芸者小夏  1954年(昭和29年)     邦画名作選

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小夏(岡田茉莉子)は、伊豆の温泉芸者の子に生まれた。

小学校では芸者の子は肩身が狭い。

でも、担任の久保先生(池部良)は、かばってくれた。

憧れの先生であり、初恋だった。

芸者には、なりたくなかったけれど、結局、芸者になった。


ある夜、造船会社の社長・楠見老人(御橋公)からお座敷がかかった。

お座敷に急ぐ途中、小学校時代の担任の久保先生に出会った。

久保先生は、小夏とあらぬ疑いをかけられて学校を辞めさせられたのだ。

先生は、今夜はお前を帰さないぞと言うが、お座敷があるので別れを告げた。

でも、大好きな先生と、これで終りかと思うとたまらない気持ちになった。


やがて身請けされた小夏は、楠見老人の東京近郊の妾宅に移った。

妾宅での生活は、退屈で息がつまりそうだった。小夏は若さを持てあましていた。

ある夜、不運続きの久保先生がわびしい姿でやって来た。

お互いに相手の境遇に同情はしても、どうすることも出来なかった。

路上で、火のような接吻をすると、久保先生は、そのまま帰って行った。



1952年(昭和27年)新潮社から出版された舟橋聖一の同名小説の映画化。

ダンナにすがらねば生きてゆけない温泉芸者の子として生れた小夏の宿命を描く。


温泉芸者とは、湯治客の酒宴の相手をしたり、時には色も売るという地元の芸妓である。

戦後間もない混乱期の時代は、まだ多くの人々が生活に困窮していた。

こういう生き方しかできなかった女性が少なからず存在しており、そこでは、
社会の安定上、彼女たちの商売も合法とされていたのである。


物語は、会社社長に囲われている元温泉芸者のヒロインが、以前から思いを寄せていた
教師と再会して希望を抱くのだが、現実はなかなか思い通りにはいかない。


ヒロイン小夏役の岡田茉莉子が、諦めざるを得ない女の哀しさを、清楚なエロティシズム
を見せながら、生き生きと演じている。

岡田にとって初の単独主演となった本作は、演技派女優への脱皮を果たした出世作ともなった。


相手役の池部良が、二枚目であるだけが取り柄の、金も力もない無力な若い教師を演じている。

1957年「雪国」の島村役もそうだったが、無力な色男は、まさに池部良のハマり役といえる。






  製作  東宝

  監督    杉江敏男   原作  舟橋聖一

  配役    小夏 岡田茉莉子 延千代 中北千枝子 神岡らく 杉村春子
      久保先生 池部良 花勇 北川町子 きみ荘の女将 沢村貞子
      楠見老人    御橋公        若子    紫千鶴        川島課長   森繁久彌 

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