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【第五課 第六節】   小説読解


  「奔跑吧,梅勒斯!」  太宰治 (一)  


梅勒斯怒不可遏。他决心要除掉那个邪恶暴虐的国王。

梅勒斯不懂政治,他只是村里的一个牧羊人,吹着笛子,与羊只嬉戏过日。然而,面对邪恶,他比常人要敏感一倍。
今天破晓前,梅勒斯离开村庄,越过原野翻过大山,来到了十里外的西拉库斯集市。

他没爹没娘,也没有老婆。他和年方二八、性格内向的妹妹一起生活。
最近,村里一个安守本分的牧人,正准备迎娶他的这个妹妹。婚礼已经近在眉睫。

梅勒斯在集市上买了新娘衣服和婚宴物品,随后便晃晃悠悠地走在都城的大街上。
他有个发小,叫塞利奴提乌斯,现在在这里做石匠。接下来,他打算去拜访一下这位朋友。

梅勒斯已经很久没见过他了,心里一直期待着再次见面。
走着走着,梅勒斯忽然觉得街上的情形似乎有些不对头,四周寂静无声。

虽然太阳已经下山,街上自然也变得幽暗,但这一切似乎却又不只是黑夜来临的缘故。
整个集市,全都陷入了死寂之中。甚至就连悠闲散漫的梅勒斯,也渐渐开始感觉到了不安。


他揪住从自己身旁路过的年轻人问:“这里到底发生了什么事?
两年前来这里的时候,即便到了晚上,众人也会载歌载舞,街上依旧熙熙攘攘。”

年轻人摇了摇头,没有回答。走了一阵,梅勒斯遇上一个老头。
这一次,他加重了语气。老头没有回答。

梅勒斯用双手握住老头的肩膀晃摇着又一次问起了同样的问题。
老头压低嗓门,匆匆地回答了一句:“国王陛下要杀人。”

“为什么要杀人?”
“他说有人心怀不轨,可其实谁也没有心怀不轨啊。”

“杀了许多人吗?”
“嗯。先是国王陛下的妹夫,之后是他自己的儿子、妹妹、外甥、王后陛下,还有贤臣亚历克斯大人。”

“真吓人。国王疯了吗?”
“不,他没疯,而是他不愿相信别人。

最近他甚至怀疑起了臣下的心,只要稍稍生活得奢侈一点,他就会让人家交出人质。
如果有人违抗的话,就会把人钉到十字架上杀掉。今天已经有六个人被杀了。”


听完之后,梅勒斯怒从心起:“哪有这样的国王,不能让他再活下去了。”
梅勒斯是个心思单纯的人。他扛着买下的东西,慢条斯理地向着王宫走去。

巡逻卫兵很快就逮捕了他,随后从梅勒斯的怀里搜出了一把短剑。结果,梅勒斯被带到了国王面前。
“你想用这刀做什么?说!”暴君迪欧尼斯不失威严又平静地问道。国王脸色苍白,眉间刻着深深的皱纹。

“我要把城镇从暴君的手中解救出来。”梅勒斯不卑不亢地回答。
“就凭你吗?”国王恻然一笑,“无可救药的家伙。你不懂我心中的寂寞。”

“闭嘴!”梅勒斯愤然反驳,“怀疑别人,是最可耻的事。身为国王,你居然怀疑子民的忠心。”
“就是你们教会了我,告诉我怀疑才是最正确的心态。

人心是靠不住的。人的心里,本来就充满了各种的私欲,绝不能相信。”
暴君冷淡地小声说着,轻轻叹了口气,“其实,我又何尝不期盼着和平?”

“什么和平?是为了保住你自己的王位吧?”这一次,轮到梅勒斯嘲笑国王了,“滥杀无辜,还有什么和平可言?”

“闭嘴,你这贱民。”国王突然抬起头来,厉声呵斥,“说的比唱的还好听。
我早就把他人心底深处藏的那些个花花肠子给看清楚了。

我现在就把你钉死在十字架上,没工夫听你哭求了。”
“哼,好一个贤明的国王!你就永远自以为是下去吧。

我到这里来,早就做好一死的准备了,绝不会求你饶命的。

只不过——”说到这里,梅勒斯看了看自己的脚边,犹豫了一下,
“只不过,如果你能稍稍对我开恩的话,那就请你再宽限我三天的时间吧。

我想让我唯一的妹妹顺顺利利地嫁出去。
三天之内,我在村里办过婚礼之后,就一定会回到这里来的。”

“笑话!”暴君低声冷笑,用嘶哑的声音说,“你就扯吧。
放走的小鸟,难道还会飞回来不成?”

