人情紙風船 1937年(昭和12年) 邦画名作選
舞台は、江戸深川の貧乏長屋。
主人公の又十郎は、紙風船の内職をしている、しがない浪人である。
ある日、長屋仲間の新三から、娘をひとり預かってくれと依頼される。
だが、預かった娘・お駒は、新三が身代金目当てに、誘拐してきた娘だった。
やがて新三は番所に捕まるが、娘を預かった又十郎も片棒をかついだとの嫌疑を受ける。
夫の身を恥じた女房おたきは、包丁で又十郎を突き、自分も喉を突いて倒れるのだった。
河竹黙阿弥の歌舞伎狂言を題材に、三村伸太郎が脚色、山中貞雄が監督した長屋ものである。
貧乏長屋を舞台に、住人たちの食うや食わずの、その日暮らしの生活が丹念に描かれている。
日中戦争が勃発してまもない時期に封切られた本作は、善良だが落ちぶれた一人の浪人の悲劇を、
当時の不安な世相にあえぐ庶民たちの現実に、重ね合わせているところに作品の妙がある。
監督の山中貞雄は、撮影中に赤紙がきて、封切り後の映画をみることもできず、戦病死した。
まだ29歳の若さだった。戦争は、日本のすぐれた映画人をも奪い去ってしまったのである。
映画のラストは、紙風船が水に浮かぶ物悲しいカットで終わっている。それは人生の儚さを
象徴しているようでもあり、また山中自身の生涯の儚さをも象徴することにもなってしまった。
豪商の箱入り娘・お駒を演じた霧立のぼるは、少女歌劇から映画界に転じた東宝の看板女優である。
1937年、東宝入社、同年の「美しき鷹」では、同じ少女歌劇出身の轟夕起子と競作している。
そのエキゾチックな美貌からお嬢様役が多かったが、健気に耐える薄幸の女や、気丈な娘役もこなした。
1930年代後半、霧立のぼる、轟夕起子など少女歌劇出身者がこぞって映画会社に女優として引き抜かれた。
無声映画からトーキーの時代となり、発声の基礎訓練が出来ている舞台経験者が求められたためである。
製作 東宝
監督 山中貞雄
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配役 |
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海野又十郎 |
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河原崎長十郎 |
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大家長兵衛 |
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助高屋助蔵 |
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毛利三左衛門 |
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橘小三郎 |
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女房おたき |
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山岸しづ江 |
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お駒 |
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霧立のぼる |
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弥太五郎源七 |
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市川笑太朗 |
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髪結新三 |
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中村翫右衛門 |
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忠七 |
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瀬川菊之丞 |
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百蔵 |
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加東大介 |