花の生涯     1963年(昭和38年)       ドラマ傑作選

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安政七年(1860年)三月三日、桃の節句というのに季節外れの大雪が降った。


井伊直弼(尾上松緑)を取巻く空気はいよいよ不穏となり、不吉な前兆がいくつか現れる。

朝、直弼がツヅミを打てばそれが破れ、乱れた髪にクシを入れるとそのそばから髪が乱れた。


不吉な思いにかられた長野主膳(佐田啓二)らは、登城を代理の者に代えさせようとしたが、

直弼の決心はかたく、供をそろえて藩邸を出る。


雪はいよいよ激しく、桜田門外に直弼のかごがさしかかると、一人の浪士が直訴状を

差出しながらカゴに近づき、護衛に切りかかった。その直後、一発の銃声が鳴り響いた。


すると、待伏せていた水戸浪士達は、合図の銃声とともに直弼の一行に襲いかかった。

激しい斬り合いとなり、浪士の撃ったピストルの銃弾が直弼の乗る籠に当たり、直弼を直撃する。


「いま死んではならぬ。国家百年の計が定まるまでは、わしは死なぬ…」ともだえ死んでゆく直弼。

争いが収まった白雪の桜田門には、一行と浪士たちのなきがらが、紅に染まって横たわっていた…。





幕末動乱期の大老・井伊直弼の生涯を描いた大型時代劇。

原作は、1952年、毎日新聞に連載された舟橋聖一の同名小説で、脚本の北条誠は、舟橋の親友。


「映画に負けないドラマを作って、視聴者を惹きつけよう」という意気込みで始まったこのドラマが

いわゆる大河ドラマのスタートとなった。


出演者は、井伊直弼に尾上松緑、長野主膳に佐田啓二、三味線の師匠・おたかに淡島千景、

そのほか香川京子、八千草薫ら大物ぞろいだったが、当時はまだテレビを軽蔑している俳優が多く、

出演者を口説くのが大変だった。


たとえば、松竹の看板スター・佐田啓二の出演承諾を得るのに三か月あまりかかったという。

ロケも多用し、衣装やセットも豪華なものを使ったので「札束番組」といわれてしまった。


ちょうど映画スターのテレビ出演禁止が、緩み始めていたことや、VTRが使用可能となったこと

なども幸いしている。


本作は、折からの歴史ブームもあり、最高視聴率32.3%を記録するなど大ヒット作となった。

これ以後、大河ドラマは、啓蒙色の濃い国民的歴史劇として定着していった。



(制作)NHK(原作)舟橋聖一(脚本)北条誠

(配役)井伊直弼(尾上松緑)長野主膳(佐田啓二)村山たか(淡島千景)秋山志津(香川京子

雪野太夫(岩崎加根子)昌子の方(八千草薫)佐野竹之助(沼田曜一)有村治左衛門(山形勲

関鉄之介(江見俊太郎)多田一郎(西村晃)多田帯刀(田村正和)松平肥後守(花柳武始)



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