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【第五課 第三十一節】   小説読解

 

  长恨歌 cháng hèn gē (唐) 白居易  


皇重色思国  御宇多年求不得  

hàn huáng zhòng sè sī qīng guó  yù yǔ duō nián qiú bù dé

家有女初成  养在深闺人未识  

yáng jiā yǒu nǚ chū zhǎng chéng  yǎng zài shēn guī rén wèi shí

天生丽质难自弃  一朝选在君王侧   tiān shēng lì zhì nán zì qì    yì zhāo xuǎn zài jūn wáng cè
回眸一笑百媚生  六宫粉黛无颜色   huí móu yí xiào bǎi mèi shēng   liù gōng fěn dài wú yán sè
春寒清池  温泉水滑洗凝脂   chūn hán cì yù huá qīng chí    wēn quán shuǐ huá xǐ níng zhī
侍儿扶起无力  始是新承恩泽时   shì ér fú qǐ jiāo wú lì   shǐ shì xīn chéng ēn zé shí
金步 芙蓉暖度春宵   yún bìn huā yán jīn bù yáo     fú róng zhàng nuǎn dù chūn xiāo
春宵苦短日高起 从此君王不早朝  

chūn xiāo kǔ duǎn rì gāo qǐ    cóng cǐ jūn wáng bù zǎo cháo

承欢侍宴无闲暇 春从春游夜专夜   chūn chéng huān shì yàn wú xián xiá   chūn cóng chūn yóu yè zhuān yè 
后宫佳丽三千人 三千宠爱在一身   hòu gōng jiā lì sān qiān rén   sān qiān chǒng ài zài yì shēn 
金屋妆成娇侍夜 玉楼宴罢醉和春   jīn wū zhuāng chéng jiāo shì yè   yù lóu yàn bà zuì hé chūn 
姊妹弟兄皆列士 可怜光彩生门户   zǐmèi dì xiong jiē liè shì   kě lián guāng cǎi shēng mén hù 
遂令天下父母心 不重生男重生女   suì lìng tiān xià fù mǔ xīn   bù chóng shēng nán chóng shēng nǚ 
骊宫高处入青云 仙乐风飘处处闻   lí gōng gāo chù rù qīng yún   xiān lè fēng piāo chù chù wén 
缓歌慢舞凝丝竹 尽日君王看不足   huǎn gē màn wǔ níng sī zhú   jìn rì jūn wáng kàn bù zú 
渔阳鼙鼓动地来 惊破霓裳羽衣曲   yú yáng pí gǔ dòng dì lái   jīng pò ní shang yǔ yī qǔ 


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【注 釈】


長恨歌(ちゃうこんか)


