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【第五課 第三十五節】   小説読解

 

  代悲白头翁    (唐)  刘希夷    

洛阳城东桃李花 飞来飞去落谁家 luò yáng chéng dōng táo lǐ huā fēi lái fēi qù luò shuí jiā
洛阳女儿惜颜色 坐见落花长叹息 luò yáng nǚ ér xī yán sè zuò jiàn luò huā cháng tàn xī
今年花落颜色改 明年花开复谁在 jīn nián huā luò yán sè gǎi míng nián huā kāi fù shuí zài
己见松柏摧为薪 更闻桑田变成海 yǐ jiàn sōng bǎi cuī wèi xīn gèng wén sāng tián biàn chéng hǎi
古人无复洛城东 今人还对落花风 gǔ rén wú fù luò chéng dōng jīn rén huán duì luò huā fēng
年年岁岁花相似 岁岁年年人不同 nián nián suì suì huā xiāng sì suì suì nián nián rén bù tóng
寄言全盛红颜子 应怜半死白头翁 jì yán quán shèng hóng yán zǐ yìng lián bàn sǐ bái tóu wēng
此翁白头真可怜 伊昔红颜美少年 cǐ wēng bái tóu zhēn kě lián yī xī hóng yán měi shào nián
公子王孙芳树下 清歌妙舞落花前 gōng zǐ wáng sūn fāng shù xià qīng gē miào wǔ luò huā qián
光禄池台文锦绣 将军楼阁画神仙 guāng lù chí tái wén jǐn xiù jiāng jūn lóu gé huà shén xiān
一朝卧病无相识 三春行乐在谁边 yì zhāo wò bìng wú xiāng shí sān chūn xíng lè zài shuí biān
宛转蛾眉能几时 须曳鹤发乱如丝 wǎn zhuǎn é méi néng jǐ shí xū yè hè fā luàn rú sī
但看古来歌舞地 唯有黄昏鸟雀悲 dàn kàn gǔ lái gē wǔ dì wéi yǒu huáng hūn niǎo què bēi


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【注 釈】

白髪を悲しむ老翁に代りて歌ふ

洛陽城東(らくやうじゃうとう)桃季(たうり)の花
飛び来り 飛び去りて 誰が家にか落つる

洛陽(らくやう)の女児(ぢょじ)顔色(がんしょく)を惜しむ
落花(らくくわ)座して見るに 長(とこしなへ)に嘆息す

今年(こんねん)花落ちて 顔色(がんしょく)改まり
明年(みょうねん)花開いて 復(また)誰(たれ)か在る

己(すで)に見る 松柏(しょうはく)の摧(くだ)かれて薪(たきぎ)となるを
更に聞く 桑田(さうでん)変じて 海と成るを

古人(こじん)復(また)洛城(らくじゃう)の東に無く
今人(こんじん)還(かへ)つて対す 落花(らくくわ)の風

年々歳々(ねんねんさいさい)花相似たり
歳々年々(さいさいねんねん)人同じからず

言(げん)を寄す 全盛(ぜんせい)の紅顔子(こうがんし)
応(まさ)に憐れむべし 半死(はんし)の白頭翁(はくとうをう)

此の翁(をう)の白頭(はくとう)真(しん)に憐むべし
伊(こ)れ昔 紅顔(こうがん)の美少年(びせうねん)

公子(こうし)王孫(おうそん)芳樹(はうじゅ)の下
清歌(せいか)妙舞(めうぶ)落花(らくくわ)の前(まへ)

光緑(くわうろく)池台(ちだい)に錦繡(きんしう)を文(かざ)り
将軍(しゃうぐん)の楼閣(ろうかく)に神仙(しんせん)を画く

一朝(いちてう)病(やまひ)に臥して相識(し)るもの無く
三春(さんしゅん)の行楽(かうらく)誰(た)が辺(へん)にか在る

宛転(ゑんてん)たる蛾眉(がび) 能(よ)く幾時(いくとき)ぞ
須曳(しゆゆ)にして鶴髪(かくはつ)乱れて糸の如し

但(ただ)看る 古来歌舞(かぶ)の地
唯(ただ)黄昏鳥雀(くわうこんてうじゃく)の悲しむ有り




劉希夷  liú xī yí   (りゅうきい)  (651~679年)

初唐の詩人。字は廷芝(ていし)。河南省汝州(じょしゅう)の人。
675年、科挙に及第したが、出世にめぐまれず、酒と琵琶を愛して奔放な生活を送り、三十歳に届かずして没した。
詩風は、華麗な七言詩にすぐれ、なかでも人生の哀楽をうたった「代悲白頭翁」(だいひはくとうおう)は古来有名。


代悲白头翁】 dài bēi bái tóu wēng     白髪を悲しむ老翁に代わって(うたう)

