美貌に罪あり 1959年 (昭和34年) 邦画名作選
東京郊外の広大な土地で、農園を営む女主人・ふさ(杉村春子)。
だが経営は厳しく、周囲からは常に、土地を売る話が持ち掛けられる。
彼女には、父親違いの二人の娘、菊江(山本富士子)と敬子(若尾文子)がいる。
舞踏家を夢見ている長女・菊江は、家業を嫌い家を飛び出してしまう。
そんな姉に反発する次女・敬子も、田舎の生活にあせりを感じている。
チェーホフの「桜の園」を元にした川口松太郎の原作を、増村保造が映画化。
大農園の女主人が、戦後の農地解放の嵐に翻弄され苦悩する姿を描いた作品。
女主人ふさは、長年守り通した土地と屋敷を手放さざるをえなくなってしまう。
まもなく屋敷が壊される、という最後の夏の夜、盆踊りのお囃子が聞こえるなか、
しょんぼりとした様子のふさに、長女の菊江が「母さん、踊って」という。
ふさは「何年も踊らないから」と答えるが、菊江の「私も踊るから」との誘いに、
母娘は踊りだす。それはやがて離れ離れになる母と娘のラストダンスでもあった。
歴史上は、自作農を多く作ったとの評価を受けている農地解放だが、それによって土地を
奪われ、帰るべき故郷を失った多くの家族が生まれた事実を忘れてはならないだろう。
製作 大映
監督 増村保造 原作 川口松太郎