“对,‘它’就是会回来。”梅勒斯拼命坚持,“我会信守承诺的,请你给我三天时间。
我妹妹还在等着我回去。

如果你不相信我的话,那么好,这座城镇里,住着一个名叫塞利奴提乌斯的石匠,他是我独一无二的朋友。
我就把他留在这里当人质,如果到了第三天的日落时分,我还是没有回来的话,你就把我这个朋友给吊死好了。求你答应我。”


听过梅勒斯的话,国王歹心顿起,窃笑了一下:说得好听,你怎么可能还会回来?
不如干脆将计就计,装成听信了这骗子的话,放他走好了。

等到三天之后,再拿那个代替他的人开刀问斩,这样子倒也挺有意思。
我可以就此找到借口,说他人根本不可信,然后一脸伤感地杀掉那个替身,给世间那些个恪守诚信的家伙们一点颜色看看。

“好,我答应你。你去把你的替身给叫来,然后在第三天日落之前赶回来。
如果你迟到了,我就动手把你的替身杀掉。
你就稍微迟些再来好了。我会永远饶恕你犯下的罪行的。”

“什么?”
“哈哈。保命要紧,你就迟些来吧。我很清楚你心里在想些什么。”

梅勒斯愤恨不已,连连跺脚。他再也不想多说一句话。
梅勒斯的发小,塞利奴提乌斯被连夜召入了王城。

当着暴君迪欧尼斯的面,两个阔别两年的好友再次聚首。
梅勒斯将事情的前后经过告诉了塞利奴提乌斯。

塞利奴提乌斯默默点头,紧紧抱住了梅勒斯。
朋友之间,这已经足够。塞利奴提乌斯被五花大绑起来。

梅勒斯匆匆启程。初夏的夜空,星辰满天。


梅勒斯一宿没合眼,脚步匆匆地走过了十里路。
回到村里的时候,已经是第二天的上午。

太阳已高高升起,村民们也出门忙活儿去了。
梅勒斯那个十六岁的妹妹,也代替哥哥出门放羊。

看到哥哥脚步踉跄、疲劳困惫地走回来,妹妹大吃一惊。她纠缠不休地问哥哥到底怎么了。
“没什么。”梅勒斯想要努力挤出笑容,“我在镇上还有点事,所以必须立刻赶回去。

明天,我就替你举办婚礼。好事赶早。”
绯色的红晕飞上了妹妹的双颊。

“开心吗?我给你买了些漂亮衣服。好了,去通知乡亲们吧,告诉他们说明天就办婚礼。”
梅勒斯再次迈出踉跄的脚步,回到家里,装点祭坛,筹备喜宴。

没多久,梅勒斯便一头栽倒在地板上,陷入到了连呼吸都顾不上的深深睡眠之中。


醒来时,已经是晚上了。
梅勒斯爬起身,立刻便去拜访了新郎官的家。他告诉新郎官说,因为种种原因,希望能在明天举办婚礼。

新郎大吃一惊,回答说这可不行,自己还什么准备都没做,让梅勒斯等到葡萄成熟的季节。
梅勒斯又说,不能再等了,无论如何,婚礼都必须在明天举办。

而新郎却也很顽固,说什么也不愿答应。梅勒斯和新郎商量了一整晚,最后他终于连哄带骗地说服了新郎。
正午,梅勒斯为妹妹和新郎举办了婚礼。

新郎新娘刚刚宣誓完毕,天空就布满了黑云,先是点点细雨,之后便化作了大雨倾盆。
参加喜宴的村民们虽然都隐隐感觉到有些不吉利,但他们却依旧兴高采烈,挤在狭小的屋子里,忍受着潮湿和闷热,拍手欢歌。

