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【第五課 第三十節】 小説読解
长干行 cháng gàn xíng (唐) 李白
妾发初覆额 折花门前剧 |
qiè fā chū fù é zhé huā mén qián jù |
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郎骑竹马来 绕床弄青梅 |
láng qí zhú mǎ lái rào chuáng nòng qīng méi |
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同居长干里 两小无嫌猜 | tóng jū cháng gàn lǐ liǎng xiǎo wú xián cāi | |
十四为君妇 羞颜未尝开 | shí sì wèi jūn fù xiū yán wèi cháng kāi | |
低头向暗壁 千唤不一回 |
dī tóu xiàng àn bì qiān huàn bù yì huí |
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十五始展眉 愿同尘与灰 | shí wǔ shǐ zhǎn méi yuàn tóng chén yǔ huī | |
常存抱柱信 岂上望夫台 | cháng cún bào zhù xìn qǐ shàng wàng fū tái | |
十六君远行 瞿塘滟滪堆 |
shí liù jūn yuǎn xíng qú táng yàn yù duī |
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五月不可触 猿声天上哀 | wǔ yuè bù kě chù yuán shēng tiān shàng āi | |
门前迟行迹 一一生绿苔 | mén qián chí xíng jì yī yī shēng lǜ tái | |
苔深不能扫 落叶秋风早 | tái shēn bù néng sǎo luò yè qiū fēng zǎo | |
八月胡蝶黄 双飞西园草 | bā yuè hú dié huáng shuāng fēi xī yuán cǎo | |
感此伤妾心 坐愁红颜老 |
gǎn cǐ shāng qiè xīn zuò chóu hóng yán lǎo |
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早晚下三巴 预将书报家 | zǎo wǎn xià sān bā yù jiāng shū bào jiā | |
相迎不道远 直至长风沙 | xiāng yíng bù dào yuǎn zhí zhì cháng fēng shā |
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【注 釈】
長干(ちゃうかん)の行(うた)
妾(せふ)が髮 初めて額(ひたい)を覆(おほ)ふとき 花を折りて門前に劇(たはむ)る
郎(らう)は竹馬に騎(き)して来(き)たり 床(しゃう)を遶(めぐ)りて青梅(せいばい)を弄(もてあそ)ぶ
同じく長干(ちゃうかん)の里に居(を)り 両(ふた)つながら小(おさな)くして 嫌猜(けんさい)無し
十四 君が婦(つま)と為り 羞顏(しうがん) 未だ嘗(かつ)て開かず
頭(かうべ)を低れて暗壁(あんへき)に向ひ 千喚(せんかん)に一(いつ)も回(めぐ)らさず
十五 始めて眉を展(の)べ 願はくは塵(ぢん)と灰とを同(とも)にせん
常に抱柱(ほうちゅう)の信を存し 豈(あ)に望夫台(ぼうふたい)に上らんや
