完成她每天的例行工作。
她负责第六室,那里有十一个四岁到七岁不等的小东西和十一张排成一列的小床。
乔若莎把他们都叫来,帮他们整理好皱巴巴的衣服,抹干净鼻涕,排成一行,
然后领着他们往餐室走去,在那里他们可以尽情地享受半个小时,喝牛奶,吃面包,再加上梅子布叮
她疲惫地跌坐在窗台上,把涨得发疼的太阳穴靠着冰冷的玻璃。
从早晨五点钟起,她就手脚不停地忙碌,听从每个人的命令,不时被神经兮兮的女监事臭骂,催得晕头转向。
李皮太太在私底下,可不是像她面对理事们和来访的女士时表现的那样冷静,一副庄重的模样。
乔若莎的目光掠过孤儿院高高的铁栏杆外边一片上了冻的开阔草地,望到远处起伏的山峦,
山上散落着的村舍,在光秃秃的树丛中露出了房舍的尖顶。
这一天过去了,就她所知,应该算是圆满落幕了,没有出现什么差错。
理事们与参访团已经绕过一巡,听取了汇报,喝过茶,现在,正要赶着回到自家温暖的炉火边了,
起码要再过一个月才会想起他们照管的这些磨人的小东西。
乔若莎倾身向前,好奇地看着那一连串马车与汽车挤挤挨挨穿过孤儿院的大门,不禁一阵渴望。
幻想中,她跟着一辆又一辆车,来到坐落在山坡上的一栋大房子里。
她想像自己穿着一件貂皮大衣,带着天鹅绒装饰的丝织帽子,靠在车座上,漫不经心地向司机说:
“回家!”不过一到家门口,整个想像都变得模糊了。
乔若莎有个幻想——一个李皮太太说要是不小心点,她就会惹上麻烦的幻想。
但是,不管她的想像力有多么丰富,都无法带领她走进那扇自己渴望进入的大门,她只能停留在门廊上。
可怜的充满了冒险心的小乔若莎,在她十七年的岁月里,从未踏入进任何一个正常的家庭。
她无法想像,其他没有孤儿干扰的人们日常生活会是什么样子。
乔……若……莎……艾……伯……特
有人要……你去办公室,而我想啊,你最好动作快一点!
汤米•狄伦,刚加入唱诗班,唱着走上楼梯,从走廊走向第六室,声音越来越近,越来越响。
乔若莎将思绪从窗外拉回来,好面对生活里的麻烦事。
“是谁叫我?” 她打断汤米的咏唱,急切地问道。
李皮太太在办公室,我觉得她好像火很大,阿……门!
汤米依然虔诚地吟颂着,他的腔调不完全是那么幸灾乐祸。
就算是心肠最硬的小孤儿,对一个做错事的姐姐要被叫去见那个讨厌的女监事时,还是会表示相当同情的。
况且汤米挺喜欢乔若莎的,虽然她有时候使劲扯他的胳膊,给他洗脸时几乎把他的鼻子给擦掉了!
乔若莎默默地去了,额头上出现了两道皱纹。
会是哪里出了差错?三明治切得不够薄?还是有壳掉在杏仁蛋糕里了?
还是哪个来访的女士看到苏西•华生袜子上的破洞了?
还是……哎,糟糕!是不是那个六号房里的顽皮的小宝贝把调味酱弄倒在理事身上了?
又长又低的长廊已经关了灯,当她下楼时,最后一个理事站在那儿,正要离开。
在办公室敞开的门里,乔若莎只看了一下这个人,感觉好高好高。
他正朝院外等着的一辆汽车招手,当汽车靠近时,刺眼的车灯把他的影子投射在大厅的墙上,
影子把手脚都滑稽地拉长了,从地板一直延伸到走廊的墙壁上。
它看起来真像个人们俗称的长腿叔叔”—— 一个晃来晃去的大蜘蛛。
乔若莎紧锁的眉头舒展开,轻松地笑起来。她是个天性乐观的人,一点小事都能把她逗乐。
从使人感到压抑的理事身上发现笑料,确实是一件意外的好事。
这段小插曲使她高兴起来,让她进办公室去见李皮太太时,脸上还挂着一丝笑意。
令人惊讶的是,女监事也在对她笑,就算不是真的在笑,至少也还算和蔼。她几乎像对待来访的客人一样满面喜悦。
“乔若莎,坐下,我有些话要跟你说。”
乔若莎跌坐到最近的一张椅子上,屏息以待。有汽车在窗外驶过,闪光照过窗户。李皮太太望着远去的车子,问道:
“你注意到刚走的那位先生了吗?”