梅勒斯满脸喜色,暂时把自己与国王之间的约定抛到了脑后。
夜晚来临,喜宴越发地热闹,人们彻底忘记了屋外的大雨。

梅勒斯恨不得能一辈子这样。虽然他很想和这些善良的人们一起生活一辈子,但如今,他却已身不由己,一切都是空想。



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【注 釈】


奔跑吧,梅勒斯】 bēn pǎo ba,méi lè sī    「走れメロス」
太宰治作。1940年 (昭和15年) 雑誌 「新潮」 に発表。

素朴な牧人の青年メロスは、人間不信のために多くの人を処刑している暴虐非道の王を殺そうとするが、
反対に捕らえられ、処刑されることになる。
メロスは妹の結婚式に出るため三日間の猶予をもらい、親友のセリヌンティウスを人質として置いて行く。

太宰治】 tài zǎi zhì  「太宰治」  (だざいおさむ)  (1909~1948)
小説家。本名、津島修治。青森県生れ。東大仏文科中退。

1935年 「逆行」、「道化の華」、「ダス・ゲマイネ」 を発表して認められ、創作集 「晩年」、「虚構の彷徨」、
「二十世紀旗手」 を経て 「駈込み訴へ」、「走れメロス」 などにより作家としての地位を確立。
屈折した罪悪意識を道化と笑いでつつんだ秀作が多い。1948年、入水自殺。


太宰治(1909-1948)日本小说家。原名津岛修治,生于青森县一大地主家庭,1930年入东京大学法语系。

于1935年以「丑角之花」走上文坛。他的小说「惜别」(1945)描写鲁迅在日本仙台的留学生活。
太宰治的作品,大多通过混乱的两性关系或男女纠葛,表现活着不过是求取官能享乐的生活态度,
反映了日本资产阶级经历了第二次世界大战的失败和战后群众运动的冲击而产生的绝望情绪。
长篇小说「斜阳」(1947),和「人间失格」(1948)是他的代表作。战后投水自杀死去。



怒不可遏】 nù bù kě è    激怒する。
安守本分】 ān shǒu běn fēn    律儀な。真面目な。

西拉库斯】 xī lā kù sī  シラクサ (Siracusa)。イタリア南端、シチリア (Sicily) 島南東部の港湾都市。
前八世紀に建設された古代ギリシアの都市国家。前五世紀に繁栄をきわめたが、
前 212 年ローマに降伏。アポロ神殿、ギリシア劇場など古代遺跡が現存する。

年方二八】 nián fāng èr bā    十六歳。
发小】 fā xiǎo    幼なじみ。竹馬の友。
塞利奴提乌斯】 sài lì nú tí wū sī     セリヌンティウス(人名)
悠闲散漫】 yōu xián sǎn màn    のんきである。のんびりしている。

亚历克斯】 yà lì kè sī     アレクス(人名)
迪欧尼斯】 dí ōu ní sī     ディオニス(人名)
花花肠子】 huā huā cháng zi    下心
说的比唱的还好听】 きれい事はいくらでも言える。

你就扯吧】 nǐ jiù chě ba    ばかげた事を言うな。
开刀问斩】 kāi dāo wèn zhǎn    打ち首にする。
颜色看看】 yán sè kàn kan    みせつける。

五花大绑】 wǔ huā dà bǎng    がんじがらめに縛る。
新郎官】 xīn láng guān    花婿。
连哄带骗】 lián hōng dài piàn    なんとか言いくるめる。


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【口語訳】


「走れメロス」 (一)