十六 君遠(とほ)く行(ゆ)く 瞿塘(くとう) 艶澦堆(えんよたい)
五月 触(ふ)るるべからず 猿声(ゑんせい) 天上(てんじゃう)に哀(かな)し
門前 遲行(ちかう)の跡(あと)一一(いちいち) 緑苔(りょくたい)を生(しゃう)ず
苔(こけ)深くして掃(はら)ふ能(あた)はず 落葉(らくえふ) 秋風(しうふう)早し
八月 蝴蝶(こてふ)黄(き)なり 雙(なら)び飛ぶ西園(せいゑん)の草
此(これ)に感じて妾(せふ)が心を傷ましめ 坐(そぞろ)に愁ふ紅顏(こうがん)の老ゆるを
早晩(いつか)三巴(さんぱ)を下らん 預(あらかじ)め書を將(も)ちて家に報(ほう)ぜよ
相ひ迎ふるに遠きを道(い)はず 直ちに長風沙(ちゃうふうさ)に至らん
李白 lǐ bái (りはく) (701~762年)
盛唐の詩人。字は太白(たいはく)四川省江油(こうゆ)の人。
宮廷詩人として玄宗に仕えたが、その寵臣の憎しみを買い、宮廷を追われた。
晩年は、江南の地で湖に小舟を浮かべて酒を呑みながら月を眺めて過ごした。
最後は酔って水中の月を捕らえようとして溺死したという。享年六十一。
絶句を得意とし、奔放で変幻自在な詩風から、後世「詩仙」と称される。
著作に詩集「李太白(りたいはく)集」(三十巻)
【长干行】 cháng gàn xíng 長干(ちょうかん)の行(うた)
長干は地名。現在の江蘇省南京市。当時は長江を往来する商人たちの居住地だった。
本作は、行商の旅に出かけた夫が、いつまでもたっても帰らない、若妻の嘆きを詠ったもの。
【妾髮初覆額 折花門前劇】
妾(せふ)が髮 初めて額(ひたい)を覆(おほ)ふとき 花を折りて門前に劇(たはむ)る
私の髪がやっと額を覆うようになってきた頃、何の憂いもなく、門前のあたりで花を摘んで遊んでいた。
【剧】 jù (游戏)遊び戯れる
【郎騎竹馬來 遶牀弄青梅】
郎(らう)は竹馬に騎(き)して来(き)たり 床(しゃう)を遶(めぐ)りて青梅(せいばい)を弄(もてあそ)ぶ
我が夫もそのころは竹馬に乗ってやってきて、井桁(いげた)のまわりを回っては青い梅の実をもてあそんでいた。
【床】 chuáng (水井的围栏)井桁(いげた)
【同居長干里 兩小無嫌猜】
同じく長干(ちゃうかん)の里に居(を)り 両(ふた)つながら小(おさな)くして 嫌猜(けんさい)無し
何せ、同じように長干の里にいて、幼い二人とも何のこだわりもなく、仲睦まじかった。
【嫌猜】 xián cāi 疑い憎むこと
【十四為君婦 羞顏未嘗開】
十四 君が婦(つま)と為り 羞顏(しうがん) 未だ嘗(かつ)て開かず
14歳であなたの妻になり、恥ずかしさで、はにかんで笑顔も作れないままだった。
【低頭向暗壁 千喚不一迴】
頭(かうべ)を低れて暗壁(あんへき)に向ひ 千喚(せんかん)に一(いつ)も回(めぐ)らさず
うなだれて壁に向かっては、千度呼ばれても、一度も振り向かないでいた。
【十五始展眉 願同塵與灰】
十五 始めて眉を展(の)べ 願はくは塵(ぢん)と灰とを同(とも)にせん
15歳でやっと眉をほころばせて笑うことができるようになり、ともに寄り添い灰になるまで一緒にいたいと願うようになった。
【常存抱柱信 豈上望夫台】
常に抱柱(ほうちゅう)の信を存し 豈(あ)に望夫台(ぼうふたい)に上らんや
あなたの愛は尾生(びせい)の抱柱の信(ほうちゅうのしん)のように堅固でしたから、わたしが望夫台に上って
夫の帰りを待ちわびるようになろうとは思いもしなかった。
【抱柱信】 bào zhù xìn 抱柱の信。尾生(びせい)という男が、橋下で会う約束をした女を待つうち、水かさが増してきたので、
橋の柱にだきついていたが、ついに溺れ死んでしまったという「荘子」の故事。信義を重んじる喩えとして用いられる。
【望夫台】 wàng fū tái 望夫台(ぼうふたい)旅に出た夫の帰りを待つ妻が、待ちわびて石に化したという高台。各地に望夫台の名が残る
