小説モーニング娘。 第三十二章  「田中れいな 〜我が愛は虹のかなたに〜」    

れいな聖誕15周年記念連載小説  「我が愛は虹のかなたに」

登場人物: dj  (出門健二)  福岡市立多々良中学バレー部主将

         れいな  (田中麗奈)  バレー部女子部員

         AYA  (小林彩)  バレー部女子部員


第一章 オーディション

週末から2日間にわたって開催されたバレーボール大会予選もようやく終わり。

dj は、なんか久しぶりに、ほっと一息つく時間ができた感じだった。

あとは残っていた宿題を片付けるのみ。

机に向かおうと思ったとき、突然ケータイが鳴った。

電話の相手は同じバレー部のAYAからで、発せられた第一声はかなり興奮していた。

「djぇー、早くテレビつけてみて!!」

「え ・・ いったいどうした? いきなり」

「説明は後でするから!! 早くテレビ見て!!」

言われるがままにリモコンを取ってテレビをつけ、AYAの指示した通りのチャンネルに合わせる。

いきなり大きく映しだされたのは、徳光和夫の巨大な顔だった。

「ん? こんな時間に24時間テレビってやってたっけ?」

「バカ!! ・・ なにとぼけたこと言ってんのよ。いいからもうちょっと黙って見てて」

いつにないAYAの強い調子に押されながら、なおも見ていると、どこかの避暑地での合宿風景が映し出され、自分とおなじ歳か、その前後といった女の子が数人映し出された。

画面下には 「モーニング娘。LOVEオーディション2002」 というテロップがある。

最初は遠目でわからなかったが、だんだんと、その中の一人にどこかで見覚えがあることに気がついた。

文字通り、テレビにかじりつくようにして彼女をまじまじと見る。

ま、まさか ・・ れいな!?

「あたしも、最初はまさか、と思ったよ! でもすごい! このオーディションで勝ち抜いたらモーニング娘。になれるっていうのよ! あの、れいなちゃんが!?」

dj は、それ以上言葉を発することもできず、ケータイを耳におしあてたまま、ただ固唾をのんでオーディションの行方を見守った。


場面はボイストレーナーによる個人レッスン。

れいなは、緊張のせいか、やや声が上ずる。

歌詞をど忘れしたのか、曲の途中で押し黙ってしまった。

「はじめから、やりなおし、もっとお腹から声を出して」

トレーナーの容赦ない叱責の繰り返しが続く。

涙をこらえ下を向き、きゅっと唇を噛むれいな。

「頑張れ!れいな!」 dj は最早気が気でなかった。

まるで自分がレッスンを受けているような気分になり、彼女の一挙手一投足に高鳴る胸の鼓動を意識せずにはいられなかった。

場面は一転して、プロデューサーによる最終審査の段階へ。

AYAも自分もどちらもおし黙ったまま、オーディションはいよいよ合格者発表の時を迎えた。

徳光和夫の進行により、モニターに映し出されたのは、まず東京都出身の亀井絵里という子だった。

次は山口県出身の道重さゆみという、まだ小学生みたいにあどけない子だ。

そして3人目は、福岡県出身 ・・・ 「田中麗奈」

はからずも、合宿に参加した最終選考者3名はいずれも合格したようであった。

プロデューサーの 「OK、OK、3人ともええんとちゃう?」 という声が聞こえた。

この一言が3人全員合格の合図であった。

れいなが顔を両手で覆い、信じられない、といった表情で立ち尽くしている。

それと同時に、さっきまでこわばっていた dj の体から力がすうっ、と抜けていった。

自分とおなじく、ずっと言葉を発することも忘れていたAYAがようやく、体中の力をふりしぼるようにして言った。

「す、すごい ・・ ホントにモーニング娘。になっちゃった ・・。

あたしたちには、娘。に入りたいなんて一言も言ってなかったのに? 

