生きとし生けるもの 1934年(昭和9年) 邦画名作選 |
伊佐早靖一郎(大日方伝)は、鉄鋼会社の労務課に勤めるサラリーマン。
楽しみにしていたボーナス日に、思いがけない大金が転げ込んだ。
百円札が一枚余計にボーナス袋にまぎれこんでいたのだ。
間違いとは知りつつも、彼はついその金に手をつけてしまう。
弟の学校の月謝や、破れていた靴を買ってやったりした。
だが、会計係の民子(川崎弘子)が、上司に責任を問われてしまう。
そのために彼女は、月々五円ずつ弁済させられているという。
それを知った靖一郎は、さすがに良心の痛みを感じるのだった。
1926年「朝日新聞」に連載された山本有三の同名小説を五所平之助が映画化。
結局、靖一郎は、民子にすべてを打ち明けて許しを請う。
民子も一時は怒ったものの、お互い社会の波に漂う木の葉のような貧しい会社員、
やはり責めることなど出来なかったのである。
ボーナスの支払いミスを発端にした群像劇で、昭和初期の貧しいサラリーマンの
哀歓を巧みに描き出した作品。
ヒロインを演じた川崎弘子は、1929年(昭和4年)松竹蒲田に入社した若手女優。
その哀愁を帯びた端正な顔立ちは、メロドラマのヒロインにうってつけで、
本作でも、不幸な境遇にじっと耐える健気な経理事務員を好演している。
製作 松竹
監督 五所平之助 原作 山本有三
配役 | 伊佐早靖一郎 | 大日方伝 | 曾根周作 | 斎藤達雄 | |||||||||
菅沼民子 | 川崎弘子 | 曾根夏樹 | 小林十九二 | ||||||||||
伊佐早令二 | 花村千恵松 |