小説モーニング娘。 第三十九章 「最後の花火大会」 Top Page
道重さゆみ 聖誕17周年記念小説 「最後の花火大会」
どぉ〜ん! どぉ〜ん! 夏休み最後の花火大会。
赤・・・青・・・黄・・・藍色の空いっぱいに、次々と大輪の花が咲きほこる。
今日のしげさんは、淡いピンク地に花模様の描かれた浴衣を着ていた。
「ねえ、どうかなぁ・・・似合ってる?」 彼女は袖の端を持って見せる。
正直に言って、なんだか、すごく可愛く見えた。上げた髪に、うなじに残った髪。
いつもは下ろした髪を上げただけ・・・なのに、とても可愛く思える。
「うん・・・。いいんじゃないかな・・・」
「ホント?」
「あぁ」
彼女のはにかんだ顔が、ますます可愛らしい。なんだかこっちも、気恥ずかしくなる。
「花火って・・・うらやましいなあ・・・」
「うん? どうしてだい」
「あんな風にキレイに咲けたら良いのに。・・・あたしも、一度でいいから主役でステージに立ってみたいな」
自分は何か言いかけようとしたが、ふと垣間見せた彼女の寂しげな表情に気がついた。
やはりモーニング娘。というトップステージにいながらも、常に脇役の地位に甘んじている自らの立場に、焦りを感じているのだろうか。
いつもは勝気で自己主張の強い彼女から出た、思いがけない弱音だっただけに、かえって言葉につまってしまう。
彼女にかけるべき言葉が見つからないまま、しばらく沈黙が続いてしまった。
「ねぇ」
「うん?」
「・・・あたしと一緒じゃつまらない?」
そう言うと、彼女は、にわかに不安そうな顔つきになって、黙って自分の目を覗き込んできた。
「そ、そんなことはないよ」
「じゃあ・・・手を握って」
普段人前で手をつなぐコトはなかったけれど、その日は彼女から手を伸ばしてくれた。
おそるおそる2人の手が触れて・・・しっかりと握りあう。
照れくささに身体がキュッと縮まるような思いの自分の耳に、彼女の小さくささやく声が届いた。
「このままずっと、さゆみの手を握ってて・・・」