漢皇(かんくわう)色(しき)を重んじて 傾国(けいこく)を思ふ
御宇(ぎょう)多年(たねん) 求むれども 得ず

楊家(やうか)に 女(ぢょ)有り 初めて 長成(ちゃうせい)し
養(やしな)はれて 深閨(しんけい)に 在り 人 未だ識(し)らず

天生の麗質(れいしつ)は 自(おのづか)ら 棄て難く
一朝(いつてう)選ばれて 君王(くんわう)の側(かたはら)に 在り

瞳(ひとみ)を回(めぐ)らして 一笑(いつせう)すれば 百媚(ひゃくび)生(しゃう)じ
六宮(りくきう)の 粉黛(ふんたい)顏色(がんしょく)無(な)し


春(はる)寒(さむ)くして 浴(よく)を賜(たま)ふ 華清(くわせい)の池
温泉(をんせん)水滑(なめ)らかにして 凝脂(ぎょうし)を洗ふ

侍児(じじ)扶(たす)け起こすに 嬌(けう)として力(ちから)無し
始めて是(こ)れ 新(あら)たに 恩沢(おんたく)を承(う)くる時

雲鬢(うんびん)花顔(くわがん)金歩揺(きんぼえう)
芙蓉(ふよう)の帳(とばり)暖(あたた)かにして 春宵(しゅんせう)を度(わた)る

春宵(しゅんせう)短きに苦しみ 日(ひ)高くして起(お)く
此(こ)れ従(よ)り君王(くんわう)早朝(さうてう)せず

歓(くわん)を承(う)け 宴に侍(じ)して 閑暇(かんか)無く
春は春遊(しゅんいう)に従ひ 夜は夜を専(もっぱ)らにす

後宮の佳麗(かれい) 三千人   三千の寵愛(ちょうあい) 一身に在り

金屋(きんおく)粧(よそほ)ひ成りて 嬌(けう)として夜に侍(じ)し
玉楼(ぎょくろう)宴(えん)罷(や)んで 酔(ゑ)うて春に和(わ)す

姉妹(しまい)弟兄(ていけい) 皆(みな)土(ど)を列(つら)ぬ
憐(あはれ)む可(べ)し 光彩(くわうさい)の門戸(もんこ)に生(しゃう)ずるを

遂(つひ)に天下の父母の心をして
男(だん)を生むを重んぜず 女(ぢょ)を生むを重んぜしむ

驪宮(りきゅう)高き処(ところ) 青雲(せいうん)に入り
仙楽(せんがく)風に飄(ひるが)へりて 処処(しょしょ)に聞こゆ

緩歌(くわんか)慢舞(まんぶ) 糸竹(しちく)を凝(こ)らし
尽日(じんじつ)君王(くんわう) 看(み)れども足(た)らず

漁陽(ぎょやう)の鞞鼓(へいこ) 地を動かして来たり
驚破(けいは)す霓裳(げいしゃう) 羽衣(うい)の曲





白居易 bái jū yì  (はくきょい) (772~846年)

中唐の詩人。字は楽天(らくてん)。山西太原(たいげん)の人。
詩風は流麗で平易、広く愛誦され、なかでも玄宗と楊貴妃の愛をうたった「長恨歌」(ちょうごんか)は古来有名。

唐を代表する大詩人として、李白、杜甫、韓愈(かんゆ)と共に「李杜韓白」(りとかんぱく)と並び称された。
著作に詩集「白氏文集(はくしもんじゅう)」(七十五巻)



【长恨歌】 cháng hèn gē  長恨歌(ちょうごんか)長編叙事詩。玄宗と楊貴妃の愛を綴る。

806年、白居易35歳の作。本作は、形式上は漢の武帝のことを詠った形になっている。
すでに50年前に亡くなっているものの、玄宗を直接さすのをはばかったからである。


【漢皇重色思傾国、御宇多年求不得】

漢皇(かんくわう)色(しき)を重んじて 傾国(けいこく)を思ふ 御宇(ぎょう)多年(たねん) 求むれども 得ず

漢の皇帝は美女を得たいと望んでいた。しかし長年の治世の間に求めても得ることができなかった。

【汉皇】 hàn huáng  唐の玄宗皇帝
【倾国】 qīng guó  絶世の美女
【御宇】 yù yǔ  国を治める御代


【楊家有女初長成、養在深閨人未識】

楊家(やうか)に 女(ぢょ)有り 初めて 長成(ちゃうせい)し 
養(やしな)はれて 深閨(しんけい)に 在り 人 未だ識(し)らず

楊家の娘はようやく一人前になるころである。
深窓の令嬢として大切に育てられ、周囲には知られていなかった。

【初长成】 chū cháng chéng  年頃の娘になったばかり


【天生麗質難自棄、一朝選在君王側】

天生の麗質(れいしつ)は 自(おのづか)ら 棄て難く 
一朝(いつてう)選ばれて 君王(くんわう)の側(かたはら)に 在り

天性の美は自然と捨て置かれず、ある日選ばれて王の側(そば)に上がった。

【丽质】 lì zhì  美貌。生まれつきの器量


【回眸一笑百媚生、六宮粉黛無顏色】

瞳(ひとみ)を回(めぐ)らして 一笑(いつせう)すれば 百媚(ひゃくび)生(しゃう)じ 
六宮(りくきう)の 粉黛(ふんたい)顏色(がんしょく)無(な)し

視線をめぐらせて微笑めば百の媚態が生まれる。これには後宮の美女の化粧顔も色あせて見えるほどだ。

【粉黛】 fěn dài  化粧をした美女


【春寒賜浴華清池、温泉水滑洗凝脂】

春寒(さむ)くして 浴(よく)を賜(たま)ふ 華清(くわせい)の池
温泉(をんせん)水滑(なめ)らかにして 凝脂(ぎょうし)を洗ふ

春まだ寒いころ、華清池の温泉を賜った。温泉の水は滑らかに白い肌を洗う。

【凝脂】 níng zhī   かたまりたる油(白き皮膚の形容)