“我看到了他的背影。”
“他是我们最富有的理事之一,向孤儿院捐了很多钱。但他特意要求不要透露他的姓名,所以我不能告诉你他的姓名。”
嗯? 乔若莎的双眼微微张大了。她不太习惯被女监事叫到办公室,讨论理事们的怪癖。
“这位先生已经关照过孤儿院的几个男孩子。
你记得查理•班顿跟亨利•傅理兹吧?
他们都是被这位先生……这位理事,送去上大学的。
两人都很用功,用良好的成绩来回报他慷慨的资助。这位先生从不要求其他的报偿。
但是,到目前为止,他的仁慈仅限于对男孩子,我从未能让他对女孩们留一点心,不论她们有多么出色。
我可以这样说,他一点也不在乎女孩子。”
“是的,女士。”乔若莎喃喃答道,此刻似乎应该要答点什么。
“今天的例会里,有人提起你的前途问题。”
李皮太太略微停顿了一会儿,然后又慢条斯理地说下去,让她的听众感到神经紧绷,非常痛苦。
“通常,你知道的,孩子们过了十六岁以后就不能留下来了,不过你算是个特例了。
你十四岁读完孤儿院的课程,表现良好——我不得不说,你的操行并非一向优良——由于你的表现,
我们让你继续读村里的高中。现在你也快毕业了,我们不能再负担你的生活费了。
就这样,你已经比其他人多享受了两年教育。”
李皮太太全然无视乔若莎这两年为了她的食宿,已经工作得很卖力了。
永远都是孤儿院工作第一,功课摆第二位。遇到像今天这种日子,她就得留下来打扫卫生。
“我刚才说了,有人提出你的前途问题,会上讨论了你的表现——彻彻底底地讨论了一番。”
李皮太太用一种责备的眼光盯着她的犯人,而这个囚犯也表现出一副有罪的样子,
倒不是因为她真的记得做过什么坏事,而是觉得李皮太太似乎认为她应该要这样。
“当然啦,以你来说,给你安排一个工作就行了,不过你在学校里,
某些科目表现突出,英文写作甚至可以说非常出色。
你们学校的理事——普里查小姐,正好在参访团里,她跟你的作文老师谈过,为你说了一番好话。
还读了你的一篇作文——题目是《忧郁的星期三》。”
这回乔若莎可真的知罪了。
“我听说,你嘲笑这个把你养大,为你做了这么多的孤儿院,没有表示出一点感激,
我不知道你是不是有意嘲弄,我也不知道你会不会被原谅。
不过,幸亏……先生,就是刚走的那位先生,表现出了不很强的幽默感。
就因为那篇不中肯的文章,他愿意让你去念大学。”
“去念大学?”乔若莎的眼睛睁得好大。
李皮太太点了点头。
“他留下来和我讨论了条件。很不寻常的条件。让我说,这位先生真有些古怪。
他认为你有天分,他希望把你培养成一个作家。”
“作家?”乔若莎脑子麻木起来,只能呆呆的重复李皮太太说的话。
“那只是他的理想。不管怎样,以后自然会知道。
他会给你够用的零用钱,对一个从没理过财的女孩子来说,实在是太多了。
不过这些琐事他安排得很周全,我也不便说什么。
这个夏天你都会留在这里,然后,好心的普查德小姐会负责替你打理所有行囊。
你的食宿与学费都会直接付给学校,在校四年期间,你每个月还有三十五元的零用钱。
这让你可以跟其他学生平起平坐的。
这些钱每个月都会由这位先生的私人秘书寄给你,相应的,你每个月也要回封信表示一下。
并不是要你为了零用钱向他道谢,他对此不屑一顾,不过你要写信告诉他求学的过程和日常生活的细节。
就像写给你的父母一样,如果他们还在世的话。”
“这些信将指名给约翰•史密斯先生,由秘书转交。
这位先生的名字当然不是约翰•史密斯,不过他希望当个无名氏。
对你而言,他将只是约翰•史密斯先生。
他要求你写信的原因在于他认为没有什么比写信更能培养写作技巧了。
由于你没有家人可联络,他才希望你写这样的信给他;另一方面他也想随时知道你的学习情况。
他绝不会回你的信,也不会很特别的注意你的信。
