村の花嫁 1928年(昭和3年) 邦画名作選 |
ある村に、お静(八雲恵美子)という美しい娘がいた。
彼女の婚約者の謙一(石山龍嗣)は、村の模範青年だ。
彼は、海軍の水兵だが、ある日、休暇で戻って来る。
その日、出迎えに行ったお静は、馬車の事故で怪我をし、障害を負う。
謙一はお静に、障害者になっても、心は変わらないと言う。
知り合いの行商人・研安が、お静を町の病院に連れて行ってくれた
だが泊まった町の宿屋で、研安はお静の魅力に引かれて彼女を犯す。
その噂が村中に広まり、お静は村八分にされてしまう。
謙一は、お静に直接問いただすが、お静はただ泣くばかりである。
世話役の勧めで、謙一はお静の妹(田中絹代)と結婚する事になる。
村人たちは、模範青年が貞操を失った女と結婚する事を望まないのだ。
お絹の嫁入りの日、家に残ったお静は研安からの手紙を読む。
研安は自分の罪を後悔し、償いに北海道の養鶏場で労働しているという。
お静は、手紙から研安の誠意を感じ、勇気を奮い起こして、共に働こうと
決心するのであった。
映画の公開前、この最後の研安の手紙の部分は、検閲によって全て削除された。
女を犯した男が、手紙で詫びるだけで許されるのは、以ての外という理由である。
不幸な出来事で不具になったヒロイン・お静は、不可抗力によって貞操を
奪われたばかりか、非道にも村人たちに軽蔑されてしまう。
だが、お静は、そんな悲惨な状況のなかでかえって、他人の視線に負けない
自分の判断を持つようになる。
五所平之助は、ただ弱者を哀れに描いて同情させるのではなく、いかに封建的な
境遇の中でも、その封建性に負けない自我が目覚めることを表現したかったのだ。
本作に限らず、戦前は心無い検閲によって、多くの作品の重要な場面が削除され、
元の作品の味わいは、伺うべくも無くなってしまっているのである。
製作 松竹
監督 五所平之助
配役 | 床屋の甚兵衛 | 武田春郎 | 長沼謙一 | 石山龍嗣 | |||||||||
姉娘・お静 | 八雲恵美子 | その母・お芳 | 高松栄子 | ||||||||||
妹娘・お絹 | 田中絹代 | 行商人・研安 | 星光 | ||||||||||
末弟・正次 | 小藤田正一 | 村の世話役・茂作 | 新井淳 |