【侍児扶起嬌無力、始是新承恩澤時】

侍児(じじ)扶(たす)け起こすに 嬌(けう)として力(ちから)無し
始めて是(こ)れ 新(あら)たに 恩沢(おんたく)を承(う)くる時

侍女が助け起こすとなよやかで力ない。こうして晴れて皇帝の寵愛を受けたのであった。

【侍儿】 shì ér    付き添いの侍女


【雲鬢花顏金歩搖、芙蓉帳暖度春宵】

雲鬢(うんびん)花顔(くわがん)金歩揺(きんぼえう)
芙蓉(ふよう)の帳(とばり)暖(あたた)かにして 春宵(しゅんせう)を度(わた)る

やわらかな髪、花のような顔、歩みにつれて金のかんざしが揺れる。芙蓉模様のとばりは暖かく、春の宵を過ごす。

【金步摇】 jīn bù yáo  黄金の髪飾り(歩すればうごく故なり)


【春宵苦短日高起、從此君王不早朝】

春宵(しゅんせう)短きに苦しみ 日(ひ)高くして起(お)く
此(こ)れ従(よ)り君王(くんわう)早朝(さうてう)せず

春の宵はあまりに短く、日が高くなって起き出す。これより王は早朝の執政を止めてしまった。

【早朝】 zǎo cháo   朝のつとめ(朝に行う政事)


【承歓侍宴無閑暇 春従春遊夜専夜】

歓(くわん)を承(う)け 宴に侍(じ)して 閑暇(かんか)無く
春は春遊(しゅんいう)に従ひ 夜は夜を専(もっぱ)らにす

皇帝の心にかない、宴では傍らにはべり暇がない
春には春の遊びに従い、夜は夜で皇帝のお側を独り占めする


【後宮佳麗三千人 三千寵愛在一身】

後宮の佳麗(かれい) 三千人    三千の寵愛(ちょうあい) 一身に在り

後宮には三千人の美女がいるが 三千人分の寵愛を一身に受けている

【佳丽】jiā lì  美しき女性


【金屋粧成嬌侍夜 玉楼宴罷酔和春】

金屋(きんおく)粧(よそほ)ひ成りて 嬌(けう)として夜に侍(じ)し
玉楼(ぎょくろう)宴(えん)罷(や)んで 酔(ゑ)うて春に和(わ)す

黄金の御殿で化粧をすまし、なまめかしく夜をともにする
玉楼での宴がやむと、春のような気分に酔う


【姉妹弟兄皆列士 可憐光彩生門戸】

姉妹(しまい)弟兄(ていけい) 皆(みな)烈士(れっし)となりぬ
憐(あはれ)む可(べ)し 光彩(くわうさい)の門戸(もんこ)に生(しゃう)ずるを

妃の姉妹兄弟はみな諸侯となり うらやましくも、一門は美しく輝く

【列士】liè shì 諸侯に列する
【可怜】kě lián (让人羡慕)羨ましい


【遂令天下父母心 不重生男重生女】

遂(つひ)に天下の父母の心をして
男(だん)を生むを重んぜず 女(ぢょ)を生むを重んぜしむ

ついには天下の親たちの心も 男児より女児の誕生を喜ぶようになった


【驪宮高処入青雲 仙楽風飄処処聞】

驪宮(りきゅう)高き処(ところ) 青雲(せいうん)に入り
仙楽(せんがく)風に飄(ひるが)へりて 処処(しょしょ)に聞こゆ

驪山の華清宮は、雲に隠れるほど高く
この世のものとも思えぬ美しい音楽が、風に飄(ひるがえ)りあちこちから聞こえる

【骊宫】lí gōng    驪山の華清宮(驪山は、長安の東にある温泉地)