他很讨厌写信,也不想让你变成他的负担。
如果有任何紧急事件需要回复的——比如你被学校开除了,我想应该不会发生的——你可以跟他的秘书,格利兹先生联络。
每个月的书信是你绝对要遵守的义务,这也是史密斯先生惟一的要求,所以你一定要一丝不苟地写信,就当作你在付账单一样。
我希望这些信都是以一种尊敬的语气,而且能好好发挥你写作的技巧来。
你一定要记得你是在写信给约翰•格利尔孤儿院的理事才好。”
乔若莎的眼睛转向房门口。她兴奋得有些晕头转向了,她只想快点从老生常谈的李皮太太的身边逃走,好好来思考一下。
她起身试探着退了一步。李皮太太举手示意她留下来,这么好的宣讲机会怎么能随便放过呢?
“我相信你一定很珍惜这个从天而降的好运吧?
世上没有几个像你这种出身的女孩子能遇到这种好运。你一定要记得……”
“我会的,女士。谢谢您。我想如果没其他事的话,我得去为弗莱迪•柏金的裤子补补丁了。”
她带上房门走了,李皮太太目瞪口呆地望着门,她的长篇大论刚说到兴头上呢。
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【注 釈】
【长腿叔叔】 cháng tuǐ shū shu 「あしながおじさん」 (Daddy-Long-Legs)
ジーン・ウェブスター作。1912年発表。全編手紙で綴られた書簡体小説。
名も知らぬお金持ちの援助で大学に入った孤児の主人公ジェルーシャ (Jerusha) は、
その人物を 「あしながおじさん」 と呼び、生き生きとした楽しい手紙を書き送る。
【简•韦伯斯特】 jiǎn · wéi bó sī tè ジーン・ウェブスター (Jean・Webster) (1876-1916)
アメリカの女流作家。ニューヨーク出身。本名は Alice Jane Chandler Webster。
1897年、ニューヨーク市近郊のヴァッサー大学 (Vassar College) に入学。
「あしながおじさん」 の寮生活は、ここでの経験が大きく反映している。
1915年に結婚。翌年、女児を出産するがその直後、39歳という若さで亡くなった。
代表作は 「あしながおじさん」 「続あしながおじさん」 (Dear Enemy)など 。
なお、児童文学者マーク・トウェーン (Mark Twain) は彼女の大叔父にあたる。
简·韦伯斯特(Jean Webster 1876-1916)美国作家,出生于纽约州的佛雷多尼亚。
一个充满文艺气息的家庭中,父亲是Webster出版公司的合伙人,
母亲则是「汤姆历险记」作者马克·吐温(Mark Twain)的侄女。
1912年 出版小说「长腿叔叔」。这部小说在她多项作品中,最受到大家的喜爱和支持,
甚至1914年,还被亨尼·米勒(Henry Miller)改编成了舞台剧,
由当时最受欢迎的女明星(露丝·查特顿顿 Ruth Chatterton)担任女主角。
这部舞台剧造成热烈的轰动与回响,使得大众开始关注慈善事业及改革。
【光洁照人】 guāng jié zhào rén なめらかで美しく輝く
【乔若莎•艾伯特】 qiáo ruò shā • ài bó tè ジェルーシャ・アボット。(Jerusha Abbott 人名)
【太阳穴】 tài yáng xué こめかみ
【神经兮兮】 shén jīng xī xī 神経質な
【李皮太太】 lǐ pí tài tai リベット夫人。(Mrs. Lippett 人名)
【漫不经心】 màn bù jīng xīn 不愛想に
【汤米•狄伦】 tāng mǐ • dí lún トミー・ディロン。(Tommy Dillon 人名)
