シャツの店 1986年(昭和61年) ドラマ傑作選
東京・佃のオーダーシャツ専門店の主人・周吉(鶴田浩二)は、仕事一筋の頑固な職人。
昔気質の不器用な男だが、精いっぱい家族を支えてきたつもりだった。
ところがある日、妻と息子が周吉に対する日頃の不満を爆発させて、家を出てしまう。
弟子の昭夫(平田満)も「親方は周りの人間の気持ちを無視している」と手厳しい。
周吉は突然の事態に、内心激しく動揺しながらも、強がって平静を装うのだった。
一方、妻の由子(八千草薫)は、息子の秀一(佐藤浩市)とアパート暮らしを始める。
そして小料理屋で働きながら、ひそかに周吉が折れてくるのを待つことにした。
妻と息子が家を飛び出し、寂しい思いで仕事を続ける初老のシャツ職人の悲哀が描かれる。
主人公の周吉は、飛び切り腕のいいシャツ職人なのだが、性格は亭主関白で封建的。
妻の由子は、夫の周吉のシャツ作りの手伝いをしながら、家事も一人でやっている。
ある日、夫への積もりに積もった不満が限界に達し、息子と共に家を飛び出してしまう。
周吉は平気を装うものの、実際は困り果ててしまう。本当は妻に帰ってきてほしいのだが、
男のプライドもあり、口に出して言えない。
ドラマは、ある日突然反乱を起こして飛び出して行った妻への愛と、男としての誇りの間で
揺れ動く初老の男の内面がユーモアたっぷりに描かれる。
なお本作は、主演の鶴田浩二生涯最後の作品となった。
鶴田が演じた下町のシャツ仕立屋主人・周吉の姿は、不器用だが誠実さと律義さに富み、
かつてなく鶴田自身に近い人物を演じて、新たな境地を示した矢先であった。
(制作)NHK(脚本)山田太一
(配役)磯島周吉(鶴田浩二)磯島由子(八千草薫)磯島秀一(佐藤浩市)里見昭夫(平田満)
宇本賢次(井川比佐志)村川知子(美保純)村川重彦(杉浦直樹)時子(松本留美)