父子草(おやこぐさ) 1967年(昭和42年) 邦画名作選
京成電車の踏切近くのガード下に、小さなおでん屋台「小笹」がある。
その「小笹」は、女将・竹子(淡路恵子)が女手ひとつで切り盛りしている。
そこに毎晩、近くの飯場にいる土木労働者の義太郎(渥美清)が呑みに来る。
酒癖の良い客ではない。いつも夜勤前の晩飯を食べにくる苦学生と喧嘩したりする。
その日も、義太郎と学生の茂(石立鉄男)とは、些細なことから喧嘩になった。
だが、若い茂に敵うはずはなかった。翌日もまた、義太郎のぼろ負けであった。
三日目、その日は、義太郎がいつまで待っても、学生の茂は姿を現さなかった。
しばらくして、美代子(星由里子)という娘が、おでんを買いにやって来る。
彼女は、茂と同じアパートに住んでいるという。
どうやら昨日の喧嘩でびしょぬれになった茂は、風邪で寝込んでしまったらしい。
その話を聞いた義太郎は「おでんを鍋へたくさん入れてくれ」と女将に頼むのだった。
全国の飯場を渡り歩く中年労務者と、貧しい勤労浪人生との心の交流を描く。
戦地から帰還した義太郎(渥美)は、妻が弟と再婚してしまったため、故郷に戻るに戻れず、
全国の飯場を渡り歩く日々であった。
ある晩、屋台で隣り合わせた学生の茂(石立)に絡んだ義太郎は、取っ組み合いの喧嘩になる。
しかし、茂が仕事と勉強の両立による過労で倒れたと知ると、代わりに学費を稼ごうとする。
義太郎は茂に、故郷に残してきた息子を重ね合わせていたのだった。
戦争の影がまだ残っていた時代。シベリア抑留中の行方知れずになっている間に、日本の妻が
再婚してしまっていて、帰国後、やむなく身を引くといった悲劇も多かったという。
本作は、このような実話を基にして、木下恵介が脚本、丸山誠治が映画化した作品である。
主要な登場人物は、渥美と石立、そして二人を見守る女将・淡路と、娘・星由里子の四人だけ。
物語もほとんど、おでん屋の屋台周辺で展開するという一幕物の舞台劇を思わせる本作は、
芸達者な四人の名演と相まって、しみじみとした人情の機微に溢れた作品となっている。
製作 東宝
監督 丸山誠治