メロスは激怒した。是非ともあの暴虐非道の国王を除かねばならぬ。

メロスには政治が分からぬ。
メロスは村の牧人である。笛を吹き、羊と遊んで暮らして来た。

しかし邪悪に対しては、人一倍に敏感であった。

きょう未明、メロスは村を出発し、野を越え山越え、十里はなれた、このシラクサの町にやってきた。

メロスには両親がいない、妻もいない、十六の内気な妹と助け合って暮らしている。
この妹は、近々、村の、ある律儀な一牧人と結婚することになっていた。

婚礼の日も間近なのである。
メロスはこの婚礼のため、花嫁の衣裳やら、祝宴の品々などを買いに、はるばる町までやって来たのだ。

メロスは、品々を買い揃え、それから町の大通りをぶらぶら歩いた。


メロスには幼なじみの友がいた。セリヌンティウスである。
今は、このシラクサの町で石工をしている。

メロスは、その友を、これから訪ねてみるつもりなのだ。
久しぶりに友に会う喜びに、道すがら、メロスの心は浮き足立っていた。

歩いているうちに、メロスは町の様子が少しおかしいと感じた。
町の中がひっそりとして、物音一つしない。

もうすでに日も落ちて、町の暗いのはあたりまえだが、
夜のせいばかりでなく、町全体がしんと静まりかえっている。

呑気なメロスもだんだん不安になってきた。
道で会った若者をつかまえて問いただした。

「何かあったのか?二年前にこの町に来たときは、夜でもみなが歌をうたって、
町はにぎやかであったはずだ?」

若者は、首を振って答えなかった。

しばらく歩いて老人に会い、今度はもっと語気を強めて聞いてみた。
老人は答えなかった。

メロスは両手で老人の体をゆすぶって質問を重ねた。

老人は声をひそめて、気忙しく答えた。

「国王が人を殺します。」

「なぜ殺すのだ?」

「謀反をいだいているというのです。しかし誰もそんなことは考えておりません。」

「たくさんの人を殺したのか?」

「はい、最初は国王の妹むこを。それから国王の息子を、それから妹を。
そして妹の子供を、それから皇后さまを。それから、賢臣のアレクスさまを。」

「恐ろしすぎる。国王は乱心か。」

「いいえ、乱心ではありません。ただ人を信じることができないのです。

最近は、大臣たちの忠誠の心をも疑い始め、すこしはでな暮らしをしただけで、
人質一人ずつ差し出せというのです。

命令を拒めば、十字架にかけられて殺されます。きょうは、六人殺されました。」

話を聞いて、メロスは激怒した。
「あきれた国王だ。このまま生かしておくわけにはいかぬ。」


メロスは、単純な男であった。
買い物を、背負ったままで、のそのそ王城にはいって行った。

たちまち彼は、巡回していた警吏に捕縛された。

調べられて、メロスの懐中からは短剣が出て来たので、騒ぎが大きくなってしまった。
メロスは、王の前に引き出された。

「この短刀で何をするつもりであったか。言え!」

暴君ディオニスは静かに、けれども威厳をもって問いつめた。
その王の顔は蒼白で、眉間の皺は、刻み込まれたように深かった。

「市を暴君の手から救うのだ。」とメロスは悪びれずに答えた。

「おまえひとりでか?」王は、憫笑した。
「仕方の無いやつじゃ。おまえには、わしの孤独がわからぬ。」

「言うな!」とメロスは、いきり立って反駁した。
「人の心を疑うのは、最も恥ずべき悪徳だ。王でありながら、民の忠誠をさえ疑って居られる。」

「疑うのが、正当の心構えなのだと、わしに教えてくれたのは、おまえたちだ。人の心は、あてにならない。
人間は、もともと私慾のかたまりだ。信じてはならぬ。」

暴君は冷淡に呟き、ほっと溜息をついた。
「わしだって、平和を望んでいるのだが。」

「なんの為の平和だ。自分の地位を守る為か。」こんどはメロスが嘲笑した。
「罪の無い人を殺して、何が平和だ。」

「だまれ、下賤の者。」王は、さっと顔を挙げて報いた。

「口では、どんな清らかな事でも言える。わしには、人の心の奥底に秘める下心が見え透いてならぬ。
おまえだって、いまに、磔になってから、泣いて詫びたって聞かぬぞ。」

「ああ、王は利口だ。自惚れているがよい。
私は、ちゃんと死ぬる覚悟で居るのに。命乞いなど決してしない。ただ、――」

と言いかけて、メロスは足もとに視線を落し瞬時ためらった。

「ただ、私に情をかけたいつもりなら、処刑までに三日間の日限を与えて下さい。
たった一人の妹に、しっかりと亭主を持たせてやりたいのです。
三日のうちに、私は村で結婚式を挙げさせ、必ずここへ帰って来ます。」

