男はつらいよ 知床慕情 1987年 (昭和62年) 邦画名作選
知床にやって来た寅次郎は、その地で獣医の順吉(三船敏郎)と出会い意気投合する。
そんなある日、順吉の娘・りん子(竹下景子)が東京から戻ってきた。
結婚に破れて傷心の里帰りだったが父親・順吉は冷たく迎える。
戻ってきた娘に優しい言葉ひとつ掛けられず、むしろ不本意な皮肉を言ってしまい、
そんな自分自身にイラつく不器用な父親。
その様子を横で見ていた寅次郎は「はぁ〜だからダメなんだよ」と、順吉を責める。
一方、順吉は、居酒屋のおかみ・悦子に魅かれていたが、気持ちを言い出せずにいた。
恋のベテランを自認する寅次郎は、煮え切らない順吉の態度にしきりに苛立っていた。
そんな中、悦子が店をたたんで、故郷へ帰ると言い出した。
順吉は、それに反対するのだが、面と向かって言えない。
「勇気を出して言え。今、言わなかったら、一生死ぬまで言えないぞ」と、寅が促す。
「それじゃあ、言ってやる」順吉は両手を握り締め、言葉を搾り出す。
「俺が帰っちゃいかんという理由は、俺が、俺が惚れているからだ、悪いか!」
それを聞いた悦子の目に、みるみる涙が溢れる。
「本当に言っちゃったよ…」寅次郎が驚いたようにつぶやく。
寅次郎が長いこと言いたくても、一度も言えなかったことを、順吉は言ったのだ。
そしてそれを言えた順吉を、心底うらやんだ寅次郎であった。
シリーズ第三十八作目。北海道の知床を舞台に、無骨な獣医と居酒屋のおかみを結びつける寅次郎の奮闘を描く。
寅さんとマドンナ竹下景子の恋に加えて、三船敏郎と淡路恵子という渋いカップルの恋愛模様が描かれる。
恋に悩む男の恋愛指南を何度も務めてきた寅次郎だが、自分より年上の男を助けるのはシリーズ初である。
昔気質の口下手な三船敏郎に、ウブな男子学生のような告白をさせてしまうクライマックスは何とも痛快。
この作品で三船は日本アカデミー優秀助演男優賞を受賞、自身の晩年の代表作となった。
制作 松竹
監督 山田洋次