家族熱 1978年(昭和53年) ドラマ傑作選
朋子(浅丘ルリ子)は、杉男(三浦友和)が小学生の頃、黒沼家に嫁いできた。
杉男とは、ひとまわりしか歳の違わない朋子は、20歳の時、謙造(三国連太郎)
のもとに、前妻と入れ替わりに、嫁いできたのだった。
それから13年、朋子は、テキパキと家事をこなし黒沼家を切り盛りした。
そんなある日、思いもよらず夫や息子たちが前妻の恒子(加藤治子)と
会っていることを知り落胆する。
後妻として幼い子どもたちを育て、舅姑の世話をし、尽くしてきた朋子にとっては
耐え難い裏切りだった。
「母さんは家を出た方がいい」杉男は離婚をすすめ、朋子は黒沼家を出た。
本作は、後妻として嫁いで13年たったヒロイン(浅丘ルリ子)の前に、突然前妻が現れ、
そこから家族に波紋が広がっていく物語。
脚本の向田邦子によると、本作は旧約聖書の「ロトの妻」の挿話にヒントを得たという。
悪徳のソドムの町を滅ぼそうと神は火を放つ。神は燃え盛る町を背にした善良なロトという男に
「一度も振り返らずに家族と走り去れば助かる」と教える。
だが、ロトの妻だけは後ろを振り返り、瞬時に塩の柱にされてしまった。
彼女が振り向いた理由が「家族熱」、つまりいままで住んでいた町とか、縁者とか、その町での
記憶とか、そうしたものへの執着が「家族熱」で、それが彼女を振り向かせたというのだ。
こうした未練や執着は、ひとつの病に近い熱病であるとして「家族熱」と表現したのである。
本作「家族熱」は、家に縛られた前妻と後妻を中心にしたドラマであり、女というものはどうしても
「家」に執着してしまう生き物なのだ、という事を言っている。
とりわけ「ロトの妻」に当たる役柄は前妻のほうで、かつての幸せな家庭と妻の座への未練に狂う
前妻の妄執を加藤治子が迫真の演技で魅せている。
(制作)TBS(脚本)向田邦子
(主題歌)ローズマリー・クルーニー「クローズ・ユアー・アイズ」
(配役)黒沼朋子(浅丘ルリ子)黒沼謙造(三国連太郎)片桐恒子(加藤治子)黒沼杉男(三浦友和)
黒沼竜二(田島真吾)黒沼重光(志村喬)尾崎松子(宝生あやこ)梅沢時子(吉行和子)
門倉(伊藤孝雄)島田イズミ(風吹ジュン)