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【第五課 第二節】   小説読解


  「杜子春」     芥川龙之介  


春天的一个傍晚。时值大唐年间,京城洛阳西门下,有个年轻后生仰望长空,正自出神。
那后生名叫杜子春,本是财主之子,如今家财荡尽,无以度日,景况堪怜。

且说当年洛阳乃是繁华至极、天下无双的都城,街上车水马龙,络绎不绝。
夕阳西下,将城门照得油光锃亮。

这当口,有位老者头戴纱帽,耳挂土耳其女式金耳环,白马身配彩绦缰绳,走动不休,那情景真是美得如画。
这杜子春,身子依旧靠在门洞墙上,只管呆呆望着天。
天空里,晚霞缥缈,一弯新月,淡如爪痕。

“天色已黑,肚中又饥,不论投奔哪里,看来都无人收留——与其这样活着发愁,还不如投河,一了百了,或许更加痛快也难说。”
杜子春独自一直这样胡思乱想,没个头绪。

这时,不知从哪儿走来一位独眼老人,忽然站在他面前。
夕阳下,老人的身影,大大地映在城门上,目不转睛瞧着杜子春,倨傲地问道:

“郎君在此想什么呐?”
“我吗?我在想,今晚无处栖身,正不知如何是好。”

老人问得突兀,杜子春不觉低眉下眼,如实回答。
“是吗?可怜见的。”

老者沉吟片刻,指着照在大路上的夕阳说:
“待我教你个好法子吧。
你立刻去站在夕阳下,直到影子映到地上,等半夜时分,将影子的头部挖开,必有满满一车黄金可得。”

“当真?” 杜子春吃了一惊,抬起眼睛。
更奇怪的是,那老人已不知去向,周围连个影儿都没有。
只有天上的月亮比方才更白,还有两三只性急的蝙蝠,在川流不息的行人头上飞来飞去。




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【注 釈】


杜子春】 dù zǐ chūn  「杜子春」 (とししゅん)
芥川龍之介作。1920年 (大正9年) 雑誌 「赤い鳥」に発表。中国の古典、「杜子春伝」を童話化したもの。
杜子春が華山で仙術の修行をするが、愛の試練に耐えられず仙人となるのに失敗する話。

芥川龙之介】 jiè chuān lóng zhī jiè 
「芥川龍之介」 (あくたがわりゅうのすけ) (1892~1927)  小説家。東京生れ。東大卒。
夏目漱石門下。菊池寛・久米正雄らと 「新思潮」 を刊行。「鼻」 「芋粥」 で注目された。
著作 「羅生門」 「地獄変」 「偸盗」 「河童」 「歯車」 「或阿呆の一生」など。1927年、自殺。


芥川龙之介(1892-1927)日本作家。1913年入东京大学英文系学习。
短篇小说「罗生门」(1915),「鼻子」(1916),受夏目漱石赞赏。在其鼓励下,专心小说创作。
早期作品以历史小说为主,创作题材广泛,善于从日本中古历史、故事缝隙中发掘提炼素材,运用现代心理分析方法表现人物心理活动。
后来,目光转向现实,写了许多同情下层人民、表现知识青年的苦闷和批判军国主义的小说,如嘲讽乃木希典的「将军」。
晚年因对日本社会政治的忧虑加深和对未来充满不安而自杀。日本政府自1935年起设立「芥川文学奖」。



时值大唐年间】 shí zhí dà táng nián jiān  時まさに唐朝の時代

洛阳】  luò yang  洛陽 (らくよう)
中国河南省の都市。東周の平王の時代、鎬京 (長安) より都が移され洛邑と称した。
以後、後漢・晋・北魏・隋・後唐の都となり、今日も白馬寺・竜門石窟など旧跡が多い。

年轻后生】 nián qīng hòu shēng  若者
无以度日】 wú yǐ dù rì  その日の暮しにも困る
景况堪怜】 jǐng kuàng kān lián  哀れな身分になる

