9月15日     初恋  (若菜集)           春夏秋冬 (十五夜)
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まだあげ初(そ)めし前髪の    林檎のもとに見えしとき

前にさしたる花櫛(はなぐし)の   花ある君と思ひけり

 
やさしく白き手をのべて     林檎をわれにあたへしは

薄紅(うすくれなゐ)の秋の実に  人こひ初(そ)めしはじめなり

 
わがこゝろなきためいきの    その髪の毛にかゝるとき

たのしき恋の盃を        君が情(なさけ)に酌みしかな

 
林檎畠の樹(こ)の下に      おのづからなる細道は

誰(た)が踏みそめしかたみぞと  問ひたまうこそこひしけれ




                   

 


島崎藤村 しまざきとうそん (1872〜1943)

詩人、小説家。長野県生れ。1891年明治学院卒。キリスト教に入信。

新体詩をつくり、1897年、詩集「若菜集」として出版、近代詩の確立に貢献。


1906年「破戒」を自費出版。最初の本格的な自然主義の小説として激賞され、一流作家としての地位を得た。

1929年からは維新における父正樹をモデルに膨大な歴史小説「夜明け前」の執筆にとりかかり、1935年に完成。

1943年「東方の門」を未完のまま死去。



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        「初恋」