折鶴お千 1935年(昭和10年) 邦画名作選 |
雨の万世橋駅。上りも下りも遅れが生じ、待合室には人がごった返していた。
その中でお茶の水病院に勤務する医師秦宗吉(夏川大二郎)は、神田明神の森を
眺めながら思いにふけっていた。
彼はかつて、田舎から医師として成功せんと上京したが、かなわず自殺しようと
していたところ、お千(山田五十鈴)に救われる。
彼女は、悪徳古美術商・熊沢(芝田新)に囲われている女だった。
その後は、宗吉もまた、熊沢の店でこき使われることになる。
しばらくたって熊沢が捕まり、二人の生活が始まった。
だが、金が底をつき、宗吉を立派な医者にするため身を売るお千。
お千は警察に捕まってしまい、二人は別れ別れになる。そして歳月は流れる。
そして今、雨の万世橋駅。待合室で急病人が発生し、診察する宗吉。
その急病人はなんと、変わり果てたお千であった。
1920年、文芸雑誌「人間」に掲載された泉鏡花の短編小説「売色鴨南蛮」の映画化。
溝口健二最後の無声映画であり、恵まれない境遇の女が精一杯生きていく姿を描く。
当時18歳の山田五十鈴が、その凄絶な妖艶さで女の哀しみを演じ切っている。
この作品以降、溝口は「浪華悲歌」「祇園の姉妹」と、傑作を連発していった。
これらの作品に登場するヒロインは、気性の激しい、しかし運命と苦闘する女である。
しかも、それを長いワンカットで劇的状況を高めてみせている。
溝口は、厳しい映画を創る厳しい監督として定評があった。
山田五十鈴、田中絹代など、彼の映画にしばしば出演した女優は、非常に少ない。
それは彼女たちが、わがままで厳しい溝口の演出によく応えたからであった。
製作 第一映画 配給 松竹キネマ
監督 溝口健二
配役 | お千 | 山田五十鈴 | 甘谷 | 鳥井正 | |||||||||
秦宗吉 | 夏川大二郎 | 松田 | 藤井源市 | ||||||||||
熊沢 | 芝田新 | 盃の平四郎 | 北村純一 | ||||||||||
浮木 | 芳沢一郎 | お袖 | 滝沢静子 |