沓掛時次郎 1929年(昭和4年) 邦画名作選 |
沓掛時次郎(大河内伝次郎)は一宿一飯の恩義から、何の怨みもない六ツ田の三蔵を斬る。
彼は息も絶え絶えの三蔵の口から、身重の妻・おきぬと子供の太郎吉のことを頼まれる。
時次郎は、二人を無事に実家へ送り届けることを約束する。
太郎吉はすぐ時次郎になついたが、おきぬ(酒井米子)は時次郎が憎くて仕方がなかった。
だが、親身になって二人を労わる時次郎に接するうちに、おきぬの心にも変化が現れる。
1928年、文芸雑誌「騒人」に掲載された長谷川伸の同名戯曲の映画化。
股旅物のはしりとなった名作で、本作を皮切りに戦前戦後を通じ、何度も映画化されている。
時次郎は、やくざの義理でやむなく斬った相手の女房と子供の世話をしながら、旅を続ける。
映画には、今夜の泊まる宿もない、という流浪の無宿者の貧しさ、悲しさが全篇に溢れている。
そんな厳しい現実に傷つきながらも、時次郎は、その女房を助けているうちに、彼女を愛する
ようになり、熱い思いに導かれて、やくざの足を洗おうかとさえ思うのだ。
本作は、やくざな男が旅で出会った女によって精神的な転機を得るという点で、従来の侠客もの
には見られなかった「女性を守ろうとする男の心意気」をテーマにした作品となっている。
ヒロインの酒井米子は、1920年(大正9年)日活向島に入社。
これまで女役は「女形」が演じていた日活の女優第一号として知られる。
当初は現代劇で活躍、純情可憐型ヒロインとして売り出す。
1923年(大正12年)日活京都に異動後は芸域を広げ、時代劇の女王と称された。
製作 日活
監督 辻吉郎 原作 長谷川伸
配役 | 沓掛時次郎 | 大河内伝次郎 | 大野木百助 | 寺島貢 | |||||||||
六ツ田の三蔵 | 葛木香一 | 苫屋半太郎 | 尾上桃華 | ||||||||||
女房・おきぬ | 酒井米子 | 磯目の鎌吉 | 藤野龍太郎 | ||||||||||
倅・太郎吉 | 尾上助三郎 | 中ノ川玉五郎 | 実川延一郎 |