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【第五課 第三十五節】   小説読解

 

  李凭箜篌引 lǐ píng kōng hóu yǐn    (唐)  李贺      
 

吴丝蜀桐张高秋 空山凝云颓不流 wú sī shǔ tóng zhāng gāo qiū kòng shān níng yún tuí bù liú
江娥啼竹素女愁 李凭中国弹箜篌 jiāng é tí zhú sù nǚ chóu lǐ píng zhōng guó tán kōng hóu
昆山玉碎凤凰叫 芙蓉泣露香兰笑 kūn shān yù suì fèng huáng jiào fú róng qì lù xiāng lán xiào
十二门前融冷光 二十三丝动紫皇 shí èr mén qián róng lěng guāng èr shí sān sī dòng zǐ huáng
女娲炼石补天处 石破天惊逗秋雨 nǚ wā liàn shí bǔ tiān chù shí pò tiān jīng dòu qiū yǔ
梦入神山教神妪 老鱼跳波瘦蛟舞 mèng rù shén shān jiāo shén yù lǎo yú tiào bō shòu jiāo wǔ
吴质不眠倚桂树 露脚斜飞湿寒兔 wú zhì bù mián yǐ guì shù lù jiǎo xié fēi shī hán tù


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【注 釈】

李憑(りひょう)の箜篌(くご)の引(うた)

呉糸(ごし)蜀桐(しょくとう)高秋(かうしう)に張り
空山(くうざん)凝雲(ぎょううん)頽(くづ)れんとして流れず
江娥(かうが)竹に啼(な)き 素女(そぢょ)愁(うれ)ふるは
中国(なかつくに)李憑(りひょう)の箜篌(くご)を 弾(だん)ずればなり

崑山(こんざん)玉(ぎょく)砕(さ)けて 鳳凰(ほうおう)叫び
芙蓉(ふよう)露(つゆ)に泣き 香蘭(かうらん)笑ふ

十二門前(じうにもんぜん)冷光(れいくわう)を融(と)かし
二十三糸(にじうさんし)紫皇(しくわう)を動かす
女媧(ぢょくわ)石を錬(ね)りて 天を補(おぎな)ひし処(ところ)
石破(やぶ)れ 天驚(おどろ)きて 秋雨(しうう)逗(ほとばし)る

夢(ゆめ)神山(しんざん)に入りて 神嫗(しんう)に教(おし)うれば
老魚(らうぎょ)波に跳(おど)り 痩蛟(そうかう)舞(ま)へり
呉質(ごしつ)眠らずして 桂樹(けいじゅ)に倚(よ)り
露脚(ろきゃく)斜(しゃ)に飛びて 寒兎(かんと)湿(うるほ)す





李賀  lǐ hè   (りが)  (791~817年)

中唐の詩人。字は長吉(ちょうきつ)河南省宜陽(ぎよう)の人。
その詩は絢爛にして凄絶、鬼気迫る幻想の世界を得意とし、美女の亡霊、深山の妖かし、墓前の鬼火などを好んで詩題としたため、
後世の批評家から「冥界の鬼才」と称されるに至った。

わずか二十七歳で夭逝したが、死に際に「天帝が白玉の高楼を建てた祝いに、詩を作らせようと私をお召しになる」と母に告げたという。
ここから文人の死を「白玉楼中(はくぎょくろうちゅう)の人となる」との成句が生まれた。
著作に詩集「李賀歌詩篇」(四巻)





【李凭箜篌引】 lǐ píng kōng hóu yǐn     李憑(りひょう)の箜篌(くご)の引(うた)

李憑(りひょう)という箜篌(くご 竪琴)の名人の演奏をたたえた詩。
箜篌の演奏から連想されるイメージを、神話や伝説を引用して展開し、豊饒にして絢爛な想像の世界を繰り広げる。

【箜篌】 kōng hóu    箜篌(くご) 二十三絃の竪琴
【江娥】 jiāng é     江娥 (こうが)湘江(湖南省)の女神。夫の舜帝の死を悲しみ竹に涙を注いだ
【素女】 sù nǚ     素女(そじょ)仙女。琴をひくのが巧み
【李凭】 lǐ píng     李憑(りひょう)箜篌(くご)の名手
【昆山】 kūn shān     崑崙山(こんろんざん)古代神話上の山

【十二门】 shí èr mén     十二門(じゅうにもん)長安(陝西省西安)の十二の城門
【紫皇】 zǐ huáng     紫皇(しこう)道教の至高の神
【女娲】 nǚ wā     女媧(じょか)伝説上の女帝。五色の石を練り天を補修した
【神妪】 shén yù     神嫗(しんう)老年の神女
【蛟】 jiāo      蛟(みずち)竜の一種。蛇に似て四つ足を持つという
【吴质】 wú zhì     呉質(ごしつ)仙術の修行中、罪を犯し月に流され、桂の木を切り倒す罰を科された



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【口語訳】 

呉の糸を 蜀の桐(とう)に 張りし箜篌(くご)
秋空に 紡(つむ)ぎ調(しら)べを 奏(かな)でむと
流るる雲は 息凝(こ)らし 頽(くづ)れむとして 動かじを
江娥 (かうが)は竹に 涙を注ぎ 
素女(そぢょ)は その音(ね)を 愁ひたり

李憑(りひょう)の弾(だん)ぜし 箜篌(くご)の音(ね)は
げに崑崙(こんろん)の 玉(ぎょく)砕(くだ)けし音(おと)か 
鳳凰(ほうおう)の 叫びし声か 蓮花(はすはな)の 
露(つゆ)に泣く音(ね)か 天地(あめつち)に 
響く調べに 眠りから 覚めたる蘭(らん)の 笑ひをり

十二門(じうにもん)凍(こご)えし光 融(と)けゆるみ
その調べ 天(あま)つ御神(みかみ)の 心添(そ)ひたり
 
石を練(ね)り 女媧(ぢょくわ)が天を 繕(つくろ)へば
天は驚き 石は破(やぶ)れて 秋雨(しうう)の洩(も)れり

夢のうち 神の御山(みやま)に 入りゆきて
仙女に曲を 教(おし)ふれば 老いし魚(うお) いたく驚き 波に跳ね 
痩せし蛟(みずち)も 海に舞(ま)はん

かの呉質(ごしつ)寝もやらず ひとり桂樹(けいじゅ)に 佇(たたず)めば
樹(き)の露(つゆ)は 斜めに飛びて 寒々と 月の兎(うさぎ)を 濡らしをり