小説モーニング娘。 第二十九章 「初めてのロックコンサート」


小川麻琴は見るからに元気がなかった。
椅子に体を投げ出してうなだれている姿が痛々しい。

理由はわからないでもない。
でも、里沙にはなんて言って慰めていいかわからない。
「まこっちゃん…どうして…」

自分にできることはせいぜい、側にいてあげることくらいだ。
それが、どれほどの効果もあげることもできないとしても。

「里沙ちゃん…あたし、どうしても歌えないの。
『いつも弱気なまま』っていうこの曲の歌詞と同じで全然自信ないの。
あたしソロで語りとかやる資格なんてないのよ…」

「初めてのロックコンサート」
この曲は小川麻琴のために作られた曲である。

つんくが小川に与えたバックコーラスは5人の先輩。
飯田圭織、保田圭、矢口真里、辻希美、そして、後藤真希...。

曲のエンディングで小川が語る独白のセリフ…。
この一言のためにモーニング娘。から歌がうまい5人が集められたのだった。

「あたしがソロをやれば、先輩たちに迷惑かける。メンバーみんなに迷惑かける…」
小川麻琴は人一倍責任感の強い子だ。
セリフに情感を込めてしゃべることができない。どうしても棒読みになってしまう。
「なぜ、つんくさんは後藤さんでなくて、あたしをセンターにしたのだろう…」

「じゃあ、歌うのやめちゃえば!」
パッと振り向くと保田がいた。
慰めようとしている、里沙にはそう映った。
それでも小川はうつむいたまま顔を上げない。

「小川がダメっていうなら、ウチらも歌うのやめるよ。ウチら一心同体だから…」
「保田さん…」小川の横顔が少し動いた。

保田は気にもとめない風で続けた。
「与えられたパートを懸命に務める、それは大切な心構えだと思う。
けどね、ひとついえるのは完璧主義すぎないほうがいいってこと」

そう言うと、つかつかと小川に歩みよりパンと肩を叩く。
「モーニング娘。はね、せいいっぱいやっている自分をさらけだせばいいんだよ。
な、新垣?」
「えっ…いや、そ、そうかも…」
あっけにとられて、目を大きく見開き、保田をみつめる小川。

かまわず保田は続ける。
「さっき言ってたこの曲と同じような気持ちなら、そのまま歌えばいい。
思いっきりいけば、ダメなところふくめて、小川の気持ちがみんなにちゃんと伝わるよ」
保田の口調は、優しいトーンに変わっていた。

わかる…
里沙には保田が何を言いたいのか今、ようやくわかった。
自分がモーニング娘。に加入した当初、今の小川と同じ経験をした。

デビュー曲の「Mr.Moonlight〜愛のビックバンド」
新垣里沙はセンターのトップで曲の歌いだし担当に抜擢された。
しかし、何度練習を積んでも先輩たちの動きに合わせることができず何度もやり直しをさせられた。
スタジオの外で悲しくなって涙をながした。

そんなとき、先輩の安倍なつみにはげまされた。
「里沙ちゃん、あたしがね、心がけているのは、まわりのみんなと息をぴったりあわせること。
ひとり一人と心をあわせる努力をするの。

そうしたらね、たとえすこしくらいまちがえたって、13人いるから、かならずだれかが助けてくれる。
だから、困った時も、苦しい時も乗り越えていけるんだね…」

そう、あたしたちは決してひとりだけで歌っているわけではないと…。
だから...

「小川が悩むのはいいことなんだ。それが向上心に繋がるんだから…。
けどね、先輩たちをもっと信じてぶつかってきてみたら…?
そうだよな、新垣?」
「ハイ!保田さん!」

目を丸くして驚いている小川と視線が合って、里沙は右目をつむって答えた。

「まこっちゃん、ファイト!」