剣光桜吹雪 1941年(昭和16年) 邦画名作選 |
徳川十代将軍家治の世、老中・田沼意次の悪政を憂う松平越中守定信(河部五郎)は、
意次の子・山城守(北龍二)が、世継ぎである豊千代君の養育を預かるのが心配であった。
山城守は、己の意のままになる軟弱な主君に育てるべく一計を謀っていたのだ。
松平定信は、気骨ある松平外記(嵐寛寿郎)を、西の丸に送り、政治の粛正に乗り出させた。
外記は豊千代君の寵を得たが、松平の腹心と知れると次々に田沼一派からの弾圧が加えられる。
だが、深く決する心のあった外記は、田沼一派に対し、遂に義刃を振るうのであった。
松平外記は、本名を松平忠寛といい、江戸城内で刃傷事件を起こした実在の人物として知られている。
その顛末は、風紀を正そうとするも、田沼一派の旗本たちの度重なる侮罵に遭い、ついに鬱憤抑えられず、
旗本たちを、城内で斬り殺し、そしてその責任を取って、自らも自害して果てたのだった。
江戸城の刃傷事件といえば、浅野内匠頭が有名だが、松平外記の場合は、殿中で刃傷沙汰を起こしながらも
松平家はお咎めは無し、一方、殺された側の旗本は、所領没収という裁定がなされている。
これは事件を吟味した幕府が、殺された側の非を認め、松平家に温情を示したためだとされている。
映画は、腐敗を一掃すべく意を決した後、妻を実家へ帰し、父とは最後の杯を酌み交わし、静かに一人
殿中へ向う松平外記を、嵐寛寿郎が悲壮感たっぷりに演じている。
河部五郎の貫禄のある松平定信も得難い存在感があり、ほかに滝口新太郎の凛々しい豊千代君をはじめ、
香川良介、小川隆、北龍二といった助演陣も、それぞれ適役であった。
また女性陣では、外記の貞淑な妻を演じた月宮乙女、妹を演じた深水藤子の可憐さが印象に残る。
製作 日活
監督 菅沼完二 原作 白秋詩路
配役 | 松平外記 | 嵐寛寿郎 | 松平越中守定信 | 河部五郎 | |||||||||
父・頼母 | 香川良介 | 豊千代君 | 滝口新太郎 | ||||||||||
妻・園絵 | 月宮乙女 | 田沼山城守意知 | 北龍二 | ||||||||||
妹・浪路 | 深水藤子 | 田沼主殿頭意次 | 小川隆 |