帰郷 1950年(昭和25年) 邦画名作選
戦時中、公金横領の罪を一人で被り、軍籍を捨て、外地を放浪する守屋(佐分利信)は、
日本占領下のシンガポールで知り合った左衛子(木暮実千代)と一夜を共にする。
だが再び逢うことを拒んだ守屋は、左衛子に不審者として憲兵に通報されてしまう。
敗戦後、帰国した守屋は、成長した娘・伴子(津島恵子)と再会する。
それは彼を忘れられない左衛子の尽力によるものだった。
かつての憲兵が、民主主義者になっている戦後のどさくさの中で、身の置き場所を
見出せない守屋は、日本を去る決意をするのだった。
1948年(昭和23年)毎日新聞に連載された大仏次郎の同名小説の映画化。
木暮実千代が、佐分利信扮する元海軍の軍人・守屋を慕う妖艶な女性を演じている。
戦時中、シンガポールで料亭を経営する彼女は、守屋と知り合い、彼を愛するように
なるが、拒まれてしまい、その腹いせに彼を憲兵に売り渡す。
戦後帰国して再会、罪を詫び、一切を捨てて結婚を求めるが、再び拒まれるという
女・左衛子を、情感をにじませ好演している。
主人公の守屋恭吾(佐分利信)は、帰国したものの、妻は一人娘を連れて再婚していた。
守屋は、妻や娘の幸せを守るには、自分が日本にいてはいけないと悟る。
彼は、懇願する左衛子(木暮)を、仕組んだトランプ勝負で負かし、一人去って行く。
佐分利の硬派な個性を活かした戦後日本批判と、妖艶な木暮が受け持つメロドラマ的
要素が見事に融合した佳篇に仕上がっている。
なお劇中、父親(佐分利)と娘(津島)が出会う舞台となった京都の苔寺(西芳寺)は
映画の公開後、一躍観光名所となった。
製作 松竹
監督 大庭秀雄 原作 大仏次郎