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【第五課 第二十五節】   小説読解


  「音乐会的小曲」  陶晶孙        


他宽敞地对比牙琴坐下,独奏家坐在舞台中央,会场的视线都集向独奏家。

伴奏暂在休止符里,他放双手在膝上,落视线在键盘上这时候,台下的会众要映进他的眼睛里。

cello 的 Cadenza 好像小流瀑的摇飞——他的视界之中,比牙琴,独奏家以外,
还看得着注意凝息于音乐的人们。

忽然他的眼睛视映着一个有记忆的相貌,他的心中动摇了!

“莫非要是她?”—— 他跟在独奏家后面,走出舞台之时,还对她一瞥,
不错的,是她!不——不过也不应该是她的!


为 Encore 又上坛的时候,他又对这位姑娘一瞥,——白毛的帽,大的春外套。
Encore 完了,拍手响了。人们都站立起来。

他匆忙套他的大衣于夜服上,戴他的黑的旧帽,他从他的衣袋里摸出一张今天的音乐单,他动笔写上去:

“我是你晓得的人,此刻我看错了当你为我从前的女朋友。
你或者要是真的我从前的女朋友——无论怎样,你和我从前的朋友是很相似的这话,

此刻对你还应该没有什么关系,不过你和我的从前的女朋友相似的事实倒也是真的,
所以我想要和你谈一次话。我此刻把这话来作要和你谈话的理由,是太失礼了。

不过,今天你有好意来听我们的音乐,也可以算你能和我谈话一刻的理由。”


他腰了纸片,走出门口,走出门口的人们已经不能看破他是今天的伴奏家了。
他走出场外,男女们三五作群向街走,他速步走一段后,在薄暗之中,就觅着她。

不过他不能近她了,他心中感得有一种感觉,他没有把纸片给她的勇气了。
所以他慢步跟在她的后面。

她是同一位年长姑娘同走的,她们倒是给了后面忧郁的他许多活泼的笑声。
她们走进 Cafe chat noir 了。他也跟进去。

这小都第一的咖啡店,倒有许多文士客,他本愿要坐在她们的旁边的,
但却坐在了一张不被她们发现的,她们背后的桌子上。

他噙着吸 Orange 水的细管,cello 的旋律在耳鼓里反响,美丽的 Cadenza 流过去,
她的轮画映在眼底,他的回想跳在心脏上。





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【注 釈】

陶晶孙】 táo jīng sūn    陶晶孫(とうしょうそん 1897~1952)作家、医学者。江蘇省無錫出身。

1906年(明治39)家族とともに来日。九州帝国大学医学部、東北帝国大学理学部に学ぶ。九州帝大在学中に処女作「木犀」(1921)を発表。
多才で音楽的才能にも富み、東北帝大ではオーケストラを組織した。1929年帰国。1950年、再び来日し、東京大学文学部講師を務めた。
著作に小説集「音楽会小曲」(1925年)、日本文集「日本への遺書」(1952年)などがある。


比牙琴】 bǐ yá qín    ピアノ。

【Cadenza】 カデンツァ    独奏曲。

三五成群】 sān wǔ chéng qún    三々五々連れ立って。



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【口語訳】


「音楽会小曲」   陶晶孫


私はゆったりとピアノに向かって座った。
ソリストが舞台中央に立つと、会場の視線は彼に集まった。

伴奏がしばらく途切れる。
私は、両手を膝の上に置き、鍵盤に視線を落とした。するとステージ下の聴衆が目に映った。

チェロのカデンツァ(Cadenza)が、小さな滝のゆれるように流れる。
—— 私の視界は、ピアノ、ソリストのほかに、演奏に聞き入っている人々の姿をとらえていた。


突然、私の眼に見覚えのある顔が映り、心が揺れ動いた。

「もしかして、彼女では?」—— ソリストの後をついてステージを離れるとき、ちらりと彼女を見た。
間違いない、彼女だ。いや —— でも、そんなはずはない。

アンコールで再びステージに上がったとき、もう一度その女性をちらっと見た。
—— 白い毛の帽子、ゆったりとしたスプリングコート。


アンコールが終わり、拍手が鳴った。人々が立ち上がった。私は急いで燕尾服の上にオーバーを着て、
黒の古い帽子をかぶると、ポケットから今日の音楽会のプログラムを取り出して、こう書いた。


「私はあなたがご存じの者です。先ほど私は、あなたをかつての恋人と見間違えました。
あなたは本当に、私のかつての恋人かもしれない —— いずれにせよ、あなたはその人に、とてもよく似ているのです。

これはあなたにとって、何ら関わりのない事かもしれません。
しかしあなたが、私のかつての恋人とそっくりだというのも、また事実です。

そんな事を理由にして、あなたとお話がしたいというのは、大変失礼な事かもしれません。
ですが今日、音楽を聴きに来てくれたことは、私と一度お話しする機会をいただく理由になるのではないでしょうか。」


私は紙片をポケットに入れ、入口を出た。入口を出た人々は、もはや私が今日の伴奏者だとは気づかなかった。
外へ出ると、男女の一群が、一斉に街の通りに向かっていた。私はしばらく足早に歩いて、薄闇の中で、彼女を見つけた。

しかし私は彼女に近づくことができなかった。紙片を彼女に渡す勇気がなくなってしまったのである。
そこで私はゆっくりと彼女の後を追った。

彼女は年上の女性と一緒で、彼女たちは後ろで憂鬱な面持ちでいる私に、屈託のない笑い声を何度も浴びせかけた。


彼女たちはカフェ・チャット・ノワール(Cafe chat noir)に入った。私もそのあとに続いて入った。

この小さな街で最初のカフェは、たくさんの芸術家肌の客たちで溢れていた。
私は、彼女らの隣に座るつもりだったが、気づかれないようにと、後ろのテーブルに座った。

ストローでオレンジジュースを飲んでいると、耳元でチェロの旋律が響き、美しいカデンツァが流れた。
私は、彼女の面影が目に浮かび、過ぎし日の思い出が、次から次へと胸によみがえった。