藤十郎の恋 1938年(昭和13年) 邦画名作選 |
上方歌舞伎の坂田藤十郎(長谷川一夫)は、人妻と密通する役柄を演じる事となったが、
その役作りに苦労していた。
藤十郎は、かねてから自分に思いを寄せていた未亡人・お梶(入江たか子)に偽りの恋
をしかけ、役の工夫をなしとげる。
だが、藤十郎の告白が偽りと知ったお梶は、芝居の初日、首を吊って自害する。
お梶の死を知った藤十郎は、大きな衝撃を受ける。彼は心の中で「芸のためだ」と
力強く繰り返しながら舞台に向かうのだった。
1919年(大正8年)「大阪毎日新聞」に連載された菊池寛の同名小説を山本嘉次郎が映画化。
芸道の完成のためには、他人の不幸をも非情に突き放し、名声を得るための道具として利用する。
だが最後の最後で、やはり人の心を捨てられず、己の罪深さを思い知った芸人の苦悩が描かれる。
本作「藤十郎の恋」公開の半年前、主演の長谷川一夫が、ヤクザに襲われ、カミソリで
顔を斬られる事件に巻き込まれる。
この当時、東宝が破格の契約金で、長谷川を松竹から引き抜いたため、ヤクザは松竹が
雇ったに違いない、との世間の噂が立った。
警察もこの機会に、映画会社と暴力団の癒着を徹底的に糾そうとしたのだが、事件は結局、
そのヤクザの個人的な犯行だとして結着した。
それは被害者の長谷川自身から、事件の背後関係を深く追及しないでくれ、との請求が
あったためだった。
長谷川の顔の傷は、意外によく治り「藤十郎の恋」は無事、公開の運びとなった。
顔の傷はどうなのかの興味もあり、封切りの日から押すな押すなの長蛇の列だった。
この件で、双方の会社の顔を立てた長谷川は、大いに男を上げることになった。
製作 東宝
監督 山本嘉次郎 原作 菊池寛
配役 | 坂田藤十郎 | 長谷川一夫 | 亀屋菊右衛門 | 汐見洋 | |||||||||
お梶 | 入江たか子 | 万太夫座若太夫 | 御橋公 | ||||||||||
近松門左衛門 | 滝沢修 | 銀主八幡屋 | 小杉義男 | ||||||||||
金子吉左衛門 | 藤原釜足 | 中村四郎五郎 | 市川朝太郎 |