小説モーニング娘。 第三章「サマーナイトタウン」       Top Page
   


「デビュー曲のパート割を決めたいと思う… で、今回は候補曲を3曲用意したから…。」

「愛の種」の完売達成でメジャーデビューを目前にしたモーニング娘。
しかし、このつんくの発言はどういう意味を持っているのか?


中澤「デビューするためにメンバー5人が力を合わせたけど、今はもう全員がライバル…。」
福田「負けたくないです。今の気持ちはただ突っ走るって感じ。」

そう、彼女たちは「メインボーカル争奪戦」を強いられることになったのである。


1997年12月2日、デビュー候補曲の3曲 「モーニングコーヒー」、「どうにかして土曜日」、
そして 「ウソつきあんた」 のレコーディングが2日間かけて行われた。

学校の試験の都合で一日しか参加できない飯田圭織は気合を込めて熱唱し、見事、候補曲2曲のメインボーカルを獲得した。


デビュー曲のボーカルは飯田でほぼ確定かと思われた。
しかし、レコーディングの翌4日、突如5人はレコーディングスタッフに再招集された。

なぜ呼び出されたかわからない5人の不安げな表情をよそに、スタッフから思わぬ発言が…。
「先日決めたデビュー候補曲のパート割りに変更があります。」

結局、デビューシングルとして最も相応しいと思われる 「モーニングコーヒー」 の
メインボーカルは安倍なつみで決着した。


この時点で一挙に2曲のメインを失うことになった飯田圭織は、ひとり大号泣。
「試験なんてやってる場合じゃなかった、昨日に戻りたい…。」

ガックリと肩を落とした飯田。これまでにない、激しい涙が飯田圭織の頬を、顔中を濡らした。


高校の試験の時間をも惜しんで、欠席したいと両親に説得していた飯田。
しかしその願いも空しく一日しかレコーディングに参加できないことになった。

この私的事情がいったんは決まった彼女のメインボーカルの座を失わせることになったのだろうか。


「芸能界をナメたらアカン、要するに陣取り合戦や!」 (つんく)

芸能界とは 「スターの座」 という一握りの座席を、凌ぎを削って奪い合う熾烈な世界である。
レコーディングであれば、何よりも優先して常にスタンバイする覚悟と自覚がなければならない。

つんくの言葉は、芸能界に身を置く者の 「心がまえ」 を端的に示しているのではないだろうか。