「ばかな。」と暴君は、嗄れた声で低く笑った。
「とんでもない嘘を言うわい。逃がした小鳥が帰って来るというのか。」

「そうです。帰って来るのです。」メロスは必死で言い張った。
「私は約束を守ります。私を、三日間だけ許して下さい。妹が、私の帰りを待っているのだ。

そんなに私を信じられないならば、よろしい、この市にセリヌンティウスという石工がいます。
私の無二の友人だ。あれを、人質としてここに置いて行こう。

私が逃げてしまって、三日目の日暮まで、ここに帰って来なかったら、あの友人を絞め殺して下さい。
たのむ、そうして下さい。」

それを聞いて王は、残虐な気持で、そっとほくそえんだ。

生意気なことを言うわい。どうせ帰って来ないにきまっている。
この嘘つきに騙された振りして、放してやるのも面白い。

そうして身代りの男を、三日目に殺してやるのも気味がいい。

人は、これだから信じられぬと、わしは悲しい顔して、その身代りの男を磔刑に処してやるのだ。
世の中の、正直者とかいう奴らにうんと見せつけてやりたいものさ。

「願いを、聞いた。その身代りを呼ぶがよい。
三日目には日没までに帰って来い。おくれたら、その身代りを、きっと殺すぞ。
ちょっとおくれて来るがいい。おまえの罪は、永遠にゆるしてやろうぞ。」

「なに、何をおっしゃる。」

「はは。いのちが大事だったら、おくれて来い。おまえの心は、わかっているぞ。」

メロスは口惜しく、地団駄踏んだ。ものも言いたくなくなった。


竹馬の友、セリヌンティウスは、深夜、王城に召された。

暴君ディオニスの面前で、佳き友と佳き友は、二年ぶりで相逢うた。
メロスは、友に一切の事情を語った。

セリヌンティウスは無言でうなずき、メロスをひしと抱きしめた。
友と友の間は、それでよかった。

セリヌンティウスは、縄打たれた。
メロスは、すぐに出発した。初夏、満天の星である。

メロスはその夜、一睡もせず十里の路を急ぎに急いだ。


村へ到着したのは、あくる日の午前、陽は既に高く昇って、村人たちは野に出て仕事をはじめていた。

メロスの十六の妹も、きょうは兄の代りに羊群の番をしていた。

よろめいて歩いて来る兄の、疲労困憊の姿を見つけて驚いた。
そうして、うるさく兄に質問を浴びせた。

「なんでも無い。」メロスは無理に笑おうと努めた。
「市に用事を残して来た。またすぐ市に行かなければならぬ。あす、おまえの結婚式を挙げる。早いほうがよかろう。」

妹は頬をあからめた。

「うれしいか。綺麗な衣裳も買って来た。
さあ、これから行って、村の人たちに知らせて来い。結婚式は、あすだと。」

メロスは、また、よろよろと歩き出した。
家へ帰って神々の祭壇を飾り、祝宴の席を調え、間もなく床に倒れ伏し、呼吸もせぬくらいの深い眠りに落ちてしまった。


眼が覚めたのは夜だった。
メロスは起きてすぐ、花婿の家を訪れた。

そうして、少し事情があるから、結婚式を明日にしてくれ、と頼んだ。
婿の牧人は驚き、それはいけない、こちらには未だ何の仕度も出来ていない、葡萄の季節まで待ってくれ、と答えた。

メロスは、待つことは出来ぬ、どうか明日にしてくれ給え、と更に押してたのんだ。

婿の牧人も頑強であった。なかなか承諾してくれない。
夜明けまで議論をつづけて、やっと、どうにか婿をなだめ、すかして、説き伏せた。


結婚式は、真昼に行われた。
新郎新婦の、神々への宣誓が済んだころ、黒雲が空を覆い、ぽつりぽつり雨が降り出し、やがて車軸を流すような大雨となった。

祝宴に列席していた村人たちは、何か不吉なものを感じた。
それでも、めいめい気持を引きたて、狭い家の中で、むんむん蒸し暑いのもこらえ、陽気に歌をうたい、手を拍った。

メロスも、満面に喜色をたたえ、しばらくは、王とのあの約束をさえ忘れていた。
祝宴は、夜に入っていよいよ乱れ華やかになり、人々は、外の豪雨を全く気にしなくなった。

メロスは、一生このまま、この佳い人たちと生涯暮して行きたいと思った。
だが、今となってはそれも叶わぬ夢となってしまった。