【唱诗班】 chàng shī bān (教会の)聖歌隊
【幸灾乐祸】 xìng zāi lè huò 他人の災いを喜ぶ
【苏西•华生】 sū xī • huá shēng スージー・ホーソーン。(Susie Hawthorn 人名)
【小插曲】 xiǎo chā qǔ エピソード
【查理•班顿】 chá lǐ • bān dùn チャールズ・べントン。(Charles Benton 人名)
【亨利•傅理兹】 hēng lì • fù lǐ zī ヘンリー・フリーズ。(Henry Freize 人名)
【慢条斯理】 màn tiáo sī lǐ しかめつらしい
【普里查】 pǔ lǐ chá プリチャード。(Pritchard 人名)
【平起平坐】 píng qǐ píng zuò 対等に振る舞う
【约翰•史密斯】 yuē hàn • shǐ mì sī ジョン・スミス。(John Smith 人名)
【格利兹】 gé lì zī グリッグス。(Griggs 人名)
【一丝不苟】 yì sī bù gǒu きちょうめんに
【约翰•格利尔】 yuē hàn • gé lì ěr ジョン・グリア。(John Grier)
【老生常谈】 lǎo shēng cháng tán 決まり文句
【弗莱迪•柏金】 fú lái dí • bǎi jīn フレディ・パーキンス。(Freddie Perkins 人名)
【带上房门】 dài shàng fáng mén 通ったあとドアをしめる
【到兴头上】 dào xìng tóu shang 佳境にいる
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【口語訳】
「あしながおじさん」(一) ジーン・ウェブスター
憂鬱な水曜日
毎月の第一水曜日は、本当に最悪の日。
びくびくしながら待ち、じっと耐え忍び、一刻も早く忘れてしまいたい一日です。
床という床は、しみひとつないようにします。
椅子からはほこりをはらい、シーツには、小じわひとつあってはいけないのです。
親のいない九十七人の子供たちに、のりのきいたギンガムのシャツを着せてやります。
子供たちは、片時もじっとしていません。
きちんと髪をとかし、お行儀よくするように何度も言って聞かせます。
理事さんたちに何か言われたら、きちんと返事するように教え込まなければならないのです。
本当につらく、苦しいひとときでした。
ジェルーシャ・アボットは、いちばん年上だったので、 何事もとやかく言われてしまうのです。
でも、この特別な第一水曜日も、いつもと同じく、どうやら終わりに近づいてきました。
お客様に出すサンドイッチを作っていたジェルーシャは、炊事場から抜け出します。
そして、ふだんの日課を果たすために、二階へ上がって行きました。
彼女の受け持ちは 六号室で、そこには、四つから七つまでの十一人の子供たちがいます。
部屋の中には、十一台の小さいベッドが一列に並んでいました。
彼女は子供たちの服のしわをのばし、鼻をきれいに拭いてやり、食堂へ向かわせます。
そこで子供たちは、パンとミルク、プディングで、楽しい夕食のひとときを過ごすのでした。
ジェルーシャは、窓際の椅子にぐったりとすわりこみ、ほてったおでこを冷たい窓ガラスに押しあてました。
ジェルーシャは、朝の五時から用事をさんざん押しつけられていました。
やたらピリビリしてるリベット院長から文句をいわれたり急がされたり。
立ちっばなしではたらきつづけ、もうくたくたに疲れきっていたのです。
