小説モーニング娘。 第三十七章  「クリスマスイブの娘」           Top Page 


2005年度 クリスマス特別企画連載小説 「クリスマスイブの娘」


クリスマスイブでにぎわう駅前のHMV渋谷店。

買い物を終えて、タクシーを拾おうと表通りに向かって歩いとった。
後ろから、パタパタと誰かが駆けてくる足音がしたが、特に気にせえへんと、オレは真っすぐ前を見て歩いとった。


じきに女のコが追い越して行き、しばらくすると、彼女は急に立ち止まって、ハアハアと息を整え出した。

気がつくと、大きなウサギのマークが、彼女のジャンパーの背中についとる。
オレは何となくそのウサギの絵柄が気になったが、なるべく意識せんように、足早に先へ歩いた。


あっという間に、またオレの方が彼女を追い越したが、すれ違いざまにチラリ見ると、ジャンパーには、表にもウサギのマークがくっついとった。

「ふ〜ん、おもろいのが流行ってんやなぁ。なんか石川みたいな趣味のコや」

オレはサイケなジャンパーに興味をひかれ、心の中でそう呟いた。
そう思っとると、またまた後ろの方から女のコがダッシュで駆けてくるやないけ。


ほんで、今度は、オレの横を足早に通り過ぎたかと思うと、クルリと振り返りざまに、オレを見つめてニヤリ笑ったんで、オレは初めてドキンとなりよった。

が、ほんでウチまで止まってまうのもケッタイなさかい、気づかぬふりをして普通に歩いとったちゅうわけや。



その後、追いついたり、追い越されたりを繰り返していたが、もうそろそろ大通りに出そうな所までたどりついた。
すると突然、その女のコがオレの目の前で、バッと両手をひろげて 「ストップ!」 と叫び声をあげよった。

それで 「つんくさんでしょ? アタシ大ファンなんです。あの〜、少しの時間だけ、つき合ってくれませんか」
とまくしたてたか思うと、彼女は、いきなりその場で踊り始めるやないけ。


「ヘイ!ヘイ!ヘイ!♪ 千年たって〜♪ 宇宙で暮らしても〜♪ 私は変わらないわ 愛の園〜♪ ヘイ!Touch My Heart 〜♪」

すぐに歌も始まり、熱気ムンムンのパフォーマンスがオレの目の前で繰り広げられたちゅうワケや。
これにはさすがのオレもギョーテンしてしもた。(笑  



イブの渋谷の街は休日とあってか、とにかくヒトが多い。いや、これがいつも通りなのかも知れんが。


渋谷の街は新しいモノ好きの自己主張の強い人間が集まる場所でもある。
色とりどりのイルミネーションが街を彩り、その中を多種多様なファッションで身を包んだ若者たちが闊歩してゆく。

駅前広場では、華やかに飾られたクリスマスツリーをバックに、ストリートミュージシャンたちがギターをかき鳴らしてる。
とりまきらしい女のコたちが、リズムにあわせて手拍子したりしとった。


そないな街のにぎわいから、やや外れたこの路地裏で、オレは今、思いもよらぬ路上ライブを見物させられるハメになってしもた。

「何やこれ このコ、ちとアタマに来てんのとちゃうか?」



いつ果てるともなく続く歌と踊りのパフォーマンスをながめながら、止めるに止められへんし、なかばあきらめムードで開き直って来たころ・・・。

「チャンチャカチャーン、イェイ〜♪」 と、エンディングの決めポーズを発して、ようやっと女のコのダンスは終わったちゅうわけや。


「ハアハア・・・ど、どうですう〜?」
額に汗して肩で息をしながら聞かれたさかい、オレはついついパチパチと拍手してしもた。

「きゃあ、やっぱりぃー! なれるかなぁ、モーニング娘。に」

「なんやて!? モーニング娘。に?」
「そう、アタシ、モーニング娘。になるんだもん」

「アハハ、なるんだもん・・・って、えらい自信やなあ」


「ダンスもできなきゃダメでしょ。ほら、ライブとかでめっちゃ長時間踊り続けなきゃ盛り上がらないし・・・」

「ああ、それもそうや」
「つんくさんだって、以前は武道館とかでステージを走り回って激しいパフォーマンスを披露してたでしょ?」

「おおきに・・・で、キミはモーニング娘。にあこがれとるんか?」

「ゼッタイなりたいです! それで、アタシって、モーニング娘。としてイケルって思いますか?」


そう言うと、女のコはにわかに不安そうな顔つきになってもうて、黙ってオレの目を覗き込んできたちゅうわけや。

歌も踊りもスコブル元気やったし、モーニング娘。にあこがれとる気持ちもようわかったのやケド、つっつけば今にも泣き出しそうな顔やった。

誰よりも自信がありながら、誰かのひと言でペシャンコになってまう年頃なのやろ・・・。


そやけど、性格も人なつっこいし、なによりも一途で積極的や。
歌もダンスも、まだまだ荒削りやけど、なにかひたむきな光るものを感じる。

いままでの娘。になかったタイプや。こらモノになるかも知れん。


「キミ、どっから来たんや?」
「えっとぉ、実家は横浜で、今は両親と東京に住んでます」

「ひょっとして、中学生?」
「あっ、はい、今年の10月で、14歳になりました」

「14歳? ええな、これから何かてできる年齢やないか。それで自信あるんか?」

「はい、自信ありま〜す。つんくさんも、やっばり自信ありましたぁ?」


「はは、今はあらへんけど、昔はあったかも知れん。そのジャンパーのウサギ、自分で刺繍したんか?すごくええな」

「はい。洋服にいろいろアレンジしたんです。今、マイブームなんで。……へへ、アタシ、ガンバル!」

「うん、頑張ってな。成りたいもんにはぜぇぇぇったいに成れるさかい。
ちなみに次の娘。のオーディションは来年早々や。期待して待っとるで」


「うわあ〜アタシぜったい受けます。ヨロシクお願いします、つんくさん」

「はは、ヨロシク言われてもな。ほな、そんときまた再会や。頑張りぃや!」

「ハイ!頑張ります!!じゃあ今日はこれで、サイナラ!」


そう言うと、彼女はぺこりと頭を下げ、駅に向かって足早に駆け出していった。



オレはなんか、向こう見ずやけど、小気味ええくらいに真っしぐらな彼女が、仕舞いにちょっぴりうらやましくなりよった。

オレの14歳の頃はどないやったやろな? もうちびっとネクラやったんとちゃうかな?(笑

せやけど、今でもああいった娘。に入るのを夢見て、頑張っとるコもようけおるんやろなあ。
ウチらのモーニング娘。もまだまだ捨てたもんやない、ホンマそう思た。