張子の寅八(阪東妻三郎)は、酒と博打と喧嘩が大好きな大井川の川越人足。
ある日、人を化かす狐が出没すると聞いた寅八は、退治してくれると森の中へ。
しかし帰ってきた寅八の腕には狐ではなく人間の赤ん坊がスヤスヤ。
赤ん坊は狐が化けた姿で、今に正体を現すから見ておけと豪語する寅八。
しかし、夜が明けても、赤ん坊は赤ん坊のまま…。
一度は捨てようと森へ行くが、結局捨てられず、寅八が育てる羽目に。
敗戦の年に制作された、洒脱な時代劇を得意とする丸根賛太郎が演出した人情喜劇。
暴れ者で大酒飲みの寅八は、ひょんなことから捨て子を育てることになる。
最初は厄介がっていた寅だったが、育てていくうちにいつしか情がわく。
やがて酒と博打からすっかり足を洗い、捨て子の良き父親になろうとする。
そんな寅八に女房を迎えてやりたいと相談する仲間たち。
相手は居酒屋の看板娘・おとき(橘公子)
しかしおときの父親は、刺青者の寅に娘はやれないと言う。
それから七年、実はその子供はある大名の妾の子だったことが分かる。
阪妻の表情豊かな演技と、魅力ある脇役達、心に沁みる感動作に仕上がっている。
笑いあり涙ありの物語は、敗戦直後で打ちひしがれた日本人を大いに力づけたに違いない。
物資不足と検閲が厳しい中、制作陣の心意気と底力がひしひしと感じられる一作である。
阪妻に想いを寄せる居酒屋の娘・おときを演じた橘公子は、当時絶大な人気を誇った時代劇女優である。
昭和11年、日活に入社。同年「嫁入り前の娘達」で、一年先輩の原節子との共演でデビューを飾る。
昭和14年、嵐寛寿郎と共演した「三味線武士」のヒットを機に、時代劇女優として資質を開花した。
戦時統合で大映に移籍後も、時代劇で活躍し、阪東妻三郎、市川右太衛門らの大御所と次々に共演。
だが、戦後に役柄を広げるため独立プロに移籍しようとしたことで会社の怒りを買い、大映を退社。
その後復帰したが、端役に甘んじることになり、以降は、彼女の美貌が活かされることはなかった。
残念であると同時に、何かとしがらみの多い当時の閉鎖的な映画界の実態が垣間見られるのである。
製作 大映
監督 丸根賛太郎
配役 | 寅八 | 阪東妻三郎 | 丑五郎 | 光岡龍三郎 | ||||||||||
おとき | 橘公子 | 質屋蜂左衛門 | 見明凡太郎 | |||||||||||
善太 | 津川雅彦 | 賀太野山 | 阿部九洲男 | |||||||||||
松屋容斉 | 原健作 |