院長は、理事たちや、お客様の前では外面がよく、落ち着いてもったいぶった顔をしています。
でも裏ではそうとも限りません。
ジェルーシャは、孤児院の高い鉄柵の向こうを見わたし、一面に氷の張った芝生をながめました。
うねうねと連なる丘に民家が点々とたち、葉を落とした木々のあいだに家々のとんがり屋根がのぞいています。
一日の仕事は無事にすんだけど、たぶん上出来……のはず。
理事たちと視察団は施設をひとまわりし、報告書に目を通し、お茶を飲んだりしていました。
でも今ごろは、楽しい家族だんらんをするために、家路を急いでるにちがいありません。
きっとまた来月まで、わずらわしいお役目なんか忘れたいと思っていることでしょう。
ジェルーシャは好奇心から、思わず身を乗り出しました。
孤児院の門を通り抜けていく馬車と車の列を、ちょっぴりせつなそうにながめます。
想像のなかで、ジェルーシャは次から次へと続く馬車を追って、丘の斜面にちらばる大きなお屋敷に向かうのでした。
毛皮のコートに、羽根飾りつきの帽子をかぶり、シートにもたれて、運転手にさらりと一言つぶやきます。
「家までやってちょうだい……。」
ところが玄関に着いたとたん、頭のなかの絵はぼやけてしまいます。
ジェルーシャには豊かな想像力がありました。
リベット院長にいわせると、気をつけないとトラブルのもと、らしい。
でも、いくら想像力をはたらかせても、入ろうとしている家の玄関から先は思い描けません。
探求心がおうせいなジェルーシャですが、残念ながらこれまでの十七年間、ふつうの家に入ったことがなかったからです。
孤児などとは縁のない、ふつうに暮らしてる人の日常は、想像もできませんでした。
ジェルーーシャ! アポーーーット!
呼ばれてるよ
院長室に
そんでもってたぶん
急がなくっちゃね!
聖歌隊に入ったばかりのトミー・ディロンが、歌をうたいながら階段をのぼって廊下をやってきました。
歌声が六号室に近づくにつれて大きくなります。
何かめんどうな事でも起きたのかしら?
窓べからはなれたジェルーシャは、たちまち現実に引き戻されました。
「だれが呼んでるの?」
トミーの歌をさえぎって慌ただしくたずねます。
事務室のリぺット院長だよ
そんでもってたぶんカンカンだ
アーメン!
まじめくさって歌ってるけど、トミーの口調はからかってるふうではない。
どんなにひねくれた子でも、何かやらかした姉が、あの嫌な院長に呼びつけられたとなれば、気の毒に思う。
それにトミーは、ジェルーシャが好きでした。
いくらときどき腕をがしっと引っつかまれて、鼻がもげそうなほどごしごし顔をふかれても。
ジェルーシャはおでこにしわを寄せ、なにも言わず部屋を出ていきます。
なんかまずいことしたっけ?
サンドイッチのパンが厚すぎた?
ナッツケーキに殻が混ざってた?
あっ、スージー・ホーソーンの靴下の穴が、視察委員に気づかれたのかも。
それとも……ヤバッ!
六号室のチビのだれかが理事さんの服にドレッシングをぶちまけたとか?
長くて低い廊下は明かりが消えていて、階段をおりたときはちょうど、理事の最後のひとりが帰るところでした。
事務室の開いたドアからちらりと見えましたが、とにかく背の高い人だなという印象を受けました。
その人は孤児院の外で待っている車に手をふっています。
車が近づいてきたとき、まぶしいヘッドライトに照らされて、くっきりした影が建物の壁に浮かびあがりました。
おかしいくらい腕と脚がひょろ長い影は、床を這い、廊下の壁まで折れて続いています。
あれが世にいう『あしながおじさん』とでもいうのかしら?