ねえ、dj、どうしよう!?」

「どうしようって言ったって ・・ 」

dj はあまりにも混乱して、何を言えばいいかわからなかった。

とりあえず最初に脳裏に浮かんだ言葉をそのまま口に出した。

「今日のれいな ・・・、ホントに輝いてみえる ・・ 」


第二章 上京

昨晩、dj は殆ど一睡もしていなかった。目が冴えて眠れなかったのだ。

れいなのオーディション番組を見てずっと考え事をしていたのである。

まだ、実感が湧かず、ただ窓から見える星空を一晩中眺めていたのだった。

いくつもの考えが浮かんでは消え、消えては浮かんだ。

もしかすると、これは夢なのかもしれない。

それならそれで、この状況を受け入れてしまおう ・・・

そう思うと張り詰めた気持ちがようやく緩んだ。

気がついたら身体もくたくただった。そのまま深い眠りに就いた。


待ちわびた月曜の朝がやってきた。

部屋のカーテンの隙間からまぶしい光が差し込んでいる。

今から1時間後には れいなに会える。そう思うと心が躍る。

右手で小さくガッツポーズをとって近くにあった鏡を見た。

すると、そこには目の腫れた自分の顔。 そこで後悔の気持ちが押し寄せる。

「もっと早く気づいてたら、こんな目の腫れた顔で逢わなくてすんだのに ・・・ 」

そう思いながらも急いで登校の準備を開始した。

8時30分前に学校へ行き教室へ直行したが、れいなはまだ来ていなかった。

dj は高鳴る気持ちを押し殺しながら、正門の前で彼女の登校をひたすら待ち続けた。

学生たちが続々と登校してくる。その中にAYAの姿があった。

「おはよう ・・ dj 」

「あ、おはよう、どうした?」

AYAは、いつになく元気がなかった。

「dj ・・・ ちょっと相談したいことがあるんだけど ・・・ 」

「え、相談したいこと ・・・!?」

AYAからそんな事を言われるなど思いもよらず、dj は少々戸惑った。

しかし、驚きはここで終わらなかった。

いきなりAYAの目から涙がこぼれた。

dj はあまりに驚いて慌てて思わずAYAを制止した。

「ち、ちょっと待ってくれ、実は今取り込み中で ・・ その ・・ 」

「あ、そうか ・・ れいなちゃん待ってるンだったね ・・ 」

機転のきくAYAはすぐさま事の事情を察知して話題をかえた。

「dj、がんばってね、あたしも彼女に聞きたいコトいっぱいあるンだけど ・・ じゃあ、放課後、部室で ・・ 」

AYAはそのまま足早に校舎の中に消えていった。


5分後、紺のコート姿で登校してくるれいなの姿が dj の目に入った。

いきおい大慌てで彼女を呼び止めて事の次第を尋ねようと、dj は駆け出した。

れいなを見つけて、大急ぎで駆け寄ろうとしたが、あまりに慌てすぎた。

どうしたはずみか、足がもつれて手前から、れいなにぶつかりそうになった。

「うわっ!」

「きゃっ!」

れいながびっくりして身体をよけると、dj はその前に尻もちをつくような格好で倒れた。

横を通りがかった女子学生がクスリと笑い声をあげる。

恥ずかしさに身体がキュッと縮まるような思いの dj に、れいなの声が届いた。

「えっ? ・・ dj? 」

「 ・・・ あ、ああ 」

返事ともうめき声ともつかないような返事をしながら、dj は目を合わせないようにゆっくりと立ち上がった。

れいなもどうしていいかわからず、ただその様子を見ている。

「ご、ごめん」

dj はズボンのホコリをたたき落としながら、つぶやくようにあやまった。

「う、ううん。それより大丈夫?」

「ああ ・・ 」

「ひ、久しぶり ・・ 」

「ああ ・・ 」

「あっ!ひ、久しぶりなんて変だよね。ちょっと二三日学校休んじゃったけど ・・ 」

「知ってるよ。テレビ ・・ 見たよ」

「えっ? ・・ じゃあ ・・ 」

れいなは一瞬、戸惑ったような表情を浮かべ、しばしの間沈黙した。

やがて意を決したかのように顔を上げると dj に話しはじめた。

「ごめん、バレー部の練習の合間をぬって東京に行ってたの。

本当にごめんね、けっして秘密にするつもりはなかったんだけど ・・ 」

「れいな ・・・ 」

「でもオーディションに出るってふれ回って、それで落ちたらはずかしいから ・・

言いそびれちゃったの。まさかホントに受かるとも思わなかったし・・」

気がつくと、れいなと dj は見つめ合っていた。

後方から始業のチャイムの音が聞こえた。

「ごめんなさい ・・ 授業 ・・・ 行かなくちゃ」

ぺこりと頭を下げると、足早に校舎に向かって駆け出す れいな。

dj は彼女の背中を眺めながら、もう引き返せない運命の流れの中に、自分たちが巻き込まれてゆくような、そんな言い知れぬ予感を感じはじめた。