白頭の老翁にかこつけて、人の生のはかなさを詠った悲歌であり、そこはかとなき哀愁が、一遍を貫いている。


洛阳城东桃李花】洛陽城東(らくやうじゃうとう)桃季(たうり)の花
洛陽の町の東では桃や李の花が舞い散り、

飞来飞去落谁家】飛び来り 飛び去りて 誰が家にか落つる
飛び来たり飛び去って、誰の家に落ちるのか。

洛阳女儿惜颜色】洛陽(らくやう)の女児(ぢょじ)顔色(がんしょく)を惜しむ
洛陽の娘たちはその容貌の衰えていくのを嘆き、

坐见落花长叹息】落花(らくくわ)座して見るに 長(とこしなへ)に嘆息す
花びらが落ちるのを座り眺めては長い溜息をつく。

今年花落颜色改】今年(こんねん)花落ちて 顔色(がんしょく)改まり
今年も花が散って娘たちの美しさは衰える。

颜色改】 yán sè gǎi  人の容色が衰える。

明年花开复谁在】明年(みょうねん)花開いて 復(また)誰(たれ)か在る
来年花が開くころには誰が元気でいるだろうか。

己见松柏摧为薪】己(すで)に見る 松柏(しょうはく)の摧(くだ)かれて薪(たきぎ)となるを
私はかつて松や柏の木が砕かれて薪とされるのを見た。

更闻桑田变成海】更に聞く 桑田(さうでん)変じて 海と成るを
また桑畑の地が変わって海になったという話を聞いた。

古人无复洛城东】古人(こじん)復(また)洛城(らくじゃう)の東に無く
洛陽の東にいたかつての人々の姿も今は無く、

今人还对落花风】今人(こんじん)還(かへ)つて対す 落花(らくくわ)の風
今の人もまた花を吹き散らす風に吹かれて嘆いている。

年年岁岁花相似】年々歳々(ねんねんさいさい)花相似たり
来る年も来る年も、花は変わらぬ姿で咲くが、

岁岁年年人不同】歳々年々(さいさいねんねん)人同じからず
年ごとに、それを見る人は、移り変わる。

寄言全盛红颜子】言(げん)を寄す 全盛(ぜんせい)の紅顔子(こうがんし)
今を盛りの若者よ、お聞きなさい。

应怜半死白头翁】応(まさ)に憐れむべし 半死(はんし)の白頭翁(はくとうをう)
半ば死にかけた白髪の老人の姿は、実に気の毒である。

此翁白头真可怜】此の翁(をう)の白頭(はくとう)真(しん)に憐むべし
この老人の白髪頭は、まさに憐れむべきものだ。

伊昔红颜美少年】伊(こ)れ昔 紅顔(こうがん)の美少年(びせうねん)
この老人も昔は紅顔の美少年だったのだ。

公子王孙芳树下】公子(こうし)王孫(おうそん)芳樹(はうじゅ)の下
貴公子たちとともに花かおる樹のもとにうちつどい、

公子王孙】 gōng zǐ wáng sūn   貴公子たち

清歌妙舞落花前】清歌(せいか)妙舞(めうぶ)落花(らくくわ)の前(まへ)
散る花の前で清らかな歌を歌い、見事な舞を舞ったりした。

光禄池台文锦绣】光緑(くわうろく)池台(ちだい)に錦繡(きんしう)を文(かざ)り
漢の光禄大夫は、池に楼台を築き、錦のとばりを飾ったという。
 
光禄】 guāng lù  前漢の官制の一つである大夫。

将军楼阁画神仙】将軍(しゃうぐん)の楼閣(ろうかく)に神仙(しんせん)を画く
また漢の将軍は、楼閣に神仙の姿を描かせたという。 

一朝卧病无相识】一朝(いちてう)病(やまひ)に臥して相識(し)るもの無く
だが、ひとたび病に臥してしまうと、友達は皆尋ねて来なくなる。

三春行乐在谁边】三春(さんしゅん)の行楽(かうらく)誰(た)が辺(へん)にか在る
あの春の日の遊興の日々はどこへ行ってしまったのだろう。

三春】 sān chūn  陰暦の春三か月。一月(孟春)・二月(仲春)・三月(季春)。

宛转蛾眉能几时】宛転(ゑんてん)たる蛾眉(がび) 能(よ)く幾時(いくとき)ぞ
美しい眉を引いた娘もどれほどその美しさが続くというのか。

宛转蛾眉】 wǎn zhuǎn é méi   弧を描いた眉。
能几时】 sān chūn  いつまでその美しさを保てるのか。

须曳鹤发乱如丝】須曳(しゆゆ)にして鶴髪(かくはつ)乱れて糸の如し
たちまち白髪頭となり、その髪が糸のように乱れるのだ。

须曳】 xū yè  ほんのわずかの時間。たちまち。
鹤发】 hè fā  鶴の羽のような白髪になる。

但看古来歌舞地】但(ただ)看る 古来歌舞(かぶ)の地
見よ、昔、歌や舞でにぎわっていた遊興の地を。

唯有黄昏鸟雀悲】唯(ただ)黄昏鳥雀(くわうこんてうじゃく)の悲しむ有り
今はただ黄昏時に小鳥が悲しげにさえずっているだけではないか。

黄昏鸟雀】 huáng hūn niǎo què   たそがれ時に鳥が(悲しく鳴く)
鸟雀】 niǎo què  小鳥。



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【口語訳】

城のひがしの 桃李(ももすもも) 花咲き散りて いづこへの 
家の苑生(にわも)に 降るやらむ 

都(みやこ)のをみな みめのよき 散るはなびらに ためいきす
 
花散るごとに 顔色(かんばせ)の  衰へゆけば よくとしの
また来む春に つつみなく 花にむかふは いくたりぞ
 
松もひのきも 薪(まき)となり 桑田(くわた)も海と なるとかや
古きともがら すでに亡く 今ある者も 花さそふ 風とともにぞ 消え失せん
 
年々(ねんねん)花は 似たれども 歳々(さいさい)変わる ひとの身に
今をさかりの 青年(わこうど)よ 

死ぬるほどなき 老人(おいびと)に 無(む)げの情けも かけよかし 

あはれ恨めし 白頭翁(はくとうをう)
ありし日の 頬も匂(にほ)へる 美少年(びせうねん)
 
公子公達(こうしくだち)と 歌ひつれ 花散るなかを 舞ひあるき 
池のうてなに 錦(にしき)こめ 画閣(がかく)のなかに 遊びし身

ひとたび病めば 友はなく 春のつどひも いずかたぞ
たおやぐ姿 みめのよき いつしか霜の 糸みだる

見よ いにしえの 宴(うたげ)の地 いまたそがれに 鳥ぞ啼く