虞美人草   1935年(昭和10年)     邦画名作選
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首席で大学を卒業した小野清三(月田一郎)は、研究所に通いながら、博士論文に取り組んでいる。

東京に単身で暮らす彼は、家庭教師に出ている金持ちの娘・藤尾(三宅邦子)に気に入られている。

そしてあわよくば、彼女の家へ婿に入れそうだという目論見が、小野にはあるのだった。

だが彼は、恩師である井上の娘・小夜子(大倉千代子)を妻に娶るという口約束を交わしていた。

子供の頃、哀れな孤児であった小野は、井上に養育されて大学にまで行かせてもらった。

だから、恩があり義理がある彼は、ぜひとも井上の娘と結婚しなくてはならなかったのだ。

だが一方で、美人で金持ちの藤尾に心惹かれる小野は、義理と人情の板挟みに苦しむのだっだ。



1907年「朝日新聞」に連載された夏目漱石の同名小説を溝口健二が映画化。


主人公の青年・小野は、恩師から学資の面倒を見てもらい、大学へ進学した。
そんな恩義がある彼は、恩師の娘・小夜子を妻に娶る約束もしていた。

だが大学を卒業した彼は、我儘だが美貌の女性・藤尾に惹かれていく。
小野の心は、二人の女性の間で揺れ動くのだった。


夏目漱石の原作では、才色兼備で奔放な女性・藤尾がヒロインであった。

もともと藤尾の役にキャスティングされていたのは山田五十鈴だった。
しかし、おめでたで出演不可能となった。(子供は、後の瑳峨三智子)


主人公の小野を演じた月田一郎が、その旦那というのが笑わせるが、これが
気難しい溝口健二の機嫌を損ねてしまった。


そこで溝口は、漱石の原作を改変して、清純で控えめな女性・小夜子をヒロイン
として、小野の小夜子に対する裏切りに焦点を当てた作品に作り上げている。


結局、溝口お得意の、エゴイストの男と裏切られた女という物語の構図となったが、
小夜子に扮した大倉千代子が絶品で、琴を奏でる奥ゆかしい日本女性を演じている。



 
 
 
  製作   第一映画    配給 松竹キネマ

  監督   溝口健二    原作  夏目漱石

  配役    小野清三 月田一郎 藤尾の母 梅村蓉子
      甲野藤尾 三宅邦子 宗近一 夏川大二郎
      井上小夜子 大倉千代子 甲野欣吾 武田一義
      井上孤堂 岩田祐吉 宗近の妹・糸子 二条あや子

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