宮本武蔵 1929年(昭和4年) 邦画名作選 |
武蔵は、幼名は弁之助。作州宮本村にて、剣術道場の師範代・新免無二之助の子として生まれる。
父の厳しい稽古を受け、幼い頃より剣の腕を磨く。だが父は、弁之助が元服する前に病で没する。
弁之助が十三才の時、有馬喜兵なる兵法者が矢来を組み、高札を立てて試合の者を求めていた。
無二之助に試合を申し込むため道場を訪れたが、既に亡くなっていたため、代わりに弁之助と勝負する。
有馬は、弁之助の挑発に乗り、真剣で切りかかるが、逆に討ち果たされる。
やがて弁之助は、宮本武蔵と名乗って武者修行の旅に出る。
旅先の街に、瀬川一光斎(香川良介)という剣客がいた。
妻に去られ、娘小萩(伏見信子)、忠僕平助(瀬川路三郎)と淋しく暮らしている。
例年の奉納試合が迫っているが、相手の勝川三五兵衛(林誠之助)という剣客には到底勝てそうにない。
忠僕の平助は、主人を助けてくれる剣客をさがし、旅の途中の武蔵に出会って助けを求める。
武蔵は、一光斎の代理として、勝川と立ち合うことを承諾するのだが…。
片岡千恵蔵が、後の当たり役となる宮本武蔵を初めて演じた作品。これは吉川英治の小説の新聞連載が始まる
1935年(昭和10年)以前であるから、もちろん「吉川武蔵」ではない。
物語は、千恵蔵扮する若き武蔵が、修業の旅で出会う女たちとの悲恋を描いたもので、これまでの武蔵もの
にはない抒情的な味のある作品である。
千恵蔵以前にも、尾上松之助、沢村四郎五郎など、多くの歌舞伎役者によって、武蔵が演じられてきたが、
それまでの武蔵は、生涯無敗の剣豪として語られてきた。
本作では、武蔵が旅先で出会った二人の女との淡い恋という、歌舞伎や講談にはない要素が加味されている。
武者修業と敵討ちという、従来の剣豪ものが古くさくなったとき、こういったラブロマンスを絡ませる
ことは、やはりちょっとした新味だったのだろう。
なお吉川武蔵においても、お甲・朱実母子という、一方は純情可憐、他方は色っぽい年増から惚れられること
などは、本作の設定を踏襲しているものと思われる。
ただし、剣豪というものは、決して恋に溺れたりはしないという武士道の理念があるので、せっかく可憐な女、
色っぽい女が出てきても、ともに悲恋に終わってしまうのは、武蔵のつらいところである。
製作 千恵蔵プロ 配給 日活
監督 井上金太郎 原作 林義子
配役 | 宮本武蔵 | 片岡千恵蔵 | 老僕平助 | 瀬川路三郎 | |||||||||
父・無二之助 | 嵐旺松郎 | 勝川三五兵衛 | 林誠之助 | ||||||||||
瀬川一光斎 | 香川良介 | 女曲芸師・右近 | 酒井米子 | ||||||||||
娘・小萩 | 伏見信子 | 山崎三四郎 | 大沢一角 |