【十六君遠行 瞿塘艶澦堆】
十六 君遠(とほ)く行(ゆ)く 瞿塘(くとう) 艶澦堆(えんよたい)
16歳になったとき、あなたは遠くへ旅立ち、長江の難所である瞿塘峡、灔澦堆の方にいってしまった。
【瞿塘】 qú táng 瞿塘峡(くとうきょう)長江の三峡のひとつ
【滟滪堆】 yàn yù duī 艶澦堆(えんよたい)瞿塘峡の入口にある大岩
【五月不可觸 猿聲天上哀】
五月 触(ふ)るるべからず 猿声(ゑんせい) 天上(てんじゃう)に哀(かな)し
5月の増水期にはとても近づくことも出来ないところで、そこには野猿がいて、その泣き声だけが大空に悲しそうに響きわたるという。
【門前遲行跡 一一生綠苔】
門前 遲行(ちかう)の跡(あと)一一(いちいち) 緑苔(りょくたい)を生(しゃう)ず
私たちの家の門前には、あなたが旅立ちの時、行ったり、戻ったりしていたその足跡の上には、いまは一つ一つ青いコケが生えてきている。
【遲行跡】chí xíng jì 行きつ戻りつしていた、その足跡。
【苔深不能掃 落葉秋風早】
苔(こけ)深くして掃(はら)ふ能(あた)はず 落葉(らくえふ) 秋風(しうふう)早し
その苔が深くびっしりと生えていて、とても払いきれるものではなく、そこに枯れ葉が落ちはじめて、早くも秋風が吹く。
【八月蝴蝶黃 雙飛西園草】
八月 蝴蝶(こてふ)黄(き)なり 雙(なら)び飛ぶ西園(せいゑん)の草
仲秋の八月には、つがいの黄色い蝶が飛んできて、二羽ならんで西の庭園の草花の上を仲良く並んで飛び回る。
【感此傷妾心 坐愁紅顏老】
此(これ)に感じて妾(せふ)が心を傷ましめ 坐(そぞろ)に愁ふ紅顏(こうがん)の老ゆるを
それを見るとおもわず心にあなたを思い、私の心は痛み、このまま紅顏が老いゆくのかとむなしく悲しくなる。
【早晚下三巴 預將書報家】
早晩(いつか)三巴(さんぱ)を下らん 預(あらかじ)め書を將(も)ちて家に報(ほう)ぜよ
いったいいつになったらあなたは三巴の長江を下って帰ってこられるのか、そのときはあらかじめ我が家に手紙で知らせてほしい。
【三巴】 sān bā 地名。四川省東部の巴東(はとう)、巴西(はせい)、巴県(はけん)を指す
【相迎不道遠 直至長風沙】
相ひ迎ふるに遠きを道(い)はず 直ちに長風沙(ちゃうふうさ)に至らん
お迎えをするのに、遠いと思うことなどありません、このまままっすぐに、長風沙まででも参ります。
【长风沙】 cháng fēng shā 長風沙(ちょうふうさ)地名。現在の安徽省懐寧(かいねい)県
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【口語訳】 「訳詩: 倉石武四郎(歴代詩選)」
ひたい髪 いとけなきころ 花折りて わが遊べるに
竹馬に 君は騎(の)りきて 青き梅 われと争ふ
せまき町 ひとつに住みて あどけなき 筒井筒(つついづつ)なれ
十四の日 君にとつぎて はずかしや 顔を得(え)あげず
かうべたれ 壁にむかひて 呼ばるるも 答(いら)へざりしを
十五の歳 はじめて笑(え)みつ 末(すゑ)ちぎる 願いはかたし
橋げたを 抱(いだ)く誠心(まごころ) 夫(つま)望む 石とは知らず
十六の日 君 旅に出(い)で 三峡(さんけふ)の 険しきをゆく
あやうきは 水増す五月(さつき) 高き嶺(みね)猿(ましら)鳴くてふ
君ゆきて わが家の辺は いつしかに みどり苔むす
苔むして 掃(はら)ひもあへず 秋の風 はや木の葉散り
八月(はつき)すぎ 残(のこ)んの蝶(てふ)の つがいにて 園生(そのう)にとべば
ひとりねの 胸いたましめ 若やぎし 頬の老いゆく
きみいつか 江(かは)をくだる日 あらかじめ 文(ふみ)寄せたまへ
遠きみち われはいとわず ひたゆかむ 長風沙(ちゃうふうさ)まで