【緩歌慢舞凝糸竹 尽日君王看不足】

緩歌(くわんか)慢舞(まんぶ) 糸竹(しちく)を凝(こ)らし
尽日(じんじつ)君王(くんわう) 看(み)れども足(た)らず

のどやかな調べ、緩やかな舞姿 楽器の音色も美しく
皇帝は終日見ても飽きることがないそのときに

【丝竹】sī zhú   管弦楽。「糸」は弦楽器、「竹」は管楽器の意。


【漁陽鞞鼓動地来 驚破霓裳羽衣曲】

漁陽(ぎょやう)の鞞鼓(へいこ) 地を動かして来たり
驚破(けいは)す霓裳(げいしゃう) 羽衣(うい)の曲

漁陽の進軍太鼓が地を揺るがして迫り 霓裳羽衣の曲で楽しむ日々を驚かす

【霓裳】ní cháng   神仙の意。霓裳羽衣は曲名。
【渔阳】yú yáng (北京と天津の中間にあった地名)漁陽
【鼙鼓】pí gǔ  攻め太鼓



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【口語訳】


長恨歌(ちゃうこんか)


唐の玄宗 女色を好み 傾城(けいせい)の美姫(びき)を欲す
在位多年 之(これ)を求めて 得ざりしが 楊氏(やうし)の家に一女あり

年頃となるも 深窓(しんさう)に養われ 世人は其の娘 在るを知らざるに
天の成せる明眸(めいばう)自ら棄て難く 或る時 召されて君王(くんわう)の側(そば)に出でたり

少しく瞳(ひとみ)を回(めぐ)らし 一笑(いっせう)すれば 百の媚態 普(あまね)く生じ
然(さ)すれば 後宮に侍(はべ)りし 宮女ども 悉く色を失い 風下に立てり


春なほ浅く 余寒(よかん)去らざりし頃 華清宮の湯に浴し 滑(なめ)らかに白き肌を洗ふ
侍女(じぢょ)の扶(たす)け起こすに力なく なよやかに嬌態(けうたい)を為(な)せり

是(こ)れ新たに 恩沢(なさけ)を承(う)けたる始めなり
豊かな髪は雲のごと 玉(たま)の顔(かんばせ)花のごと 歩みにつれて簪(かざし)の揺れる


花はちす 織りなす帳(とばり) いと暖かく 春の宵を過ごしけり
春の夜の なほ短きを嘆きつつ 日高くして漸(やうや)く起きたまう

これより朝(あさ)なの君王(くんわう)政(まつりごと)無きに至れり


宴(うたげ)には 歓(よろこ)び承(う)けて 暇(いとま)もあらず
春の野も 夜ごとの床(とこ)も 人を交えず

後宮に 侍(はべ)りし 美姫(びき)は 三千人(みちたり)あれど
寵愛(なさけ)はすべて 独(ひと)りに注(そそ)がる


金殿(きんでん)に 化粧(けしゃう)成りては 夜を供(とも)にし
玉楼(ぎょくろう)に 宴(うたげ)の罷(や)めば 春に酔いぬる

縁(えにし)ゆえ 兄弟(けいてい)姉妹(しまい) 諸侯(しょこう)に列し
すさまじや 一族(いちぞく)大(おほ)いに 栄華(えいぐわ)をほこる


さればこそ 天下の父母の 男(お)の子を産(う)まず
願わくは 女(め)の子産(う)まむと 言ふに至りぬ

驪山(りざん)なる 宮居(みやい)は高く 雲間にそびえ
奇(くす)しくも 風のまにまに 楽(がく)の音(ね)ながる


管絃(くわんげん)の 歌はのどけく 舞(まひ)は緩(ゆる)かに
君王(くんわう)の 終日(ひねもす)飽(あ)かず 愉(たの)しめり

やにはに聞(き)こゆる 魚陽(ぎょやう)の軍鼓(ぐんこ)
地を轟(とどろ)し来たりて 霓裳(げいしゃう)羽衣(うい)の 曲ぞ破るる