謎の人形師   1929年(昭和4年)     邦画名作選
直線上に配置                                      

向島の人形職人・弥伝次(大河内伝次郎)は、もと北町奉行所の同心だった。

召捕った多くの罪人たちから「八丁堀の鬼同心」と恐れられる存在であった。

そんな捕物名人だった弥伝次が、ある時ふっつりと同心の職を退いてしまった。

上役と意見の食い違いがあったとの噂もあるが、はっきりした事情は分からない。


ある日、日本橋に立ち寄った帰り、川堤を歩いていた弥伝次は、辻斬りを目撃する。

立っていたのは、宗十郎頭巾に黒い着流しの浪人者。血に濡れた刀を引っ提げている。

足元には袈裟懸けに斬られた町人の姿があった。凄まじい居合の斬り口であった。


弥伝次と目を合わせた辻斬り浪人は、嘲りの笑いと共に脅迫じみた言葉を発した。

「望みとあらば相手になるが、今の居合斬りを見たろう、それでも懸かって来るか!」




1928年(昭和3年)大衆雑誌「キング」に連載された時代小説家・佐々木味津三の同名小説が原作。


舞台は幕末乱世の文久年間。八丁堀の同心・小見山弥伝次(大河内伝次郎)は、幕府に歯向かう
勤皇の志士たちを一網打尽に召し捕り、天下無双の捕物名人と称えられる。

だが、井伊大老の命による安政の大獄以来、過酷で情け容赦のない志士召し捕りに疑問を抱き、
町方同心の職を辞し、向島の人形造り職人として新たな人生を歩み始めるのである。

だが、北町奉行所の同心主席・高岡与四郎(新妻四郎)は、お上から暗殺の任務を請け負う。
物語は、勤皇方に寝返ったとされ、元同僚たちから命を狙われる弥伝次の悲劇が描かれる。


主演の大河内伝次郎は小柄な体格だったというが、その殺陣の迫力が凄まじく、彼の存在感の
大きさを際立たせている。

映画のクライマックスでは、髪はザンバラ、血まみれのまま障子をぶち破り、板の間を転がる
という大熱演を繰り広げる。

だが、残念な事に本作は、現在ではフィルムが散逸し、数分の断片が残るのみとなっている。



 
 
 製作   日活

  監督   志波西果  原作 佐々木味津三

  配役    人形師・弥伝次 大河内伝次郎 辻斬り・隼権之進 小林重四郎
      芸妓・蝶次/役者・扇弥 伏見直江 弥伝次の母 伊藤すえ
      藤村七弥 楠英二郎 弥伝次の妹・葛江 伏見信子
      高岡与四郎 新妻四郎 渋川三左衛門 葛木香一

直線上に配置