女優須磨子の恋
1947年(昭和22年)
邦画名作選
大正初年、坪内逍遥、島村抱月(山村聡)らが主宰する演劇研究所が発足した。
第一回公演はイプセンの「人形の家」に決定したが、まずは女優探しが火急の課題に。
そんな折、抱月は、夫を捨てて家を飛び出した所員・松井須磨子(田中絹代)に出会う。
まるで劇の物語を地で行くかのような彼女の素性に、興味を覚えた抱月は、ヒロインを
演じられるのは彼女をおいて他にはないと確信し、須磨子を主演女優に抜擢する。
彼女の熱演により公演は見事成功。これを機に、抱月と須磨子は固く結ばれる。
大正時代の新劇草創期に、名声を馳せ、一世を風靡した女優・松井須磨子の半生を描く。
妻子ある抱月と須磨子の恋愛は、周囲から理解されず、世間の非難を浴びることになった。
須磨子は、抱月との愛を守るために研究所を辞める。
抱月も坪内逍遥のもとを去る決意をし、地位も家族も捨てて二人は芸術座を旗揚げする。
理想と現実の狭間で、二人は資金集めのために、厳しい地方巡業の旅公演を続けた。
だが道半ばにして抱月は急死。須磨子も抱月への思慕断ちがたく、後追い自殺する。
松井須磨子は、実在の名女優だが、私生活では、気性の激しい奔放な女性だったという。
そのひたむきな情熱ゆえの哀しい最後が胸を打つ。
田中絹代が、その一途で激しい生き方を大熱演している。
また島村抱月を演じた山村聡は、この当時、国民新劇場(旧・築地小劇場)で活躍していた
新劇俳優であった。
その知的な風貌から、島村抱月の役に抜擢されたのだが、重厚味のある堅実な演技を見せて、
スクリーン上に大いに存在感を示した。
製作 松竹
監督
溝口健二
原作 長田秀雄「カルメン逝きぬ」
配役
松井須磨子
田中絹代
いち子の母・せき
東山千栄子
島村抱月
山村聡
抱月の娘・ハル子
朝霧鏡子
坪内逍遙
東野英治郎
逍遙の妻・せん
岸輝子
抱月の妻・いち子
毛利菊江
中村吉蔵
小沢栄太郎