霧の港 1923年(大正12年) 邦画名作選 |
霧の深い港町、船宿の女主人・お常(市川春衛)は、蓄財のほかに何の楽しみも持たない守銭奴だ。
その娘・お葉(沢村春子)は、船宿に長逗留している船員の勝次(森英治郎)と相愛の仲である。
ある夜勝次は、無銭飲食で酷い目に遭わされている老水夫(山本嘉一)を救けて、宿へ連れて来る。
だが夜中に叫び声がして駆けつけると、何と救けてやった老水夫が、お常の金を狙っていたのだ。
裏切られた勝次は、カッとなって、その性根の直らぬ老人を一撃のもとに殺してしまった。
朝霧の中を、駐在所へ自首してゆく勝次と、それを見送るお葉の姿が、静かに霧の港に消えてゆく。
ノーベル賞作家ユージン・オニールの戯曲「アンナ・クリスティ 1921年」を翻案した作品。
監督は、デビューまもない溝口健二。貧しい老水夫と義侠心に富んだ若者との悲惨な運命を描く。
本作は、サイレント映画だが、字幕を一切使わず、映像だけで物語を語りきることに成功している。
主人公の船員と老水夫、船宿の母娘の四人を登場人物とする一幕物の舞台劇を思わせる本作は、
霧の港を背景にした映像美と相まって「日本映画の黎明期を代表する佳篇」と絶賛された。
主演の森英治郎は、坪内逍遥門下の新劇俳優だったが、1920年(大正9年)招かれて日活に入社。
見事な演技力で主演俳優として活躍したが、1923年の震災を機に日活を退社、舞台活動に復帰した。
ヒロインの沢村春子は、1921年、松竹「路上の霊魂」でデビュー。1923年(大正12年)日活へ移籍。
その愁いを含んだ淋しげな表情から、多くの悲劇のヒロインを演じ、天性の悲劇女優と謳われた。
のち時代劇に転じて「新撰組 1925」など数多くの作品でオールド・ファンにその存在を印象付けた。
製作 日活
監督 溝口健二 原作 ユージン・オニール
配役 | お常 | 市川春衛 | 船員・勝次 | 森英治郎 | |||||||||
娘・お葉 | 沢村春子 | 老水夫・仙吉 | 山本嘉一 |