且说】 qiě shuō    さて
车水马龙】 chē shuǐ mǎ lóng  車馬の往来が盛ん

络绎不绝】 luò yì bù jué  往来が継続して絶えない
油光锃亮】 yóu guāng zèng liàng  ぴかぴかに輝く
当口】 dāng kǒu  ちょうどその時

头戴纱帽】 tóu dài shā mào  ラシャ (羅紗 raxa )の帽子を被った
羊毛の織物。厚地で保温性も高いため、外套や乗馬ズボン、帽子などに用いられる。

耳挂土耳】 ěr guà tǔ ěr  土耳古(トルコ)の耳環をつけた
彩绦缰绳】 cǎi tāo jiāng shéng  五彩の馬の手綱
晚霞缥缈】 wǎn xiá piāo miǎo  うっすらとした夕焼け

淡如爪痕】 dàn rú zhuǎ hén  爪の痕が微かに見える
一了百了】 yì liǎo bǎi liǎo  何もかも終わりになる

或许~也难说】    ひょっとしたら~かも知れない
没个头绪】 méi gè tóu  とりとめがつかない

目不转睛】 mù bù zhuǎn jīng  まばたきもせずに見つめる
郎君】 láng jūn  若者
倨傲】 jù ào  横柄に

问得突兀】 wèn de tū wù  唐突に問う
】 dài   どれ。さてと。それでは。(感嘆詞)
川流不息】 chuān liú bù xī  ひっきりなしに



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【口語訳】


「杜子春」     芥川龍之介



ある春のたそがれ時。
唐の京城洛陽の西門の下、ある若者がぼんやりと空を仰いでいる。

若者の名は杜子春という。もともと富豪の息子だったが、財産を使い尽くしてしまい、
今はその日暮らしの食うや食わずの身分におちぶれてしまっていた。

当時の洛陽は、繁盛をきわめた天下に並ぶもののない都だったから、
大通りは車馬や人の往来が盛んで、にぎやかにごったがえしていた。

西門に照り映える、油のようにつややかな夕日の中に、老人のかぶった羅沙(らしゃ)の帽子や、
トルコ女の金のイヤリングや、白馬に彩られた玉糸の手綱 (たずな)が、
絶えず流れ動く光景はあたかも一幅の絵のように美しかった。

しかし、杜子春は相変わらず体を西門の壁の上にもたれ、ぼうぜんと空をながめている。
空にはまるで爪の痕跡のような細長い月が、ゆらゆらと漂う霧の中にかすかに白く浮かんでいた。

「日は暮れるし、腹もへるし、それにどこへ行こうと、今晩身を落ち着ける場所はみつからないだろう。
…… こんなつらい生活を続けるより、いっそ川に身を投げて、すべて終わりにしてしまったほうがましかもしれない。」

杜子春は、さきほどからずっとこんなとりとめもないことを思いめぐらせていた。
すると一体どこから立ちあらわれたのか、片目の老人が彼の前に足をとめた。

老人は夕日の残光を浴びて、その長い影を城門の上に刻みながら、杜子春の顔をじっと見つめている。
「おまえは何を考えているのだ?」 老人は横柄にたずねた。

「私ですか? 私は今晩寝るところがないので、どうしたものかと考えているのです。」
老人がいかにも唐突にたずねたため、杜子春は思わず眼をふせて、正直に答えた。

「なるほど。それではあまりに可哀そうだな。」
老人はしばらく考えたあと、手を伸ばして大通りに照り映える夕日の残光を指して言った:

「それではおまえによい事を教えてやろう。
夕日の中に立って、おまえの影が地に照らされたら、夜半に影の頭の部分を掘ってみるとよい。
きっとそこには車いっぱいの黄金が埋まっているはずだ。」

「本当ですか?」
それを聞いて杜子春は大いに驚き、しばらくふせていた眼を挙げた。

不思議なことに、その老人はすでに消え失せていて、あたりには彼の影も形も見当たらない。

ただ上空にかかっている月が、さきほどに比べなお白くかがやき、往来の絶えない通りの上には、
もう気の早いコウモリが二、三匹ひらひらと飛び舞っているだけであった。