太陽の季節    1956年(昭和31年)       邦画名作選

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高校生の津川竜哉はボクシングと酒と女と喧嘩に明け暮れる日々を送っていた。

仲間たちと銀座に出た竜哉は英子と知り合い、二人は逗子にある竜哉の家で結ばれる。

二人はデートを重ねるが、竜哉はだんだん英子のことが煩わしくなり、
兄の道久に英子を五千円で売り飛ばす。

だが英子はすでに竜哉の子供を身ごもっていた。



芥川賞作家、石原慎太郎の同名小説を、古川卓巳が脚色・監督。

本作の後に公開された「狂った果実」とあわせて「太陽族映画」と称された。
原作者の実弟である石原裕次郎のデビュー作としても知られる。


妊娠四ヶ月の英子は、思いあまって中絶の手術をするが、それが失敗して死んでしまう。
英子の死は、竜哉の曖昧な態度によって、中絶の時期が遅れたことが原因だった。

葬式に出かけた竜哉は、祭壇に飾られた英子の写真に、焼香の壺を叩きつけて叫ぶ。

「あんた達には何も判っちゃいないんだ!」

何が判っていないのか、判っているのは竜哉が、いかに身勝手で卑劣な男だという事だけだ。

本作品に描かれた「女性蔑視、人命軽視」の表現は、大きな社会現象を巻き起こしたのである。




  製作  日活

  監督  古川卓巳  原作 石原慎太郎

  配役    津川竜哉 長門裕之 幸子 東谷暎子 サッカー選手 石原慎太郎
      兄・道久 三島耕 江田 佐野浅夫 バンドマスター 岡田真澄
      英子 南田洋子 伊豆 石原裕次郎

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石原慎太郎と「太陽の季節」


「太陽の季節」は、無秩序な青春を送る高校生の恋愛を描いた小説である。

この小説は、石原慎太郎が一橋大学在学中に発表し、芥川賞を受賞したことで、
立ちどころに世間の注目を浴びた作品であった。


といって、それはかならずしも作品がすぐれていたからではなく、作中人物の
倫理性に欠ける生き様が、社会的に騒然たる非難の嵐を捲き起こしたのである。

石原慎太郎は一躍流行作家になったが、それに腹をたてた人々は、彼が光栄ある芥川賞
を受けたことを不思議に思い、自分たちは時代遅れなのだろうかと思ったりした。


当時、芥川賞の選考委員の一人であった作家・石川達三は、次のように講評している。

「芥川賞は完成した作品に贈られるものではなく、
すぐれた素質をもつ新人に贈られるものだと私は解釈している」


終戦から、さほど年月の経過していない、まだ人々は貧しく封建的な風潮が残っていた
時期に生まれた、まさに時代を画するような刺激的な作品であった。

まだ倫理観や古い道徳観に縛られた人が大勢いた当時、現代社会にも通じる無軌道な
若者を赤裸々に描き出したこの作品は、やはり先見の明があったといえるのだろう。