越前竹 (たけ) 人形 1963年 (昭和38年) 邦画名作選
竹細工職人の喜助は、かつて父の世話になったという遊女の玉枝と出会い心惹かれる。
やがて喜助は金を工面して玉枝を身請けし、二人は結婚する。
しかし喜助は玉枝に母の面影を感じ、妻であるその肌に触れようとしなかった。
玉枝は一心に竹人形を作る喜助に献身的だったが、その幸せも長くは続かなかった。
ある日、喜助の竹人形を仕入れるため、京都から竹細工問屋の忠平が訪れる。
応対した玉枝は、好色な忠平に手篭めにされ身ごもってしまう…。
越前の一寒村に住む若き竹細工職人と芦原の遊女上がりの妻との儚くも哀しき恋の物語。
雪国を舞台に綴られる一途な愛を、名匠・吉村公三郎が詩情豊かに描き出した文芸大作。
生身の人間と交渉が持てず、竹の人形だけにしか情熱を注ぎこむことのできぬ喜助。
妻の玉枝すら、彼にとって美しい竹人形以上の存在になることはできなかったのだ。
限りない母性への憧れゆえに、喜助の愛は肉欲を離れ、越前竹人形の中に具現する。
喜助の玉枝への純愛は、人形という性を超えた崇高な存在として結実したのである。
前年、水上勉原作「雁の寺」で好演した若尾文子が、再び水上文学のヒロインに挑んだ。
映画化にあたり、水上勉は、自ら玉枝役に若尾を指名し、作品の出来栄えにも満足した。
若尾の演技は、嘉助の貞淑な妻・玉枝とともに、昔馴染みの男とくつろぐ際の遊女の垢を
落としきれない玉枝とを巧みに演じ分けている。
製作 大映
監督 吉村公三郎 原作 水上勉