なんだか、ゆらゆら動く巨大なクモみたいです。
不安で顔をしかめてたジェルーシャは、くすっと笑いました。
もともと陽気なジェルーシャは、ちょっとした理由を見つけては楽しみのたねにしてしまいます。
理事なんておかたい人物を見て何かしら楽しめるなんて、願ってもない幸運といえるでしょう。
このささいな一件のおかげで気持ちが軽くなったジェルーシャは、事務室に入ると、リベット院長に笑顔を向けました。
すると、びっくり。院長のほうも、にこにこと上機嫌のようすでした。
にこにこまではいかなくても、そこそこ愛想のよい顔つきです。
お客さまに会うときと同じくらい感じの良い笑みを浮かべていました。
「ジェルーシャ、すわりなさい。話があります」
ジェルーシャはいちばん近くのいすにすわって、少し緊張して待ちます。
車が窓の外を通りすぎていき、院長がちらっと目をやりました。
「いまお帰りになった男性を見ましたか」
「うしろ姿だけ」
「あの方は、もっとも裕福な理事のおひとりで、孤児院に多額の寄付をしてくださっています。
お名前は言えません。明かさないことをお望みなので」
ん? ジェルーシャは、ちょっと目を丸くしました。
院長室に呼ばれて、ちょっと変わった理事の話をするなんて、なじみのないことでした。
「これまでにも、うちの男の子が数人、めんどうをみていただいています。
チャールズ・べントンやヘンリー・フリーズ、覚えているでしょう?
ふたりともミスター……ええっと、まあ、あの方に大学まで出していただきました。
彼らは一生懸命はたらいて、気前よく寄付してくださった多額のお金に恥じないように一人前になりました。
それ以外の報いを、あの方はお望みになりません。これまであの方の支援対象は男の子だけでした。
女の子には、まったく関心をもっていただけなかったのです。
どんなに優秀な子がいてもね。あの方は、おそらく、女の子には興味がないのでしょうね」
「あ、はい、そうですか」ジェルーシャはとりあえず返事をした。
このあたりで何かしら言ったほうがよさそうだと思って。
「今日の定例理事会で、あなたの将来が話題になりました」
リベット院長はやや間をあけて、ゆっくりとまた先をつづけました。
聞く側は、緊張してじりじりさせられてしまいます。
「知ってのとおり、この孤児院はふつう、十六歳までしかいられませんが、あなたの場合は例外としました。
この孤児院で必修としている勉強を十四歳でおえて、とても優秀だったので。
言っておきますが、素行のほうは優秀とは限りませんでしたがね。
そういうわけで、あなたを村の高校にも通わせることに決まったのです。
もうすぐそこも卒業ですが、孤児院としてはこれ以上あなたを養育する義務はありません。
なにしろ、すでにあなたは二年も長くいたのですから」
えーっと、院長? あたし、この二年間、食費をまかなうために一生懸命はたらいてきたんですけど、お忘れですね?
孤児院の都合を最優先にして学校は二の次で、今日みたいな日は学校に行かずに掃除雑用のために残ってたんですけど。
「先ほども言いましたが、あなたの将来をどうしようかという話が出た際に、あなたのこれまでの成績を検討しました。
それはもう、何から何まで」
リベット院長は被告席の罪人を責めるような視線を向け、『罪人』のほうも、はい有罪ですという顔をしました。
思わず期待にこたえただけで、うしろ暗いことをした覚えはありません。
「もちろんあなたのような場合、ふつうは就職できるようにとりはからいます。
ただ、あなたは科目によっては成績優秀で、とくに国語はすばらしいといってもいいようです。
視察団のミス・プリチャードが教育委員会にも入ってらして、あなたの作文の先生とよく話をなさるそうです。
今日、あなたのことをとてもほめてくださいました。
そしてあなたが書いた作文をみなさんの前でお読みになったのです。
あなたが『憂鬱な水曜日』という題をつけたものです」
ジェルーシャの有罪ですという顔は、こんどは本心そのものになりました。
「わたしは聞いて、感謝のかけらもないのかとあきれてしまいました。
あなたを育て上げ、ここまでよくしてくれた孤児院をばかにして、笑いのたねにしたのですから。
