母の初恋  　1954年（昭和29年）　　　　　邦画名作選

                                     

湘南に住む佐山（上原謙）は、かつては著名な劇作家として名を馳せた人物である。

彼は妻の時枝と共に、養女・雪子（岸惠子）を実の娘のように愛情を注いで育てた。

雪子は、佐山の初恋の女性、民子（丹阿弥谷津子）の娘だった。

民子は二度の不幸な結婚の後に病死したのだった。

佐山の親友、高浜（志村喬）は、雪子の婿候補に若杉（小泉博）を寄こす。

雪子には、佐山への思慕があったが、周囲の愛情に見守られて、若杉との結婚を決意する。




1940年、雑誌「婦人公論」に掲載された川端康成の同名短編小説の映画化。


雪子は、血の繋がってない父・佐山に思いを寄せているのだが、胸に秘め続ける事しかできずにいる。

佐山や妻の時枝は、雪子を娘のように扱ってくれている。

雪子は、時枝は優しくしてくれるものの、佐山の愛を独占している者として嫉妬をしていた。


だがこれは雪子の悲恋というよりも、もともと結ばれない宿命の恋であった。

やがて彼女は、内心の激しい感情を強い意志で踏みにじり、若杉のもとに嫁ぐ事を決意する。

そんな雪子の報われない純愛の顛末が、観る者の心に独特の哀感を残すのである。


 
 
　製作   東宝

  監督   久松静児　　原作　川端康成