わたしはあなたがわざと茶化しているのか、そして許されるかどうかわかりませんでした。
でも、あなたは幸運でした。
あの方が……えっと、つまりさきほどお帰りになった方は、ユーモアのセンスを一応おもちのようです。
あの無礼な作文に心を動かされて、あなたを大学に通わせたいとおっしゃいました」
「大学?」ジェルーシャは、目をまん丸くした。
リベット院長がうなずく。
「あの方に残っていただき、さきほどまで条件を話しあっていました。ずいぶんめずらしい条件です。
あの方は、正直申し上げて、かなり変わっています。
あなたに特別な才能があると信じてらして、教育を受けさせて作家になさるおつもりなのです」
「作家?」ジェルーシャは頭がぼーっとして、院長のことばをくり返すことしかできませんでした。
「そういうご希望です。ものになるかどうかは、時間がたてばわかるでしょう。
気前よくおこづかいもいただけて、お金の管理もしたことがない子には多すぎるくらいです。
けれどもとても細かい計画を立ててらしたので、あれこれ申し上げる気にはなれませんでした。
あなたはこの夏のあいだは、ここに残ることになります。
ご親切にもミス・プリチャードが、出かけるときの荷物の準備を手伝ってくださいます。
四年間の学費と寮費は大学に直接支払われ、そのうえ在学中は月に三十五ドルのおこづかいまでいただけます。
それだけあれば、ほかの学生に引け目を感じることはないでしょう。
お金はあの方の秘書から月に一回送られてきて、あなたは、お返しとして、月に一度、報告の手紙を書くことになります。
お金のお礼状ではないのですよ。
あの方はそんなことを望んではいらっしゃいません。
勉強の進み具合や日常生活についてあれこれ書いてほしいとおっしゃっています。
ご両親が生きていたら書くような、そんな手紙です。
手紙のあて名はミスター・ジョン・スミスで、秘書あてに送りなさい。
ご本名ではありませんが、匿名のままになさりたいそうです。
あなたにとってあの方はジョン・スミスさん、ただそれだけです。
手紙を書くことを求めてらっしゃるのは、文章力を養うのにいちばんの方法だとお考えだからです。
あなたには手紙を書く家族もいないので、ご自分あてに書くのがいいというご希望です。
あわせてあなたの学習の情況についても把握しておきたいというご意向のようです。
あちらからのお返事は決してありませんし、手紙の内容に関心を示されることもないでしょう。
あの方は手紙を書くのがおきらいですし、あなたが自分の負担になるようなことは避けたいとお望みです。
万一どうしてもお返事が必要なときは……たとえばあなたが退学になるとか……。
そんなことはないと信じていますが、そういう場合は、秘書のグリッグスさんに連絡なさい。
この毎月の手紙はあなたの絶対的な義務で、ミスター・スミスが求めてらっしやる唯一のお返しです。
ですから、請求書に支払いをするようにきちんと書くことです。
手紙は常に敬意をこめた言葉遣いで、文章の学習成果がうかがえるようにしてほしいものです。
このジョン・グリア・ホームの理事に手紙を書いている、ということをくれぐれも忘れないように」
ジェルーシャは、ドアのほうに視線を移しました。
興奮のあまり頭がくらくらしていたのです。
院長の長々と続くお説教からさっさと逃げだして、とにかくじっくりと考えたい、という思いだけでした。
立ち上がって、おそるおそる後ろに下がってみました。
すると、リベット院長は手で待てと指図しました。
こんな絶好のお説教のチャンスを、院長が簡単に手放すはずがありません。
「めったにない幸運がふりかかってきたと、心から感謝しているでしょうね?
あなたのような立場の女の子がこのような幸運に出会えるチャンスはそうそうないのですよ。
そのことを肝にめいじて……」
「あ、はい、先生。ありがとうございます。えっと、お話がそれだけでしたら、そろそろいいですか?
わたしこれから、フレディ・パーキンスのズボンをつくろってあげなきやいけないし」
ジェルーシャが出ていってドアがバタンと閉められるのを、リベット院長は口をぽかんとあけて見つめました。
ありがたいお説教は宙ぶらりんのままとなってしまいました。